魔法はディザイア?

 俺は高校二年の一般男子・新藤晴一しんどうはるひと

 魔王討伐の為に召喚され、聖霊エリの力を持ったエリスと共に魔王を倒した。

 その功績を認められエリスと言う彼女(?)を手に入れた。


 そして最近俺は、原初魔法ロストマジックと言った魔法を会得すべく鍛錬を行っていた。

 毎日毎日、言われた以上の練習をずっと続けた。

 それは自分の中にある雑念を振り払うかのように、一心不乱に。

 ―――期待してた本が、ダビとかヴィー誕でショックだったからじゃないよ断じて。


「しっかしキミ」


 で、通常より早く魔法の発現に至る事が出来た

 調子よく、その後もトントン拍子で進むかと思えば―――


「思った以上にセンスないねぇ?

 どうして発現で止まってしまうかな」


 師匠トゥリからの容赦ない一言。

 その言い方は地味に凹むからな、まじ加減して欲しい。


「そうは言ってもなぁ。

 風、火、水の順で発動して、そこからまた風に戻ったら何で風の威力上がんの。

 まずそこがわかんねーんだケド」


「その辺はそうだからしか言えないな。

 イメージを強く描き、魔力を送ると勝手に増幅する」


「アバウト過ぎるわ」


 と、俺と契約した妖精こと魔法の師匠もこんな調子だ。

 本日も日課の討伐などを終え、図書館に籠っては魔法の練習をしているが最近行き詰っていた。

 ずっと練習をしているが、次の段階に全く進めない。

 恐らく、俺の覚えが悪いのだろう。

 そして毎日ひたすらグーパーグーパーエアハンドグリップしてるせいか、腕が少し筋肉質になってる。

 違うそうじゃない。

 鍛えたいのは筋肉では無いんです。

 魔法習得したいのに、筋肉鍛えてるとかほんと情けない。

 まぁ幸いな事はエリスに見られてない事かな。

 ……あの子は聖霊エリの力で古い本を浄化しかねないとかで、ここには入れないらしい。

 

「一応細かな原理としてはまず、指の動きで風を起こす。

 そして起こした風を利用し、風の魔法を発生させる。

 そこから火を煽り、熱で昇った蒸気を水にし、水が揮発した勢いで風を煽り……と、繰り返しだ。

 3循環トリリアントと呼ばれる魔法基礎。

 まずこれを習得しなければ魔法は使えない」


「その通りやって全然ダメなんだが」


 溜息を吐いては風、火、水と手の中で展開する小さな魔法を見つめる。

 吐息くらいの弱い風、マッチの灯火ほどの火、締めが弱い蛇口から落ちるような水。

 順に俺の手の中で発生はするそれらはあまりに弱々しく、お世辞にも魔法とは呼び難い。


「まぁそう悲観する事も無い。

 キミはこの世界に来て数ヶ月ではないか。

 今まで魔法とは無縁の世界で生活していたにも関わらず、早くも属性発現には至った。

 逸る気持ちはわかるがじっくりやりたまえ。

 そう考えればセンスはあるのだ」


「……さっきセンスねぇとか言ってたの誰だよ」


「どちらの言葉も本心さ」


 本を椅子に小人はそう嗤う。

 しかしこう言いながらも、コイツのお陰で基礎魔法を使えるようになった。

 今まで装備に頼りきりだった自分としては、とても大きな一歩だ。

 だからこそ余計にもっと魔法が使いたい、そんな衝動が止まらない。

 やっぱ魔法と言えばアニメみたいにこう、ブワーってカッコよくやりたいじゃん?

 ……しかしスラリンやエリスが使ってたレベルの魔法は、まず無理だ。

 習得に数年、更には微精霊との契約が前提などの面倒が色々あるらしい。

 なので異世界人の俺は、皆みたいな魔法は扱えないらしい。

 何とか習得出来て、生活普及魔法くらいだとか。 


「異世界のクセにややこしいよなぁマジ」

 

 何か打開策は無い物かとおもむろに魔法の本をパラパラめくる。

 しかし本に記されてるのは、トゥリの言っている基礎をややこしく書いた内容ばかり。

 もしくは魔法に関する歴史や、元になった呪いの事ばかりだ。


「……そいや魔法も良いケド、性別の変え方に関しての話はいつ教えてくれるんだ?」


 呪いの項目ではたと思い出す。

 最近魔法の事ばっか考えてて、すっかり忘れてた。

 何やってんし俺。


「性別を変える魔法は現状無いぞ。何を言っている」


「……は?」


 思わず耳を疑う。

 今なんて???


