似た物同士の聖女と勇者・中編
俺は高校二年の一般男子・
魔王討伐の為に召喚され、
それからその功績を認められ、俺はエリスと言う彼女(?)を手に入れ―――
「エリスを返しやがれぇえええ!!」
巨大ピンクスライムに
俺はスライムに取り込まれたエリスを助けようと、剣を振るう。
しかし全くダメージが入らない。
斬撃はすぐに塞がり、無駄だと言わんばかりにスライムを身を膨張させる。
「ぎゃー! 何なんすか今度はスライムっすかどうなってんすか!?」
「どわぁあ!?」
スライムはそのままテントを突き破り、俺は外に身を投げ出す。
慌てて身を起こせば、周りを囲う影。
外に放り出されたら出されたで、大騒ぎするスラリンの周りには集団マッチョさん御一行。
こんな夜遅くにコンバンワ、と言う訳では無いよな流石に。
「邪魔だてめぇらぁああ
愛剣のスキルを解放し、範囲攻撃を全力でブチかます。
剣は太陽のように発光し、周りにいる敵すべてに対して無差別に攻撃をする。
―――が、アマハバの光はダークトロルの体をすり抜ける。
そしてほぼダメージが無いようで、ダークトロルは平然と腕を振り上げていた。
「くそ、どうなってんだ!? ……おるぁあ!」
光が効かないならと剣を揮えば水を斬った様にパックリ割れ、すぐに塞がる。
この感じ……
「こいつらダークトロルじゃねぇっすよ―――うわぁあああ!?」
「今度は地面って何なんだよ一体!!」
スライムとダークトロルのラッシュに続き、今度は地面が揺れる。
俺たちが立っていた地面は、大地震で液状化したかのようにうねり、盛り上がる。
暴れる大地は波打ち、周りの景色は溶けたように崩れる。
そして蠢く地面は、表面をぬめらせた液状と化して行く。
「……シンゲル・セーファーウィング!」
上下左右入り乱れ、どっちが大地か空かもわからない中、体が空中で安定する。
どうやらスラリンがかけてくれた魔法のお陰で空を飛び、暴れる大地から逃げられたようだ。
そして一息吐いたと同時に、目の前に広がる光景に唖然とする。
自分達が居た場所を含め、森の広範囲全てが蠢いていた。
「聖女様が言ってた違和感がこれだったんすよ……。
あれだけ散策したにも関わらず、ダークトロルしか居ない上にリーダーも見当たらない。
そして魔王討伐前に新しくしたばかりの地図と、大きく地形が違った―――」
闇夜の中で一帯の大地は巨大なアメーバと化しては萎縮し、一つの塊へと変貌して行く。
ソイツは大地の上の物を根こそぎ喰らっているのか、森は全て消える。
剥き出した地面は土砂崩れを起こした山肌のようで、その中心でドームサイズのスライムが身を震わせる。
「魔王軍の残党がこの森で消えたのもコイツのせいだったんすね。
巨大なスライムが森に化け、ダークトロルの擬態で獲物を釣って食ってたんすよ」
要するに食虫植物みたいに獲物を誘い、入ってきたモノを喰っていたと言う事か。
そしてその疑似餌としてダークトロルを撒き、誘っていたのだろう。
いや、もしかすれば侵入したモノに合わせ、
普通に戦っていればすぐにわかったかもしれない。
しかし不幸にも、エリスは凍らせる事で殲滅し、そのまま放置していた。
その為、スライムが擬態していると言う事に気付けなかったのだ。
「……そうだエリス、エリスを早く助けねぇと!」
「ちょ、待つっす! 助け出すってあんなスライムどう戦うんすか!?」
「そんなのアマハバで―――」
「さっき光すり抜けてほとんど意味が無かったじゃないっすか!」
スライムに向かおうとすれば、咄嗟に空中で羽交い絞めにされる。
「じゃあどうすんだよ!
このまま待つのか? 応援を呼ぶのか?
その間にエリスはどうなんだよ!」
「そ、そうは言ってもどうやって倒すんすか!
自分の魔法じゃあんなサイズの敵倒せないっすよ。
それこそ王国に席を置く、上級魔法使いレベルの魔法じゃ無いと……」
スラリンのその言葉に俺は心の中で舌打ちをしてしまう。
いや、コイツを責めている訳では無い。
こんな現状なのに何も出来ない自分に苛立ちを覚えたんだ。
くそ。
ドラゴン相手なら喉か腹の中へ愛剣をぶっ刺して、アマハバぶっぱですぐ倒せるのに。
夜だからアマハバスキルの範囲も広がって、本来なら独壇場の時間だ。
しかしスライム相手じゃ光は全部外に漏れ、意味が―――
「……漏れなきゃ、良いのか。
なぁスラリン、お前の使える魔法ってどんなのがある?」
「使える魔法っすか?
