ニート勇者
俺は高校二年の一般男子・
魔王討伐の為に召喚され、
その後、俺は元の世界に戻る事は無理な為、この世界で暮らす事になり―――
「ヒマだ」
絶賛ニート中だった。
魔王討伐後、やる事が無かったのだ。
俺は貴族が棲んでそうな贅沢な部屋で独り、椅子にもたれながらぼうっとする。
国王の手配で城内に部屋を用意して貰い、生活に必要な物一式全て揃えて貰った。
更には今後一生、生活に於ける支援をして貰えると言う、特別な待遇を受けている。
なので俺はこれから生活に困る事は無い、将来を保障された身になった。
しかしこの3ヶ月を我武者羅だっただけにこう、穏やかな日々を前に時間を持て余す。
3ヶ月間、世話になった村の人たち元気かなぁなんても考えるが、気軽に行ける距離でも無いし。
ほんとやる事ない。
「はぁ……どうしたもんやら」
手を頭上に翳し、何とか顔を上げても溜息は変わらず出る。
弱ったなぁ、顔を下げても上げても溜息零れるちゃうわ。
依然として、こんなにぼーっとしてる理由は、もう1個あった。
……エリスの事だ。
魔王を無事に倒し、あの子をくれだなんて言ったのはまだ良かったんだが―――
『その者は異世界人を用いず、
そして魔王を欺く為に幼少の頃より、女として育てられた男の子じゃ。
説明受けなかった?』
表彰の場での言葉がリピートされては、色々な物がないまぜになる。
あの子の事が好きだし、別にそれでも構わないと思う。
しかし、だ。
私もお年頃の男の子でして、好きイコールで浮上する健全なモノもある訳だ。
特に好きな相手に対しての衝動は、それこそ一層と増すのは言うまでもない。
「エロい事出来ねぇ……っ」
ド直球な言葉を吐き、一人頭を抱える。
どんなに可愛くても、あの子が男じゃあんな事こんな事出来ないよ!
いやまぁ膝枕はして貰ってますが、ハイ。
しかし最近では別のドキドキが同居して、まともに顔も見れません。
ってーか女の子として育てられたとしてもさ、エリスの気持ちってどっちなんだろ?
男なのだろうか、それとも女なのか―――
「でもエリスの仕草とか見てると、女の子まんまだしなー。
恥ずかしがる顔とか、笑う顔もそうだケド……全部女の子なんだよなぁ」
「ほっほ、どうした勇者よ悩み事かのう」
「どわぁ!?」
一人悩む中、突然声をかけられて俺は椅子から転げ落ちる。
「え、ちょ、こ、国王……サマ?
ど、どどどうされましたにございましょうか!?」
「ほっほ、ノックをしたが気付かんかったか。
敬語はやめよ勇者、ワシとお主の仲ではないかー」
白髭を蓄えたまん丸スタイルの国王は、腹を揺らしながらそう笑う。
やばい、考え事しててノック気付かなかったわ。
しかしワシとおぬしの仲と言われても、そんなに親しくないと思うんだケド……。
「で、国王サ、国王はどうしたんで……どうしたの?」
言われた通りにタメ口で返してみるが、背筋が凍る。
自分よりいくつも年上で、しかも国のトップ相手に溜め口を利くなんて恐れ多い。
変な汗が噴き出して止まらんのだが。
「そう畏まらなくて良いのじゃぞぉー。
まぁワシの高貴なオーラで、そうなってしまうのも仕方ないのかもしれんのう。
いやなに、元気にしておるか気になってなー。
ところでエリスはどうしたのじゃ、おらぬのか?」
そう言われてもなぁ……。
あとで兵士たちが部屋に入ってきて「どなたと心得る!」とか言ってこない?
「エリスならやる事があるとかで、出掛けてる、っス。
……だ、駄目だ。
ある程度の敬語は許して欲しいと言いますか、お願いします!
こっちの心臓が持たない!」
「ぬう、仕方ないのう。
やはり親睦が浅い内ではダメじゃったかぁ。
いくらか畏まってしまう事を許そう」
「あ、ありがとうございます」
何とかお許しを得て、自分はほっと胸を撫で下ろす。
本人がOKつっても流石にキツイ。
両親にタメ口使うのとは話違うしさ……。
「ほっほ、気にするでな―――おふんっ!?」
会話する中、声が下降したかと思えばメキョリなんて音が響き渡る。
釣られて視線を落せば、先日購入したばかりの椅子の足が頬を掠めて飛んで行く。
「ちょ、大丈夫っすか国王サマ!?」
「ほっほ、案ずるな問題無い。
どうやらワシの高貴な重みに、椅子が耐えられんかったようじゃなぁー」
ソレ高貴とか関係無く、純粋に国王が重いだけじゃ……。
そして国王は足の無くなった椅子の上へそのまま座り直し、腹をさすってはくつろぐ。
他に椅子を勧めるが、これで良いと笑顔で返された。
何つーか変わった人だなこの人。
そして俺も床に座っては視線を合わせると、国王を満足そうに笑顔を浮かべて話を続ける。
「ところで勇者よ、何か不便は無いか?」
「色々用意して貰ったので、何不自由ないですね。
ありがとうございます」
「そうかそうか」
「……あ、でも1個困ってると言うか」
「何じゃ、申してみよ」
気にかけてくれる国王を前に、俺は少々本音を口にする事に。
「何と言うか、やる事無くてずっとゴロゴロしてる現状に気が引けて……。
エリスは聖女としての仕事をしてるのに、自分は何もしてない。
だから何か出来る事があれば、させて欲しいです」
「ふむ、なるほどのう。
今は他の方位の魔王も大人しいしのう、となると……」
今の俺ってニートだしな。
魔王倒したオプションで運良く、最高な待遇を受けてるだけだ。
すると国王は口髭を弄り、暫く考える。
「一つ、あるにはあるのう。
東の地域にて魔王軍の残党が、忽然と姿を消したらしくてのう。
そやつらの動向調査を出来る者を探しておる」
おお、それなら俺にも出来そうだ。
東の地域なら村の連中も居る。
願っても無い話だ。
「それなら自分にやらせてほしいです」
「ならば頼むとしようかのう、東の方ならお主も勝手が良いだろうしのー」
「でも東の方って結構距離が……」
「それなら問題は無いのじゃ。
後で簡単に移動出来るようにワシが転移魔法を手配しよう。
早ければ明日にも移動の準備が出来るであろう。
ああ、しかしアレじゃ、今回の件は魔王討伐の時のように願いは叶えられんぞ?」
「えっと、そう言った願いは特にないです」
国王が話を終えたかと思えば、予想外の話を振られた。
あれって魔王倒した時だけの話だった覚えだし、流石にな。
「そうかそうか、何か困り事が垣間見えたもんでのう」
そんな顔に出てたかな?