「今、そう言った魔法はこの世に存在せんな。

 魔族の魔術にそう言った類がもしかすればあるかもしれんが、ワテは知らな―――

 いだだだだだ!?

 ちょ、切れる! 捩じ切れるから雑巾みたいに捩じ……あひぃいいいいい!」


「おかしいな?

 俺と契約した内容って、性別を変える魔法について教えてくれるだったよな?」


「は、話は最後まで聞きたまえ勇者よ!

 無いとは言ったが、無理とはまでは言っていない!

 変える方法はあるハズ……ある!」


 その言葉で俺ははたと手を止める。

 しかし苦し紛れに適当言ってそうな気もするが……。

 続きがあるようなのでとりあえず聞く事にする。


「ま、魔法とはそれを求める者が居た故に出来たのだ。

 人は鳥のように飛翔する事を望み、風魔法を基礎に飛翔魔法を作った。

 盾のような守りを望み、3属性を用いた防壁魔法を作った。

 奇跡のように傷を癒す事を願い、水を基礎に回復魔法を作った」


「……と言う事は?」


「魔法とは、言うなれば何かを起こす為の道具だ。

 そして無いとわかっているならば、いっその事だ、作ってしまえば良いとは思わんかね?」


 俺の手から解放されたトゥリはご自慢の悪趣味ハットを整えつつ、そう向ける。

 確かにそうだ。

 何でもすぐに頼る事はダメだって、アマハバで気付いたハズじゃないか。


「ってそうは言うケド、どうやって魔法とか作るんだよ」


 と、感化されるも束の間ですぐに俺は冷静になる。

 そんな簡単に出来るならエリエットたちが作ってるハズだ。

 騙されんぞ。


「まぁまぁ落ち着きたまえ。

 今ある現代の魔法全ては原初魔法ロストマジックから生まれているのだ。

 その昔、回復魔法など夢物語と言われていたが300年前、水魔法を基礎に作られた。

 そう考えれば不可能ではないと思わんかね?」


 確かに読み漁った本にそう言った内容が書かれていた覚えがある。

 昔は回復魔法が存在せず、それを研究する人間は愚か者とまで言われていたらしい。

 だが長年の研究の末に、水魔法をベースに様々な魔法を織り交ぜ、回復魔法が出来たと本にあった。


「でもよ、回復魔法が出来るまで相当かかったって本にあったぞ……?」


「それは現代魔法インスタントマジック化するのに時間がかかっただけさ。

 回復魔法自体は300年前、発案されて1年経たずして出来上がった。

 しかしそれを一般に広める為の、スペルと言う形式化に手間取っただけなのだ。

 それに異世界人は想像力に長けていると聞く。

 となれば、魔法を作るのはキミが適任だろう?」


「確かにそう言われれば出来そうな気も……でもよ、知識も無い俺が作るって難しくね?

 トゥリが作るのじゃダメなのかよ」


「ワテは本に書かれた知識はあっても、長年生きているせいで頭が固い。

 故に新たな閃きには乏しく、どうしても奇抜な発想に欠ける。

 そして何より、原初魔法ロストマジックで魔法を作れる程の魔力も現状無い。

 なぁに心配するな。

 キミならきっと出来るさ」 


 不安を口にしてみるが謎の期待を向けられてしまい、思わず返答に詰まる。

 そんな期待されても不安しかないんだが。

 しかし想像力ねぇ……。

 妄想力なら負ける気はせんが、如何せんエロ限定なんだよなぁ。

 しかも俺の妄想なんて役に立つとは思えんのだケド。

 

「とは言え、この魔法の芽ゲルメンを出せるようになって貰わねばならん。

 確かにキミは風の属性と相性が良い。

 しかし何事も安定した基礎が無ければ始まらぬ。

 そして一極した力は確かに強力ではあるが、行き詰った際に脆くも崩れる。

 故に今は、下積みをきちんと作る事に専念したまえ」


 その言葉は痛いほど胸に刺さり、焦りを諌められた。

 ゲルメン……。

 まずアレを3つ扱えるようにならなきゃいけないのか。


「…………聞けば聞くほど、先長そうなんだが」


「いつもの生意気さはどうした。

 たった数ヶ月でそこまでレベルを上げた勇者が、何を弱気になっている。

 短期間でそこまでの実力をつけ、魔王を倒したのであろう?