とりあえず風魔法と熱魔法は上級が扱えるっすが、制御が不安定っす。
他は中級止まりで威力も範囲も心許ないっすね……。
出来て、スライムの周りを囲む程度の術が限界っす」
その言葉にいくらか希望が見える。
上級魔法と言えば、エリスが使ってた魔法みたいに広範囲のものがあったハズだ。
「じゃあその風魔法で土を巻き上げて、アイツの体に付着させられるか?
あと出来たらアイツの体の表面全部、凍らせる事とか出来るか?」
「周りへ対する制御術を無くせばまぁ……。
でもダメージは無理っすよ!?
あんな流動体じゃ吸収されて意味がないっすし」
「充分!
それでスライムの体表を土まみれにして、凍らせてくれないか」
「それをやって何の意味が……」
「アマハバがすり抜けるなら、表面全部を汚してそれを無くしゃ良い!」
「で、でもそれでどうやって倒すんすか」
「良いから頼む! うまく行きゃアマハバが効くかもしれない!」
「……でもあの規模、ドラゴンなんて比にならないサイズっすよ」
見やる先のスライムは、軽く数百mはある。
仮にアマハバが効くようになったとしても、倒すには相当な量のスキルを打ち込まなきゃだろう。
「頼む」
ただ一言、それしか言えなかった。
するとスラリンは眉根を垂れ、諦めたように目を閉じる。
そして数十秒沈黙し、
「……そうっすね。
みんなが無理って思った作戦で、魔王を倒した勇者様の言う事っすからね。
わかったっす。
勇者様の言葉、信じるっすよ」
スラリンは手を合わせ、ゆっくり薄く目を開く。
「
全てを慈しむ、主なる女神よ。
矮小なる我が求めるのは分不相応な、過ぎたる暴力。
痛みを糧に、魔力を贄に力を願う。
―――フリンジ・サークルウィング!」
言葉と共にふわりとそよ風が吹く。
するとそれは一瞬にして、強風に変わる。
風は乱れ、集まり、風は姿を変えると竜巻となって地面にある何もかも巻き込む。
地面の土や岩を巻き上げ、スライムの体表に全て叩き付ける。
しかしスライムは無駄だ、と言わんばかりに竜巻によって土色に染まった体を大きく震わせる。
「続けて行くっすよ……同じく過ぎたる力を願う!
フリンジ・グリィーフスノー!」
今度は土色の風に混じり、白色の吹雪がスライムを包む。
これまた無意味とスライムは動くが、水分を多く含む体はパキパキと凍る。
土色の体が凍っているので、チョコレートアイスのようだ。
「ぐ、ぬぐぐ……。
流石に制御を取っ払ってるから、魔力消費がぱないっすねぇ……!
あんま長くは持たないっすよ勇者様ぁ!」
スラリンはそう声を上げながら、カチカチと歯を鳴らす。
彼の魔法はスライムだけではなく、周囲の大地まで白く染めていく。
そしてその冷気は空に居る俺たちにまで及び、吹雪の中にいるかのような景色だ。
「充分だぜスラリン、後はまかせな!」
巨大な泥饅頭になったスライムへ向かって飛び、俺は凍結した体表へ着地する。
魔法で凍った体表は土を含んでいる事もあり、コンクリのように固い。
しかし内側の本体が激しく動いているせいで、早くもあちこちに亀裂が入っている。
その隙間を割って、這い出るように中身が出てきている。
スラリンの言う通りあまり長くは持たなさそうだな。
「ハルヒトさん……!?」
「エリス!」
ひび割れた表面よりあふれ出たスライムから覚えのある声が聞こえ、顔を向ければそこにはエリスの姿が。
ゴボゴボと吹き出るスライムの体内に捕らわれ、波に遊ばれる形でエリスが上半身を出していた。
良かった、無事だ。
「な、何を考えてるんですか……早く逃げて下さい!」
しかし喜びも束の間、開口一番にそんな事を向けられる。
「助けに来たんだよ! ……待ってろ!」
エリスの言葉に少しカチンと来ながらも、気を取り直して剣を振るう。
しかし斬撃は全く意味を成さず、目の前に居るエリスを助け出す事すら出来ない。
どうにかして早くエリスを助けて、スライムの中でアマハバぶっぱしないと時間が……。
「無理ですハルヒトさん……。
このスライムは自己再生能力に長けた、タンジェリンスライムです。
倒すには上級魔法使い数名で、一気に凍らせなければ倒せません」
「わかってるよ!
