Gカップ勇者とツンツン少女・中編

 俺は高校二年の一般男子・新藤晴一しんどうはるひと

 魔王討伐の為に召喚され、聖霊エリの力を持ったエリスと共に魔王を倒し、色々あって何でか女になっちゃって、あれよあれよと言う間に水着コンテストに参加する事となり―――


「何とか言ったらどうですか、女に変身した変態勇者さん」


 女体化がバレおりました。


「んなっ」


 突然の言葉に歓声とは違う別の騒音が激しく頭を揺らす。

 マズイ。

 これはかなりマズイ。


「どうせサモシャでも使って女に変身してるんでしょう? 

 ほんと勇者ってロクなのが居なくて怖いですね……。

 勇者なんかに頼らず、全て私に任せればって言ってるのにお父様はまったく」


 いや、変身の珠は使ってねぇし!

 ってそうじゃない。

 俺が本当は男ってのは事実だし、会場でバラされでもしたらアウトだ。

 いや待て。

 バラすのが目的なら何で直接言った?

 口振りも心なしか意味深だったし、何かあるのか?

 

「珠の事を知ってるならもしかして、聖女……?」


「アナタには関係無い話です。そんな事を聞いてくるなんて非常識ですよ」

 

 かんじわるっ!!

 聖女じゃないなら何で珠の事知ってんの。

 てか何で俺の事知ってんだ。ファンか?

 な訳ないか。

 そしてそんな中、紹介の順がツンツン少女の番となった。


「さて続きましてはこちらも大会初参加にて、決勝戦まで勝ち上がってきた一人!

 その見た目は可憐でありながら美しい……まるで高嶺に咲く気高き花!

 エントリーNo.158、アイリィイイイス!」


「あ、あの……こう言ったものに参加するの初めてで。

 緊張してますが、わたし精一杯頑張りますのでよろしくおねがいしますっ!」


「アイリスちゃぁああああん緊張しないでー!」

「うぉおおおお俺はアイリスちゃんを守る、そんな存在になりたい!」

「アイリスちゃん俺だー! 結婚してくれーっ!」

 

 だれだ隣でにこやかに笑顔浮かべてる子。

 しかもどっからその猫撫で声出してるし。

 たった今、人の事をヘタレだ変態言いまくった毒舌少女はどこ行ったし。

 そう言えば、俺を知ってる聖女にしても名前にエリが入って無いな。

 そうなると聖女じゃない?

 いやまぁアイリスが偽名の可能性もあるケドさ。

 にしてもこう、色々煮え切らないと言うか腹立つと言うか……。


「で、ではちょっと早いけれどさっき仲良くなった……ハルさんに代わりまーす!」


「……へ?」


 呆然とアピールトークを眺めていると、不意打ちで彼女からマイクを握らされる。

 え、待って、待って。

 まだ君の時間残ってるし、カーラの紹介後に俺の番だろ!?

 それに仲良くなった覚えねーしお前さっき人の事ボロクソだったじゃねーか! 


「じゃあ頑張って下さい、ね♪」


 屈託のないその笑みの裏には黒い物が見え隠れ。

 そしてアイリスが今までの流れをぶっ壊したせいで、俺を見る観客達の目に期待が宿る。

 司会のカーラも固まってて助け舟は期待出来ないし、どうしたら良いのコレ。


「……っ」


 動揺する中、マイクを持つ手が滑る。

 ヤバイ!