 自分の積み上げてきた経験を信じろ。

 自身の助けとなる物は、過去と言う経験にこそ隠れているのだからな」


 トゥリの言葉に俺は手の中のを見やり、そう言われてもなと捻くれる。

 そして本日の魔法訓練も一切成果は得られず、そのまま一日が終わった。

 



□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □




「エリスってさ、魔法3属性どうやってマスターした?」


 夕食を終え、国王を交えて自室でデザートを食べてる中、ふとそんな事を投げかけた。

 エリスはゼリーをモゴモゴしながら、きょとん顔でエメラルド色の眼をまん丸と。


「……急にどうされたんですか?」


「いやさ、魔法の練習してるけど全然ダメだからどうしたら良いんかなーって」


 俺はスプーンを咥えながらそう打ち明ける。

 トゥリの教え方は原理に付いてわかりやすく、とても理解しやすい。

 だが、実技が絡むと途端に漠然としてくるのだ。

 恐らく感覚で習得させる為にそう言ったスタンスなのだろう。

 しかしその曖昧さが何とも歯痒く、焦りを抱える原因にもなっていた。


「ほっほ、勇者よ。

 そなたはそこまでの高レベルでありながら、魔法を学ぼうとするとは勤勉じゃのぉ」


「今のままじゃ俺って、扱えるスキルってアマハバしかないですしね。

 ちょい前にエリエットに注意された事まんまなってるし、何か覚えねーとヤバいと思いまして」


 とりあえず性別を変える魔法を作るって話は伏せる。

 言えば国王も快く協力してくれて、スムーズに物事が運ぶかもしれない。

 運が良ければ俺なんかが頑張らなくても良くなると思う。

 でもそれじゃ駄目なのだ。 

 アマハバのみに頼り切りだった自分に、逆戻りするのは絶対に避けたい。

 

「そうですね……魔法は色々と知識が必要ですが、やはり一番はイメージだと思います」


「イメージ、か。

 読んだ本にもそう言った事があったケドさ、試してみてもダメでさ。

 嵐のような風を想像してーとか、燃え盛る炎を思い描いてーとか」


 ゼリーを口にしながらやってみた事を思い返す。

 トゥリも同じ話してたよなー。

 っつー事はもしかしてアレか。

 俺の想像力が悪いって事かね?

 ……妄想に関しちゃ2次で鍛えに鍛えたから、悪くないハズなんだがなぁ。

 もしかしてこれでもまだまだ足りんのだろうか?

 まぁこの世界に来てPCも無い。

 そう考えれば妄想力が衰えてる可能性はあるが……。


「んーっとそうですね……

 イメージでもそう言った事では無く、やりたい事を描くのです」


「やりたい事?」


「魔法と言うのは現象に沿って発生します。

 そして現象と人間の思考で一番干渉しやすいと言われているのが衝動であり、欲求なのです。

 その特性を利用し、魔法を発生させる仕組みになっているのですよ」


 エリスの説明に何となく理解する。

 しかし衝動や欲求で発動させるってどうやるんだ……?

 お腹が空いたっつっても魔法でどうにかなる訳も無いし。


「そうですね、もっと簡単に言いますと……すごく暑いから、涼しい風が欲しいなぁーとか。

 とても寒いので、暖かい火が欲しいとか。

 喉が渇いたからお水が欲しい、とか」


「ああ、だから欲求か」


「はい。ですのでそう言った欲求をイメージし、段々と魔法を増幅させるのです」


 その例えに『魔法とはそれを求める者が居た故に出来たのだ』、との言葉を思い出す。

 ……となれば強くそれを求めつつイメージすれば良いって事か。

 例えば水が飲みたい、水が飲みたい、水が飲みたい、水が飲みたい、水が飲みたい!