とは言え、ここ数日部屋に引き籠って腐ってたしなぁ。
外出ようにも勝手がわからんし、エリスも最近忙しいみたいで話せてないし。
そう思うと、色々滅入ってたのかも知れない。
「いやな、エリスの事実を話したのはワシじゃが、後から心配になってのう」
「あ、いえ……自分は別に」
「出来ればこう言った事態にならぬよう、カーラも聖女選びの際に、遠回しで諦めさせるようとしてたのじゃ。
とは言えお主とエリスであったからこそ、魔王討伐を成し得たとも言える」
俺が抱えていた悩みを察したかのように国王はそう語る。
……なるほど、だからあの召喚師は異常なくらいに引き留めたんだな。
「しかしお主も男じゃ。
年頃となれば、おなごに対してそう言う事を考えるのも普通じゃ」
「え、ちょ、確かにそうだけど……って急に何の話ですかね!?」
何とも変な方向へ話が流れ、思わず動揺するが国王は孫を見る顔で笑う。
いやいや、仰る通りではありますが唐突に何!?
「じゃから、お主があの子以外の聖女を選び直すと言う事をしても、ワシは何も言わんぞ。
どんなにエリスが少女のようであったとしても、あの子は結局男じゃ」
「そんな事は、したくないしするつもりもありません。
あの子が居たから、俺はこうやって居れる訳ですし」
「確かにそうじゃが、男なんじゃからえっちな事はしたいじゃろぉー?
そう言う相手は別に作っても良いんじゃよ、とワシは言いたいのじゃよ」
「そ、それは、ぬぅ……」
国王による直球なお言葉を前に返答に困る。
言ってしまえば、悩んでる本題そこだったりするんだよな。
……そう、あの子は結局男だ。
でもエロい事出来ないからって、あの子への気持ちは嘘なのか―――とも自問が起こる。
あぁ、クソ。
何だって異世界ファンタジーな世界で、こんな情けない話で悩まなきゃいけないんだろう?
「あれ……待てよ。
そうだ。
異世界なら、魔法とかであの子を女の子とかって」
「残念ながら無理じゃのう。
この世界にはそのような便利な魔法はないのじゃよ。
魔王討伐に於ける願いも、出来る範囲内に限られておるしのう」
マジかよ異世界ファンタジー世界なのに何ソレ。
「好きと言った想いを大事にするのは良い事じゃ。
しかしな、それで色々無理をしてしまっては、お互いの為に良くないのではないかのう?
何も好きな相手を一人に決める必要も無い、とワシは思うぞー」
国王の話に対し、俺は何も言い返せない。
あの子の何もかもが女の子だったとしても、それで構わないと言い聞かせても……
『エリスが男なら、無理じゃね?』と、もう一人の自分が吐き捨てる。
「はぁ、あの子が女の子だったら良かったのに……」
そして不意に本音がポロリと零れる。
今まで話せる相手が居なかっただけに、思わず口にしてしまった。
エリスの事についてはネットとかである、男の娘ってヤツと考えれば別に違和感は無い。
しかし恋愛経験すらない俺に、それを許容出来るだけの度量がある訳も無かった。
そんな中、カツン……と乾いた物同士がぶつかるような音が耳に届く。
俺は音に釣られ、視線を上げる。
すると何かにあたった椅子の破片が、ドアの前でクルクル回っていた。
「あ……」
そしてドアを開けた人物と目が合い、互いに固まる。
「おお、エリスか戻ったのかー」
同じく音に気付いた国王が振り返り、ドアの前で立つエリスへ声をかけた。
しかしエリスは答える事無く、棒立ちのままだ。
そして左目より雫がつうっと伝っては、ポツリと部屋の絨毯へシミを作った。
「……す、すいませんっ……ノック、したんですけれど……」
「ま、エリス!」
震える声を押さえながら飛び出すエリスを、慌てて追う。
しかしエリスの足は速く、あっと言う間に廊下を駆け抜けて姿が見えなくなる。
「だぁああ……やっちまった……」
最大のやらかしを前に、自分は膝から崩れ落ちた。
―――その後、エリスと話しも出来ずに翌日を迎える。
そしてエリスとぎこちないまま、東の地に行く事となってしまった。
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