 と、慌てて手を伸ばすとぽよんと自前の双丘がクッションとなり、マイクを受け止める。

 あっぶねぇ……ここでマイク落としたらむっちゃ点数に影響するから。

 肩が重くてデカすぎとか思ったケド、助かったわマジ。


「あ」


 気を取り直し、マイクを持ち直すとアイリスが間抜けな声を上げる。

 そしておもむろに視線を向ければ、これまたぽかんと口を開けて固まってる。

 おいおい。さっき毒吐いてた子が面白い顔してるな。

 と、そんな中、窮屈だった胸に謎の解放感を覚える。


「アナタ、胸……」


 指をさされ、おもむろに視線で追えば……

 覆う物が無くなった露わな双丘が、プルンと大きく揺れる。

 視線を下ろせば胸を覆っていた布がパサリと落ち、ステージライトに全て晒される。

 その光景に会場の熱気以上の熱が、全身を覆う。


「あひゃぁあああああああああっ!?」


「「「「いやっほぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」」


 突然のたわわ露出によって、ステージはこれ以上ないほどの大歓声に包まれる。

 それは激しい熱を帯びると、会場を埋め尽くした―――。




□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □




「はいどうもありがとうございました! ラムリアさんでしたー!

 いやぁほんと素晴らしい胸にふとももでしたね、今大会優勝候補だと私は睨んでおります!

 ではではこちらも期待の新星、マヴィリアさーん! はりきってどうぞー!」


 悲しくも自分のポロリを皮切りに、参加者のアピールタイムも熱が籠る。

 ヤバイどうしよう皆の顔がガチなんだケド。

 帰りたい、恥ずかしい、まぢもう無理。

 この流れじゃ絶対さっき以上のアピ出来なきゃ点数なんないだろう。

 しかも観客までもが間違いなく、それ以上望んでる。

 

「いやっはぁあああああああああマヴィリアちゃぁああああああああんッ!!!」

「うおおおおおおおおおおおおおマヴィリアちゃああああああああああん!!!」

「キミに付いて行くぜマヴィリアちゃああああああん結婚してくれぇえええ!!」


 見ろよ。

 観客全員、ホットにキマりすぎて叫んでるだけじゃん。

 ステージに上がって来そうなのも何人か……ってオイオイ、ヒートアップしすぎじゃね?

 ガチでこっち来てるって言うか……


「きゃあっ!」

「ちょっとぉ、何なのあなた達!?」


 その心配は現実となり、叫び声を前に俺はエリスの元へ駆ける。


「おい、やめろ!  やめ……この、離しやがれ!」


 審査席へ群がる観客達を俺は薙ぎ飛ばす。

 何だよこのゾンビゲー状態は。

 一体なんだってんだ。


「ふぉおおおお観客達が怖いのじゃぞエリエットぉおそのモチモチおっぱいでワシを守ってくれぇええふぉおおおお!」


「ちょっとぉ~国王様ぁ。どさくさに紛れておっぱいに顔を埋めないで下さるかしらぁ?

 ホラ、参加者の子はこっちよぉ!

 裏から逃げて!」


「とりあえずおっさんは変わらずって感じだケド……何だコレ?

 テンション上がって暴れてるにしては変な気がするんだが」

 

 観客だけがおかしくなったと思えば、審査に参加してた他の面子もおかしくなってる。

 何がどうなってるんだ?


「セイクリッドシャインアロー!!」


 騒動の中で声と共に眩しい光が煌めき、ステージの上に降る。

 何事かと視線を向ければアイリスが手を構え、彼女の周りを光の剣がクルクルと舞う。


「アラやだアラやだ。貴女ったら見た目に似合わず過激なのね」

「やだやだ怖い怖い。大人しそうな顔なのに乱暴なのね貴女って」


 そんな緊迫した空気の中、北国出身色白美人のラムリアとマヴェリアが口元を歪める。

 

「全く……魔王以外にも紛れ込んでたなんてほんと色々情けない話です。

 さぁ、好い加減本性を現わしたらどうなんですか?

 何が目的かは知りませんが、貴方が魔王なのはもうわかっているのですよ。父様の体をお返しなさい!」


 アイリスが激しく言葉を向ける先には、司会役のカーラが佇む。

 おっさんはちょっと頭のイカれた、変な召喚師だが流石にこれはおかしい。

 俺に対しては馬鹿言ったりはするが、この状況を黙って見てる様な人間では無い。

 ……そんな俺の不安に応えるかのように、カーラの周りを黒い風が渦巻く。

 それは形を変えると、見覚えのある黒甲冑の巨体へと変貌した。

 