「はぁ!!」


 そんな想いを籠めて強く手を突き出す!

 が、


「……全然ダメなんすが」


 想いは届かず、腕が起こした風が虚しく吹いてはすぐに消えた。

 

「ま、まぁこればかりは一朝一夕で会得出来るものではありません。

 慌てずに、ね?」


 気を落す俺の手を優しく握り、エリスは優しく宥めてくれた。

 その言葉に自分は頷くも、情けなさを覚える。

 ケドまぁ、魔法を扱う為の細かな事がわかったし……良かったと思うべきか。

 そして俺はエリスの笑顔を前に安らぎつつ、沸き上がる想いを抑える。

 魔法には衝動と欲求かぁ。

 基本3属性をマスターする前に、エリスへ対しての衝動と欲求エロいきもちが限界来そうなんだケドどうしよ。

 ……日々募るそんな不安に、俺は目を閉じた。




□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □




「たまには息抜きも必要ですからね」


 後日、俺はエリスに誘われて城下町へと繰り出した。

 どうやらエリスの目から見て、俺が根詰めてるように映ったらしくデートに誘われてしまった。

 

「じゃあ買ってきますからちょっと待ってて下さい」


 大通りの途中にある、噴水広場に到着するとエリスはそう言って駆けて行った。

 何でもこの辺にある店のジェラートがおいしいらしく、それを食べさせたいと張り切っていた。

 しかし折角のデートなのに気を使わせる形になってしまい、我ながら情けない。


「そう言えば付き合ってるってのに恋人同士らしい事って、何もしてあげれてなかったな」


 はぁ、っと溜息交じりに噴水前のベンチへかけては、空を仰ぐ。

 正直な事を言えばエリスをデートに誘ったり、もっとイチャイチャしたい。

 しかしそうやって触れ合ったりなんだする度に、もっと色んな事をしたくなってしまうのだ。

 言ってしまえば、チューしたいとか……その先をしたいとか。

 ケドもあの子の体は男で、そう言った事を向けて良いんかな、と。

 

 エリスを女の子にするって目的がある為、最近どうしたら良いのかわかんなくなってた。

 トゥリは焦るなっつってたケド、どうしてもねぇ。

 最近特に思春期未満お断りなシチュがドンドン増えてる。

 エリスの朝の襲撃とか、時折来るエロエットメロンとか。

 現状はまだハァハァ程度でどうにかなってるケド、いつ限界来るかもわからん。

 焦るなって方が無理だわ……。


「ねーねーあとでさ、シマパ通りのアクセ見に行こうよー?」

「お前さっきもアクセ見てたジャン」

「良いじゃんかたまにはさぁー、ねー良いでしょー?」

「しょうがねーなー」


 ぼうっとしてれば目の前をカップルが過ぎて行く。

 なるほど、ここはリア充スポットの一つなんだな。

 よく見れば他にもペアが居るし、女の子同士でダベってるのも居る。

 

 ……あそこの子、結構可愛いな。

 まぁエリスには敵わないケド、顔も良いし服も可愛い。

 ほんとこの世界の女の子ってグレード高いよな。

 目の前過ぎてったカップルの女の子も、結構綺麗だったし。


「ハルヒトさーん。お待たせしましたー!」


 そんな感想を述べてるとジェラートを手に、海色の髪を揺らしながら笑顔で女神が声をかけてくる。

 白のスカートを風に靡かせ、大通りを小走りで駆けるその姿は周りの男たちの視線を奪う。 

 うん、やっぱエリスが最高に可愛いですわ。一強ですわ。

 ごめんよ。

 一瞬と言えど他の子を見てしまいました……。


「えへへ、運良く人気のジェラートがあったので思わず買ってしまって―――わわっ!?」


 ハワイアンなジェラートが入ったカップを俺へ渡しながら、エリスは声を上げる。

 何事かと目で追えばエリスのスカートが風に煽られ、中の白足が露わに。

 突然の事にエリスは咄嗟に空いた左手でスカートを押さえ、事無きを得る。


「……すいません急に風が」


「う、うん……ス、スカートだからな、仕方ないよな。

 エリスが買ってきてくれたジェラート、溶けちゃいそうだから食べよっか?