俺がコイツの中に入って、アマハバでどうにかする!」
「どうしてそんな無茶をするんですか!?
自分なら、何があっても問題な―――」
「怪我もすぐに治るから問題ないってか!?
痛いもんは痛いだろうがバカ言うな!!」
俺はついカッとなり、やせ我慢を口にするエリスへ怒声を飛ばす。
大丈夫とか平気なんて連呼するヤツは、大抵が無理してる。
ってーか何とも無いって言いながら、ケープが半分溶けてんじゃねぇか。
スカートも虫食いみたいにボロボロにされてる。
いつもの白肌だって日焼けしたみたいに斑に赤く染まってる。
そんな状態で何で強がり言うんだよ。
―――しかしエリスはそんな言葉を向けた俺をキッと睨み、
「バカはハルヒトさんの方ですよ……
何でわからないんですか、どうして逃げないんですか!?
加護も無いのに倒せる訳がないじゃないですか!」
「好きな相手を放って逃げれる訳がないだろうがぁあ!!」
気付けばまた売り言葉に買い言葉で叫ぶ。
しかし感情剥き出しの言葉のせいで、またもや強張った表情を向けられてしまう。
くそ、スライムも斬っても斬ってもキリねぇし、エリス放さねぇし……。
確かにゲームじゃこんなシチュ大好きだったよ。
ヒロインがスライムに捕まってさ、赤らみながらくっ殺みたいな展開とかさ。
でもそれはスライム=
悪いがこんなNTRとも言えるシチュはノーセンキューだよ!
つーか、このスライムもエリスのスカートの中やらところ構わず触りやがって。
―――いかん、何か無性に腹立ってきたゾ。
「こんのぉ……いつまでも人の聖女に触ってんじゃねぇぞスライム野郎がぁああっ!!」
「きゃあっ!?」
俺は怒りに任せ、スライムへ向かって手を突っ込む。
そしてそのままエリスの腕を掴み、力尽くでエリスをスライムから引きずり出した。
するとスライムは怒り狂ったようにうねり、のた打ち回る。
「スラリン任せたぁあ!」
「ハルヒトさ―――」
エリスの叫び声はドプンと鈍い水の音で途切れ、視界はピンク色に覆われる。
空中待機していたスラリンが俺の声に反応し、エリスを抱きかかえてるのが見えた。
よし、これでエリスがまた捕まる事は避けれた……。
安心の中、視界を覆う色が濃くなると俺は体内深くへ引きずり込まれて行く。
強く締め付けてくる力はドンドン強くなり、体のあちこちがミシミシと軋む。
スライムの溶解作用で肌の表面がジュルジュル音を立てる。
普通の人間ならあっと言う間に潰され、ゆっくり溶かされて死んでいただろう。
「
手の中で鈍色を見せる
そしてごぷ、ごぷりと吐き出す息に魔力を乗せ、剣の解放を行う。
「アマノ、ハバキリ」
ごぽんと吐き出した言葉と共に剣が強く発光し、ピンク色の海の中を激しく照らす。
光は透明な体の中をどこまでも突き進み、泥で汚れた体表にぶち当たる。
そしてスラリンの魔法によって凍った体はガラス状となっており、即席の鏡となっていた。
それによってアマハバの光はスライムの体内で反射を繰り返す。
「……
今一度、魔力を多く籠めてスキルを放つ。
全身から血を抜かれるような感覚と、骨が軋むような耳鳴りが頭の中で反響を繰り返す。
視界も星が散り、周りから白ばむ光景は、高熱で見える物がおかしくなるのと似ている。
「
スキルの連発でスライムの締め付ける力が強くなる。
先程と打って変わって、スライムはスキルによるダメージを受けると、体内は激しく震えゴボゴボと泡立っては視界が大きく揺らぐ。
俺は再び魔力を込めてスキルを放ち、スライムの体内は更に発光する。
スライムは必死に抵抗しようと俺を締め付けるが、その程度の力じゃビクともしない。
そして激しく動き、暴れて抵抗するが凍った身体がそれを許さない。
―――確かに強いとは思う。
でもドラゴンに比べたら……魔王に比べたら、よえーよ。お前。
一撃で俺を殺せなかったのが、お前の敗因だ。
「
「ジュ、ジュルァアアアアアアッ!?」
肺の中の空気を全て吐き出し、それと共にありったけの魔力を注ぐ。
剣はハイライトのように強く光り、辺り一帯を全て白色に塗り替える。
するとスライムの体内が小刻みに振動し、炭酸水のように泡立つと一気にただの水と化す。
そして割れた体表から中身が一気に流れ出し、凍った部分を殻のように残してスライムは力尽きた。
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