Gカップ勇者とツンツン少女・前編

 俺は高校二年の一般男子・新藤晴一しんどうはるひと

 魔王討伐の為に召喚され、聖霊エリの力を持ったエリスと共に魔王を倒し以下略。


「……なんじゃコレ」


 どうも皆様おはようございます、どうお過ごしでしょうか?

 本日も私、新藤晴一しんどうはるひとはいつもの様に朝日を目覚ましに起床しました。

 昨晩、愛剣の新スキル2つを色々と試している内に寝ちゃって、あー寝すぎたわーってついさっき起きたんです。

 寝相が悪くて頭にちょっと剣がブッ刺さってましたケド、可愛い愛剣のスキンシップって事で気にせず、元気にニョッキリ体操中の我が息子をなだめなきゃねー、って起き上がったのです。

 するとですね、


「マイソードが居ないんですケド。家出してるんですケド」


 ウチの息子マイソード、紛失しちゃってるんですが。

 すいませんこの場合、どうしたら良いんですかね?


「あーもしもし、警察ですか?

 ウチの息子マイソードが無くなってしまってですね、ええ。

 この場合はどうしたら良いのでしょうか?

 紛失届ですか? 盗難届でしょうか?」

 

 ポリスメンにコールすれば、聞こえる自分の声がどっかのアニ声。……あれ?

 おかしいな。

 新しく解放したアマノムラクモってスキル、そんな隠し効果あったの?

 キミ、受けた属性を吸収するだけだったよね?

 しかも昨日何度使っても不発だったよね?


 っつーか髪も胸下辺りまで……あれ?

 いや、まぁそれは良いです。

 良くないケド、とりあえず良しとしましょう。

 問題はそこより我が視界にずっと映り込んでる、球状の物体ですよ。

 ふよふよしてて、ぽよんぽよん。

 興味本位に触れてみれば―――。

 

「……ひあぅっ!?」


 ナニコレ、ちょっと何かに当たったら凄くビリビリって走ったんですが。

 と言うか誰ですかね、私の胸に巨大マシュマロくっ付けた方は。

 あーこんな悪戯すんのは国王ですね?

 そうに違いない、間違いないですね。

 「夢の中でもケーキを食べたいのじゃぁ」

 とかほざいて、人のベッドをケーキまみれにしやがった、あのおっさんならやりかねません。

 絶対そうに違いないですわ。


「ふふっ、最近起こせていなかったので、久し振りに楽しみです」


 するとドアが静かに開き、小声で何か呟きながらエリスが部屋へと。

 おもむろに視線を向ければ、そこには彼シャツエリスさん。

 胸ボタン2つまで外し、萌え袖に下は下着1枚と言うパーフェクトスタイル。

 いつもならそのスラリとした白足と、シャツの裾のキュートゾーンでマイソードが元気に抜剣だが、本日は我が愛刀はうんともすんとも言いません。

 てかログアウト中。

 そしてサプライズがバレた可愛らしい俺の恋人は、こちらを見るなり、目を真ん丸と。


「あ、あれ……!

 おはようござ―――ハ、ハルヒト……さん? 

 …………その、姿」

 

 と、訊ねられるが答えられない。

 俺は寝惚けた頭で脳みそが追い付かず、返事が出来ない。


「勇者、勇者ぁあああ大変なのじゃ~!

 …………。

 ふぉおおぉモチモチおっぱい突撃じゃぁああああああああああ」


「おいテメ、国王、迷いも無く人の胸に突っ込んでくんな……コルぁああああ揉むなああああ!」


 やかましい来客が来たかと思えば、人の胸目掛けてベッドに突っ込んできやがった。

 おい国王。

 お前、ボールみたいな体系でその超反応はおかしいだろ。物理法則無視すんな!


「ハッ! エリエットに負けず劣らずのおちちを前に思わず。

 ってどうして勇者におっぱいが……まぁそれは良いとして大変なのじゃ!」


「人が困惑してる問題を短く終えないでもらえますかね!

 てか良くねーから、しかもさり気無く触ろうとしないで下さいっ!」


「でな、でな?

 北の地へ調査に行った異世界召喚師のカーラが、うっかり魔王に取り憑かれたんじゃよぉ!」


「色々突っ込みどころ満載だが、取り憑かれたって何やしてんだよあのおっさん……。 

 って行かないからなそんな顔しても知らないですからね!?