 うまそうだなコレ」


「は、はい、頂きましょう」


 そう赤面しながら、エリスは俺の横へと。

 俺は恥ずかしさを誤魔化し、大きな声でいただきまーすと言いつつ口に含む。

 ……が、先程のエリスの白足が脳内再生され、味に集中出来ない。

 膝枕で触れてたりしても、ああやって見える足ってまた違うんだなぁ。

 位置的に見えなかったケド、結構めくれ上がって腰元まで見えてたよな。

 ちょっと見たかったわ。

 ―――そしてそんな事を考えていると、下着が見えかけて恥ずかしむエリスが再生される。


「……ハルヒトさん?」


「い、いや、うおほぅ!? ジェ、ジェラートおいっすぃいいいいっ!!」


「わぁ!? そ、そんな一気に食べちゃ……」


 突然声をかけられ、俺は一気にジェラートを口に掻き込み……頭を突く痛みが走る。

 やっべ、アイス頭痛がキーンと来やがった。


「大丈夫ですか?」


 こめかみを押さえてるとエリスが心配そうに覗き込んでくる。

 やべ、心配させちゃったわ。

 ……と思うのも束の間、先程のエッチエリス映像がダブり、一気に脈が心臓を叩く。


「だ、だい、大丈夫大丈夫! ちょっとキーンと来ちゃっただけで―――」


「きゃぁあああ!?」


 そんな中、突然女の子の叫び声が上がる。

 何事かと顔を上げれば、


「な、何この風ぇ!? や、やだぁ!」


 真っ赤になりながら先程のカップルの女の子がスカートを押さえていた。

 どうやらまた強風が起きたらしく、スカートを煽るように吹き荒れている。

 ほう?

 白地に薄水色のストライプとはナカナカのご趣味で。

 彼氏さんのチョイスでしょうか?

 もしそうならば、彼とは良い盃が交わせそうである。

 

「キャァア!! や、やだ、ちょっとぉぉお!!」

「やぁあああっ!」

「い、いやぁあ! 嘘でしょぉお!」


 そんな観察をしているとまた風の被害にあった女性が出たらしく、悲鳴が上がる。

 一体何が! と確認すればこれまた綺麗な曲線に美しい下着の数々。

 わぉ。

 そこの君、甘ロリな服着てるのに下着はアダルトなんだね。

 でもそのアンバランスさ、嫌いじゃない。


「ハルヒトさん!?」


「ほうわっ!? 

 ち、ちち違うんですエリスさん、つい気になって見たら風でスカートめくれてパンツが見えただけで浮気とかそう言う訳じゃなくて不可抗力で」


「落ち着いて下さいハルヒトさん、どうして魔法を展開してるんですか……?」


「え」


 その言葉に我に返れば手の中で、シュルシュルと小さな風切り音が鳴る。

 視線をやればビー玉サイズの緑の玉が高速回転し、風を纏う。

 ―――何だ、コレ。

 いや、見た事ある。

 この玉、トゥリが魔法を見せる時に出してた……ゲルメンだ。


「って事はこれ、魔法……?」


「そうです!

 でもこんな規模、詠唱も何も無しに……ハルヒトさん、落ち着いて魔法を止めて下さい」


「と、止めっ、止め方とか知らないんだが!?」


「魔法発動のキーにした考えを止めるんです!」


「わかんないんだケド!?」


 エリスの言葉にパニックする中、噴水広場も大パニック。

 風が吹き荒れ、みんなモンローポーズでキャーキャー声を上げている。

 止まれ止まれと念じても変わらず、むしろ意識すればするほど勢いが増す。

 イメージしてないのに、何でゲルメンが発動するんだよ!

 よりにもよってエリスとデートしてる時に限って……

 練習してる時には全然進展なかったクセになんで、なんでこのタイミングなんだよ!