「くっくっく。よくぞ見抜いたな小娘よ。

 そう、我こそは魔王。北の地を治めし魔王……」


 鈍く光る黒甲冑は大きくマントをなびかせると、声高にそう名乗る。

 何でだ。

 あの時、北の魔王は太もも聖水エリス付与剣斬りカリバーで倒したハズ。


「しかし娘よ。

 我に本性を現わせと言うならば、貴様も本性を見せるのが筋であろう!」


 その一言と共に魔王が腕を振るうと、一陣の風が吹き抜ける。

 俺は咄嗟で風に飛ばされた彼女を受け止め、同時に俺はギョッとする。

 今まで水着だった彼女は、一瞬にして見覚えのある白ドレスの少女となっていた。

 

「ど、どどどさくさに紛れて触らないで下さい変態さん!」


「馬鹿、言ってる場合か!

 ったく大丈夫、怪我は無い……ってあれ?

 もしかしてキミ、前に図書館で会った―――あいでー!?」


 心配すれば罵声と共に赤眼で睨みながら、力一杯足を踏んでからの踏みにじり2連コンボをキメてくる。

 いやこの場合は罵声からの睨み→踏み→踏みにじりで4連?

 ってそんな事はどうでも良い。

 痛みを誤魔化す為に変な事を考えていれば、彼女の胸元で光った球を前に辻褄が合う。

 ……サモシャ使ってたのね、なるほど。


「イリス!? 貴女こんなトコで何を……」


「ああもう、みんな次から次に……勇者なんて必要無いって証明する為ですよ!

 私が居れば、魔王を完全消滅する事が出来るのです。

 魔王を半端にしか倒せない勇者なんていらないって……

 私がどうにかすれば聖女はもう必要ないって示すチャンスなんです。

 邪魔しないで下さい!」


「アラやだアラやだ。魔王様を前に大層な口振りの小娘さんね?」

「やだやだ怖い怖い。そんな子には怖い子には私達がお相手よ?」


 ラムリアとマヴェリアは淫靡に唇を舐めては微笑み、カーラの前へ出る。

 瞬間、目の色が赤く染まり、背に真っ黒な羽が広がっては風を起こす。

 妖しく動く指先に誘われ、ゾロゾロと観客達がステージの上へ……。

 呻き声を上げる男達には、既に理性が見当たらない。


「なるほど、この魅了チャームはあなたたちサキュバスの仕業……。

 水コンを使ってリビドーを刺激する事でその影響を強くし、観客を操ったんですね。

 確かに随分と周到な方法です……しかし、操る位しか芸の無いあなたたちに用はありません!」


「ちょ、お前一人で突っ込むなって観客が……!」


「頭を潰せばどうにかなるのですよ! クリスタルシャインブロー!」


「フフフ、操られていると言っても貴女に観客が攻撃出来て―――ってしちゃうのそこ!?」


 光魔法をぶっぱして、目の前の観客を噴き飛ばすイリスさん。

 おいおい、サキュ2人ドン引きじゃん。

 これじゃどっちが敵かわかりゃしない。


「どう言う事なのじゃ……魔王の核はエリエットが城の封印の間へ封印した。

 そしてあの場は聖霊エリに満ちておる、復活など出来ぬハズじゃ。

 そして封印の間へ入れるのは、ワシを含めてエリエットとカーラのみ―――あぁ!?」


「くく……ははは、アーッハッハッハッハッハッハ!

 そう、その通りよ愚か者どもよ!

 勇者に倒されたと見せかけ、僅かな魔力だけをこの男の中に残して国へ潜入。

 そして機を見計らって封印された核を回収し、更なる力と兵を得る為に水コンを利用したのだ!

 あと女の子のふとももとかお尻が見たかったのだ!