 っつーか俺の状態見て! 女体化してるから無理ですから!」


「どーせ行く事なるんじゃからぁ~早く聞いて? ね?」


「むしろその前に俺の話を聞いてくれませんかね」


 早朝から一気に目が覚める厄介事が部屋へ転がり込む。

 胸から引き剥がされた国王は、しょぼくれるといつもの椅子に腰かけるとくつろぎだす。

 またエリスのお気に入り椅子が悲鳴上げてるが……今はそれどころじゃないな。


「で、さっきの話じゃがのう~。

 北の魔王は東西南北を支配する中でも最強と呼ばれておる存在なんじゃ。

 そやつが最近、北方の果樹園を中心に略奪を始めて困っておるのじゃぁ~」


「すいません国王サマ。お断りと言う方向は?」


「他の勇者おらんしのぅ。

 なし崩しで行く事になるんじゃし、一緒一緒。

 もし行かぬのなら、そのモチモチおっぱいをもっと堪能させて欲しいのう」


「行く! 

 行きます行くから手をワキワキさせんな! すかさず触ろうとすんなっ!」


「しかし気を付けるんじゃぞぉ。

 北の魔王は全てを切り裂く能力を持ち、魔王の中でも最強と呼ばれておる。

 恐らく今までの魔王達とは比べ物にならん程に強敵じゃろう。

 心して挑むのじゃ……」




□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □




 そして俺達はすぐさま北の地へ渡り、魔王の居城へ向かう事となった。

 奴は北方の名産物を人々から悉く奪い、それらを使って城内で魔物達と好き放題に宴を開いていた―――。


「くっくっく……よく来たな勇者よ!

 我こそが北の地を治めし魔王、凍てつく刃の異名を持つ者!

 さぁ今こそ剣で全てを語り合おうぞ! 来るがよい!」


太もも聖水エリス付与剣斬りカリバーァアアアアア!」


「グワアアアアアア!」




□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □




 魔王討伐と異世界召喚師カーラの救出を無事に終え、俺達は王都へ戻った。


「勇者待って、色々待って。早すぎるから。

 1日で討伐とか日帰りツアーみたいにマッハされても、めっちゃ困るんじゃが。

 最強の魔王とか心せよとか念押しして送り出したワシの立場無いんじゃが」


 しかし魔王を倒しても俺が抱える大問題は解決していなかった。

 唐突の謎の女体化……。

 すかさず胸を触ろうとする国王に相談してもわからず、トゥリに聞いても原因不明だった。

 そしてダメ元でエリエットに相談してみる事に。


「西の魔王の魔力……と言うより魔術が勇者様の中に残ってるみたいねぇ。

 それが悪さしてるみたいだわぁ。

 どうしてそれが今になって発動したのまでは、流石にわからないけれど……」


「まじかよ……どうにか戻せね?」


「それなら簡単よぉ。魔王の魔力は聖女の聖霊エリと対極。

 エリスに膝枕して貰えば元に戻ると思うわぁ」

 

「あ、そっか」


 ……と言う訳でベッドの上でエリスに膝枕をして貰う。

 随分久しぶりだ。

 未だに東の森に通い詰めてるとは言え、レベルが上がって最近回復が必要無くなってるんだよな。


「な、何かこう……久し振りですね。」


「う、うん」


 改めて恥ずかしくなり、互いに目を逸らしてしまう。

 いや、これは元に戻る為だから!

 必要な事だから何もやましい事は無い!

 ああでもエリスのふとももやっぱええわ……最高ですわ。

 良い匂いなんじゃ柔らかいんじゃぁうへへ。


「しかしアレねぇ。

 パッと見、少女が2人いちゃついてる風にしか見えないから百合みたいねぇ」


「ぶ!? お、お前何を言い出して……」


「冗談よ冗談。

 にしても変ねぇ。そろそろ術が解けても良い頃だと思うのだけれど」


 取り乱す俺を余所にエリエットは訝しげに首を傾げは唸る。

 オイオイ。

 そんな難しい顔されると何だか怖くなってくるんだケド。


「あらぁ。魔力は消えたのに術特性だけが残ってる?

 いえ、これはむしろ吸収に近い反応の様な……

 勇者様、最近、何か変な事したか、もしくは何かされた覚えはないかしら」


「へ、変な事?