「くそ、止め方とか聞いてねぇよ……くそ!」


「大丈夫ですから、落ち着いてハルヒトさん、落ち着いて」


 エリスに宥められるも風は収まらず、ゲルメンを消そうと色々するがすぐに再生してしまう。

 そんな中、エリスが俺の手を握り、


「ああ……ずっと、我慢してたんですね……ごめんなさい」


 と小さく唇を噛み締めながらそう謝る。

 違う。

 違うんだ、エリスのせいじゃないんだ―――

 

 そう口にしようとするや否や、俺の体は引き寄せられる。

 そして握る手はするりと柔らかな部分へ持ってかれ、そこに籠った熱は火傷しそうなほどアツイ。

 気付けばエリスは俺の頭を赤子を抱くように胸へ抱き寄せ、自分はフリーズする。


「あ、あのエリス……さん?」


 熱の中でおもむろに指を動かせばピクンッとエリスは反応し、頭を抱き寄せた腕に力が入る。

 視線を向ければ……俺の手はこの子のスカートの中にいざなわれていた。


「自分の為に色々悩んでて、したい事も出来なくて……ずっと大変だったんですよね。

 もしどうしようも無くなったら、その、我慢しなくて、良いですから……」


 弱々しくそう耳元で囁かれ、俺は小さく返事をする。

 そして気付けば手の中の玉は消え、広場の風はそよ風に変わっていた。


「ご、ごめんエリス」


「勇者様の悩みを受け止めるのも聖女の務めですから、ね?」


 間近でペロっと舌を出してそう答えられ、俺は思わず顔が熱くなる。

 ……ヤバイ、色々バレてた?

 

「でも流石にこう言うのは公衆の面前ではマズイ、よな」


「あ、あはは。です、ね……」


 風は急な突風だったと勘違いされたのか、広場の女性たちはその場で髪や服を整えるとその場を去る。

 そして密着する俺らを興味津々でチラ見する通行人などが増え、俺らは身を離す。

 しかしあんなダイレクトにエリスのふともも触ったの、久し振りと言うか。

 もっとくっついてたかったケド、いつもと違うシチュで触れ合ったせいかどこか落ち着いた自分が居る。

 そんな事を考えながら右手を少し動かし、手の中に残る僅かな感触を惜しむ。


「にしても何で魔法が止まったんだ?

 止まれって何度もイメージしてもダメだったのに、どうしてエリスに触れて止まったんだろ」


「あ~……それはです、ね」


 俺の疑問にエリスは溶けたジェラートの入ったカップを手に、しどろもどろ。


「自分がジェラート買いに行ってる間、ハルヒトさんが他の子を見てた事に気付きまして」


 その言葉にドクリと心臓が打つ。

 同時に冷や汗がダラダラと顔を覆い、身が強張る。


「そして自分が戻ってスカートがめくれて、その後も、その……

 少しエッチな顔してて、風の魔法が起きたので原因はそれじゃないかなぁと思ったんです」


「……と、言いますと?」


「最近、膝枕も減ってますし、色々我慢しちゃって魔法が勝手に発動したなら、その……。

 自分と少しエッチな状態になれば、収まると思ったんです」


 ―――ああ、そう言う事か。

 この世界の魔法は『衝動』と『欲求』に影響して、発動する。

 要するに今回のは俺の『エロい欲求』に反応して風魔法が発動した。

 そんで、エリスのふとももへ直に触れて『エロい欲求』が満たされて、魔法が止まった。

 何てこたぁない。

 俺のエロが魔法を起こし、エロが満たされて魔法が止まった。

 ……おい、ただの変態やんけ。


「ごめんエリス、折角こうやって誘ってくれたって言うのに……」


「いえ、そう言う物を受け止めるのは聖女の務めですし……」


 エリスはこんな情けない事をやらかした俺を責めるどころか微笑んで返す。

 そして、


「あと、付き合っているのですから、そう言った物もキチンと向けて欲しい、かなとか」


 そう赤らみながらはにかみ、俺の恋人は少しばかりスカートをつまんで見せる。

 するとまた一瞬だけ悪戯な風が吹き抜けて、エリスの髪とスカートはふわりと靡く。

 エリスはその風の中で仔猫のように小首を傾げると、


「だからそう言った物は、全部自分に下さい、ね? 他の子に向けちゃ、ヤです……」


 エリスはまた小さく舌を出して甘い声でそう囁くと、風がまた彼女のスカートを揺らして返事をした。

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