 ウチの土地、寒くて水着になるイベントが少なくてさ!」


「くっ、今までの魔王と違って全てが用意周到じゃねぇか。

 やる事全てに一切の無駄が無いとは、魔王中最強と謳われてるだけあるぜ……」


「どう聞いても後半色々おかしいでしょぉ、しっかりしてエロ勇者様。

 でも魔王を倒した地の人間は、色々な決まりで半年はこの国に入れないハズ。

 なのにサキュバスなんてどうやってぇ……」


「そう言えば水コンに是非参加したいと、懇願するおなご達がおったのう。

 ワシの曇りなき国王センサーで審査した結果、素晴らしいおちちじゃったから許可したんじゃ。

 ……ま、まさかぁああっ!?」


「まさかじゃねぇよ正にそれじゃねぇかおもっきり曇りまくりじゃねーか国王センサー」


「そんな事言わないので欲しいのじゃぁハルたぁ~ん」


「だから手をワキワキさせんな、どさくさに胸触るのやめてくれませんかね!?」


「……にしても困ったわねぇ。

 あの魔王、勇者様の言う通りにかなりのキレ者かもしれないわぁ」


 国王の魔の手をはたき落していると、エリエットがそう唸る。

 いつも余裕な表情が多い彼女が、珍しく苦々しい顔付きを見せた。


「どうかしたのか?」


「さっきから魔法を使おうとしてるのだけれど、発動しないのよ。

 どっかのタイミングで力を封じられてるわ」


「……ほんとです、自分も魔法が出ません」


「マジかよ」


「魔王の力なら効果は一時的でしょうけれど、厄介ね」


 未だ交戦しているイリスを見やりながら彼女はそう零す。

 ってか何で2人の魔法が……と思えば北の魔王の力は、『全てを切り裂く力』だ。

 それによって、エリエットたちは魔法を封じられているって訳か……。

 っつー事は俺も封じられてると考えるべきか。

 

「あれ?

 どうなってんの、ゲルメン出るんだケド……?」


 ふと指を動かしてみれば、緑色の玉が右手の中に浮かぶ。

 

「一体どうなってるの……?

 待って勇者様。そのペンダントはどこで?」


 困惑する中、エリエットが俺が首から下げている石を指差す。

 それはティアさんから貰った、ルチルクォーツのペンダントだ。


「これか? ちょいと前にティアさんって人に作って貰った」


「あの人の……!

 だからね、それがあれば効くハズが無いわぁ」


 エリエットは一人納得しているが、俺は訳わからず。

 とは言え、話は後だ。

 今は現状を打開する方法を考えなきゃ……。

 ゲルメンが出るって事は、スキルも使えるって訳だ。


「つってもアマハバスキルは観客巻き込むし、どうすべきか」


 どうすると悩むが時間が無い。

 魔王がイリスの魔法を封じてない理由はわかんないが、早くしないとマズイ。

 どうする?

 ……と自問する中、ゲルメンへ目が行く。

 ―――1個、方法があるちゃあるか。

 しかしぶっつけ本番だし、うまく行くかは……賭けだ。

 でも迷ってもられない。

 腹を決めた俺は右手に魔力を集中し、規則的に指を動かして緑の玉へ力を送る。

 

「まだ不完全か、くそ」


 しかしどんなに力を籠めても、思うように風が纏まらない。

 だよな。

 練習の時も上手く行かなかったし、こんな時だけ都合良く行く訳も無いな。

 となれば……。


「エ、エリス、ちょっとお願いがあるんだケド、良い?」


「はい、何ですかハルヒトさん」


 緊迫する空気の中、小声で話しかけると真剣な声色で返事される。

 す、すごく頼み辛い。

 いやしかし、必要な事なんだ。

 そんな中、ふと師匠トゥリの言葉が過る。


『今のキミに技術は意味が無い。

 だが万が一、それを扱わなければならない時は、恥を捨てたまえ。

 欲望へ全て委ね、スイッチを入れよ。衝動に従って、在るがまま力を揮え』と。


 その一言を思い返しては深呼吸し、欲求に従う事にする。


「ごめんエリス時間無いから―――ひぁう!」


「ハルヒトさん何を―――

 わぁあああああああ!? わ、わ、わぁああああああぁああ!?」


 そして俺は師匠の言葉に従うと、エリスの手を自分の右胸へ押し当てた。

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