 昨日はいつも通り部屋でゴロゴロしてたわ」


 あとは寝る前に愛剣トツカの新スキル使ったくらいだが、何も起こらなかったしな。

 正直心当たりが全くない。

 

「サモシャが変に機能してるって感じでもないしぃ。

 困ったわね。

 一応その内、術が解けると思うけどぉ、3週間はそのままかも知れないわねぇ」


「さ、3週間!? マジかよ……どうにかできねぇか?」


「無理矢理戻す方法はあるにはあるけれどぉ、お勧めしないかしらぁ。

 血を抜いて、血中魔力を一度浄化したりする方法なのだけれど……最悪、命に関わるわよぉ?」


「そいつぁお断りだ」


 グロな解決方法を前に腕を大きく広げ、全身でお断りする。

 元に戻る為に命までは賭けたくない。


「そうなのですか……約3週間、なのですね」


「みたいだなぁ。

 早めに魔王倒して良かったと言うか……」


 そんな言葉を呟く中、俺を見つめるエリスの瞳が輝きを宿す。

 子供が宝物見つけた時みたいな無邪気な笑顔を浮かべて、どうしたんですかエリスさん?

 優しくほっぺに触れてくる手が何か、意味深なんですが。


「ま、まぁ暫くは大変だケド、大人しく部屋に引き籠って―――」


「いいえ駄目ですよ!

 そんな引き籠るなんて勿体無いです!

 こうしては居られませんよハル・・ちゃん!」


 籠城を決め込めるべく意思表明をしていればそんな言葉が。

 これはマズいと思ったが時既に遅し。 


「折角の機会です! 

 可愛いお洋服いっぱい探しに行きましょう! 街へお出かけしましょう!」


 我が天使マイエンジェルは俺の考えとは裏腹な、悪魔的提案を笑顔と共に向けてきた。




□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □




 ―――そして昼下がり、エリスと共に城下町で服屋を回る羽目に。

 正直、ちょっと店を回れば終わりとか思ってたんだが……


「ハルちゃんこれとかどうでしょう!

 さっき選んだスカートとお揃いで良い感じだと思うのですが!」


「あのエリスさん……その、流石に下着はですね?

 スカートの時点で色々不安と言いますか、スースーしまして」


「自分が穿いてる物と同じ丈です。

 スースーするのは慣れますし、大丈夫ですよ!」


「いや、そう言う話じゃ無くてですね?」


 甘かった。

 現在6件目のお店で服選びの最中に御座います。

 訴えの声を上げてもこの調子で聞いて頂けない。

 それどころかこの服はあの服は、と新しく選んじゃって手に負えない。

 どうすっかなぁ……この子こうなると止まんないんだよな。

 いつもの自分ならはしゃいで可愛いエリス見れて幸せ、で終わるんだが今はそうも言えない。


 さっきから店内の女性客と言う女性客がこちらを見て、通り過ぎて行く。

 ただでさえ女体化と言う後ろめたさがある中、心中穏やかではいられない。

 更にはこの下着コーナー。

 

 あぁまたメッチャ見てく……しまいには店員さんもこっち見てるやん。

 げんなりと肩を落せば胸がずしりと重みをかけてくる。

 そして無駄に大きな胸を包むブラは、その重みに耐え切れず歪むとアバラへ食い込む。

 ツライ、まじツライ。

 まじ痛い。

 着てる服も急遽合わせたんでアチコチのサイズが微妙に合ってない。

 特に胸が苦しいし、ほんと早く帰りたい。


「これはいけませんねお客様!

 やはりブラのサイズが合っていませんこれはよろしくない!」


「あひゃいぃっ!?」


 背後よりわしりと胸を鷲掴みされ、慣れぬ感触と摩擦を前におもっきり変な声が出る。

 誰だしこのお姉さん……ってさっきこっち見てた店員さん!?

 ちょ、揉まないでくすぐったいから、更に変な声出るから!


「サ、サイズ?

 エリエットさんと同じ位だから大丈夫かなと思ってたのですが……」

 

「お客様の姿勢がいくらか猫背なので、実際のサイズよりズレてしまったのでしょうね。

 あと触り心地からしてこのブラは特注品のようですし、アンダー辺りが特にズレていらっしゃるご様子。

 もし宜しければ私がブラをお選び致しますが、如何でしょう?」


「い、いえ……自分問題無いのでこ―――」


「すみません是非お願い致しますっ!」


 俺の主張はエリスさんに遮られ、抵抗する間もなくお姉さんに試着室へ連行された。

 ってーか下着とかどれでも同じだろ一体何を……。

 ちょい、何でお姉さんも一緒に入ってくんの!?


『それではお客様失礼致しますね!』


『ちょ、ま。どうして上脱がして―――

 待って、待ってって! その、直接は……あひゃぁああんっ!?』


 

 ―――そして数分後、お姉さんによる熱心なブラ講座が終わった。

 解放された俺はフラフラと放心状態で試着室を出る。

 お姉さんに上半身見られた上に、めっちゃアチコチ触られた上に、スゲー揉まれた上に色々された。

 もうヤダ。

 大事な何かを根こそぎ奪われた喪失感が重く圧し掛かって、凄く辛いんだが。

 こう言った初めては、どうせならエリスに全部奪われたかったんだが。


 ……そんなをふと考えてると、右手からふわりと風がそよぐ。

 ちょっと待って。

 わかる、わかるケドさ。

 だからってエロい事にすぐ反応すんのマジやめて、ぼくの風魔法さん。

 

 そして待っていたエリスを見れば、荷物を抱えたまま赤くなっている。

 少々前屈みになってるのは……多分きっと気のせいだろ。うん。


「そう言えばお客様、近々水着コンテストが開催されるのですがご参加とか如何ですか?

 お二方とも可愛らしいですから、きっといいとこ行くと思うんですよね」

 

 会計後にお姉さんがビラを渡しながらそんな事を言ってくるが、俺は生返事する。

 ああ、これで終わりだやっと帰れる……かと思えばそんな訳も無く。

 その後も色々な店を連れ回され、部屋に戻る頃には日がとっぷり沈んでいた。




□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □




 それから1週間後。


「海の無いこの国で水着とかどうなの?

 審査員を始めみな思っているかも知れませんこんな事。

 だがしかしそうじゃない……。

 海が無いからこそ求めるのだ見たいのだ可愛い子の水着をぉおおお!!

 普段は隠されたその肌を、実りを、そのたわわを見たいんだ!!

 そうだろお前らそうだろみんな!?

 って訳でさぁさぁ皆様待ちに待った水着コンテスト決勝戦、開っ幕!!」


 召喚師カーラによるマイクパフォーマンスで、雄叫びが熱気と共にステージを埋め尽くす。

 日差しよりも激しい観客の熱気と視線はステージに立つ俺達に向く。

 そんな空気に気圧された自分は恥ずかしさも相まって、思わず身が強張る。

 

 「ヒュー! ハルちゃんったら身体はナイスバディなのに初々しいねぇ!」

 「毎年エリエットのねーちゃんが優勝で飽き飽きしてたんだ! ハルちゃん頑張れよぉ!」

 「今年はハルちゃんと言い北国の色白美人と言いダークホースが多いなオイ!」

 「ハルちゃーん俺だー! こっちも見てくれー!」


 俺だー! って誰だよお前……。

 そんな事を思いながらも自分は注目される中、胸を覆う赤水着を無意識の内に押さえる。

 うう……裸の方がいっそマシなんだがコレ。

  

 俺ことハル・・は現在、例の水着コンテストに参加中である。

 実はあの店で貰ったビラをエリエットが目にしてしまい、厄介な事に。

 そして気付けばあれよこれよと言う間に、俺は水コンに参加する事になってしまった―――。

 どうしてこうなった。


「ハルちゃーん! 頑張って下さーい!」

「ハールー! 私の代わりに出てるんだから優勝しなきゃただじゃおかないわよぉ~!」


 自分に向く視線に恥ずかしさの余り胸を抱え込む中、審査席より声援が飛んでくる。

 顔を向ければエリスが手を振っており、思わず背筋が伸びる。

 

「そう言えば決勝戦の審査員で参加してるんだったわ」


 そんな事を思い出しながら俺は顔が緩む。

 ……エリスは白パレオか。

 ライトグリーンとアクアブルーの柄が良いアクセントになってて素晴らしい。

 色白なところに清楚な白とは流石だ。美しい。

 眼福。マジ眼福ですわ。


 続きましてエリエットさんはぁーっと、本日もこれまたヒモ―――

 いつもと変わらずの通常運転でしたね本当にありが以下略。


「通りで……妙だと思えばあの2人が関わっていたんですね」


 歓声がやかましい中、冷めた声が耳に届く。

 おもむろに視線を向けると、見目麗しいの一言を形にしたみたいな少女が俺を見つめていた。

 小麦色の艶やかな髪に、西洋人形の様な可愛らしくも綺麗な顔立ち。

 ちっさい頃に見たガラス細工の女神をふと思い出す、繊細な雰囲気。

 身に付けている水着も上品で、無垢を表現した様な純白色だ。

 

 俺は思わず見つめてしまい、視線が合う。

 すると彼女は碧瞳を鋭く細め、ついっと目を逸らした。



「それでは決勝戦を始める前に我が国を治めるこの国のトップ……

 イザーク国王様に一言をお願い致しましょう!」


「あーあーテステス、どうも国王じゃ。

 一言で言うならば女の価値はおっぱいで決まる。

 しかしそれはサイズでは無く、どう魅せるかじゃ。

 時に大胆に、時に淫靡に、時にお淑やかに、時に意味深に。

 今回の大会に参加しておる者たちはどうかその事を胸に戦ってほしい、おっぱいだけに。

 この世の全てのおっぱいに幸あれ!」


「いいぞーエロ国王!」

「ばかやろー! 女は胸より尻だろー!」

「おっぱい! おっぱい!」


 良い事言ったかと思えば中途半端な下ネタで〆られる。

 ってーかどっかでアンパン焼いてそうな中年おっさんのクセして、イザークとか名前負けも良いところだろ。いい加減にしろし。 


「さぁ国王様のありがたいお言葉が済んだところで、参加者達の紹介と行きましょう!

 ではエントリーNo.25、我が国のアイドルと言っても過言では無い……。

 聖女の一人、フェリちゃんだぁあああああああああ!」


「いっえーい、今日も元気なフェリちゃんだよぉ~☆ みんなー、よろしくハァーイ?」


「「「「よろしくハァーイ!」」」」


「きっこえなーい! もいちどみんなー? よろしくハァーイ!」


「「「「よろしくハァーイ!!!」」」」


「にゃっは~☆ みんな元気だねよっろしくねー!」


 彼女がウサギみたいにピョンっと跳ねると観客が一斉に湧く。

 それは売れっ子アイドルが観客を盛り上げる光景の様で、男達の歓声が津波となって押し寄せる。

 ツーサイドに少女趣味が強調されたフリル付きの水着。

 パッと見、凄く子供っぽい印象だ。

 しかしピンクのフリルが元気一杯な彼女を主張する。

 それは彼女の小振りな胸やお尻も強調し、可愛らしさの中に僅かなエロスを秘める。

 すげぇ、観客に声かけただけであんな……。

 いやまて。

 あの緑髪は見覚えあるぞ。聖女選びの時に居た子じゃね……?


「では続いて今年の大会初参加にしてダークホースの一人!

 北国出身、色白でお淑やかな雰囲気!

 しかし反して見た目はわがままボディのギャップがたまりません!

 国王様には悪いですがお尻派の私は彼女を大プッシュ!

 エントリーNo.54、北国色白美人のラムリアー!」


「どうもよろしく、皆様方」


「うぉおおおおラムちゃん良いぞぉー!」

「ラムリアー俺だーっ! 結婚してくれー!」

「俺は君の水着になりたいぞー!」


「ご、ごめんなさい……雪国出身なのでこう言った肌を出す服装は慣れていなくて。

 恥ずかしいですが、がんばります。どうぞ皆さま、よろしくお願いしますね」


「ふぉおおぉおモチモチおっぱいじゃぁああ! バブみーあいらぶラムリアたあああああん!」


 駄目だこの国。

 滅んだ方が良い気がしてきた。

 

「続きましてこちらも今回のダークホースの一人、北国出身の―――」


 それから次々と決勝戦参加者の紹介が行われ、俺は焦りを覚える。

 ……これ、予選とか比べもんにならんのだが。

 優勝イケるんじゃね、とかちょっと考えてた自分が恥ずかしくなってきたんだが。

 

「はぁ、くだらないですね」


 そんな緊張の中、先程の少女が小さな溜息と共に小言を吐き出す。

 緊張してるのか?

 と思って顔を見たがそんな様子は微塵も無く、軽く欠伸を噛んでる。

 むしろ余裕そうっつーか、どっかつまらなさそうな。


「アナタもアナタですよ」


 そして彼女は横目で俺を見やりながら突然話しかけてくる。

 観客達は参加者紹介に意識が向き、誰もこちらを見ていない。

 

「女に変身してまで、この大会に参加してるキレ者かと思えば、動き無いですし……。

 噂通りあの子を上手く利用して、魔王を倒したヘタレ勇者、ってところでしょうか?」


「―――え?」


「ヘタレと言ったのです、女に変身したこの変態勇者さん。

 ほんと相変わらず、非常識ですね」


 その一言を前に俺の思考は停止した。

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