勇者の好みはニッチなジャンル
俺は高校二年の一般男子・
魔王討伐の為に召喚され、
そしてその功績を認められてエリスと言う太もももとい彼女(?)を手に入れた。
「でなー、
ちょっとお願い事で調べて欲しい事があるんよーワシ」
んで、そんな実績のある俺の元へ
贅沢放題を体現した国王サマは腰掛けたまま腹をさすり、俺の返答を待つ。
どっかでパンでも焼いてそうな白ヒゲ国王の腹が揺れる度に、椅子がミシミシ悲鳴を上げる。
新品チェアがまた購入2日目で、早くも断末魔を上げそうなんですケド。
「うーん……。
それって今すぐじゃないとダメですか?
今、自分動けなくて」
「それが他の勇者も今出払っててのう、おぬししかおらんのじゃよぉ」
「実はエリスが体調悪くて、今診断してもらってるんですよね。
なのでそれが落ち着くまでは、傍に居たいって言うか」
「まじでー? ワシめっちゃ困りんぐー」
先週、遠出した際に港町で有名な海鮮料理を食ってきたたんだが、戻るなりエリスは微熱を出した。
最初は久し振りの遠出で体調崩したのかと思ったが、3日経っても体調は治らなかった。
なので詳しく調べてもらう為、診断してもらう事にしたのだ。
食った物も海鮮だったしなぁ……アニサキスとか言うヤツだったらマジどうしよう。
「はぁーい。お邪魔するわー」
気が気で無く、早く戻りたいと思っているとノックが響く。
誰かと思えば、馴染みのおっぱい聖女さんが当たり前の顔で部屋に入ってきた。
「おおエリエット。どうしたんじゃ」
「まーたお前、勝手に入ってくんなし……」
「はぁ~い国王様、ご機嫌麗しゅう。
相変わらずつれないわねぇ勇者様ったら。途中で見かけたから一緒に来たのよ」
「ただいまですハルヒトさん……」
苛立ちで目を細めると苦笑で返され、入口を指された。
視線を向ければ、エリスが弱々しい声と共に部屋へ入る。
「送ってくれたのか。悪い……エリエット。
検査どうだったエリス?
熱引いてないみたいだケド、横なる?」
俺の言葉にエリスはスカートを押さえ、ふるふると首を横に振る。
しかし見るからに頬が赤く、熱が上がってる顔だ。
またこの子はすぐに無茶をして。
俺の聖女様は大人しい見た目だケド、時々頑固だからなぁ。
―――しゃーない。
「……よっと」
「わ、わぁあ!? は、はるひとさんっ!?
お、おろ、おろして下さい!!」
言う事を聞かないウチのお姫様を抱えると腕の中でばたばたと暴れられる。
しっかし軽いな。
長い髪のせいかもう少し肉が付いてる風に見えてたが予想以上に華奢だ。
まぁ背もちっこいし、細いから重さはこんなもんなのか?
「ひゅ~♪ さっすが勇者様見っせつけるぅ~」
「やっかましいわエロエット。そんなんじゃねーから」
俺は冷やかしを余所にベッドへ進み、エリスを横にさせるとうずくまられる。
流石に人前で抱きかかえたのは恥ずかしかったか。
「エリスも式で抱えられる事になるんだから、早い内に慣れた方が良いわよぉ?」
「わーわーわーわーわー!」
うん?
何の話だい?
「ほーらエリス、ちゃんとあなたの口から言わないと~。ね?」
からかい口調で笑いながらピンクの彼女はエリスにそう促す。
エリスへ視線を向ければ真っ赤な顔を枕で必死に隠してる。
しかし僅かに覗く耳まで真っ赤で隠しきれてませんぜエリスさん。
「あ、あのですねハルヒトさん……驚かずに、聞いて下さいね?」
「……うん、わかった。どうした?」
「じ、実はですね」
「うん」
「赤ちゃん……出来ちゃいました」
「おお、まじか。
…………………え?」
「良かったわねぇ~。お2人とも、おめでとさん♪」
そしてエリエットの祝福の言葉を理解する前に自分の思考は停止した。
□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □
「だーかーらー俺はなんっもしてないっつーの!
検査ミスじゃねーの!? 第一、その……エリスは男だろっ!」
「あら~往生際の悪い男はどうかと思うわぁ~。
ちゃんと認知しなさいなぁ勇者様ぁ~?」
それから数分後、エリエットの言葉に俺は何度も声を上げる。
証拠とばかりに渡された書類へ目を通せば……
・氏名 :エリス
・性別 :男
・検査結果:妊娠
訳わからん。
そりゃ元の世界じゃ男の娘とか、ニッチジャンルありましたよ?
見た目は少女、でも身体は男、そして気持ちは少女的な。
しかもアニメで男の娘が妊娠しちゃったりとか、そりゃぶっ飛んだのありましたわ。
でもあれはアニメの話っすから、2次元の話っすから!
ここ3次元な、1次元違うからな。
仮にエリスがリアル男の娘にカテゴライズされたとしても、色々おかしいからな!
「そうは言ってもやる事やってたんでしょぉ~。
エリスに聞いたら色々されたって言ってたしぃ、好い加減認めなさい?」
「いやいやいや?
てかエリスさんアナタ何を言ったんですか!?
俺何やったっけ!? ま、まさか記憶が無い間に……」
まぁ普段からちょくちょくイチャイチャはしてますね。
つってもじゃれ合いで触りまくるくらいだよ。
例えるならそう……仔犬とか仔猫がテンション上がって遊ぶ感じ。
あとは調子に乗ってちょこっとふとももペロってしたり、頬ずりしたり―――。
ってそれくらいだよ!
それ以上なんて恥ずかしくて無理だよ!?
「えっと……2人きりになるとその……
激しく求められて、抵抗出来なくて成すがまま、好きなだけ色々されたり……。
あと……この間は恥ずかしいって言ったのにその、直接舐められました。
ほ、他には良い匂いとか言って……直接匂いをかがれたりとか―――」
「どう聞いてもヤってるわね」
「ちょっとエリスさん、エリスさん!?
それ間違ってないけど色々誤解生むから、語弊があっから!
つーか主語、主語プリーズ! あとそれ全部ふとももにやった事だから!」
ジロリと詰問の目を向けるエリエットへ弁明をする。
つーか俺、こんな必死に何言ってんの?
ここは公開処刑会場ですか?
「やだこの勇者、ホモなの?」
「そうみたいですねぇ国王様。
てっきりエリスだから好きなのかなと思ってましたが……。
この陰湿なテクはどう聞いても手馴れてますよねぇ~。
はっ!
だから聖女選びの時に私達を選ばず、即答でエリスを……」
「いやぁんワシ怖い、勇者に襲われちゃうー!」
「おいアホな事言ってっとぶっ飛ばしますよこのピザ国王サマ」
2人のアホな会話に自分はうな垂れる。
まぁ、どう言っても現状エリスは妊娠してる訳だ。
……そうなればこれからの事を考えなきゃいけないって話で。
「ハルヒトさん?」
気付くと俺は無意識にエリスの水色の長い髪に指を通す。
エリスはそのまま猫みたいに頬を寄せ、俺の手へ甘えてくる。
赤ちゃんかぁ。
まじかぁ。
しかしまさか高二で子持ちになろうとは……。
って今勇者だから学生ではないか。うん。
つかそうなると今後の生活を考えてかなきゃだし、このまま勇者で大丈夫なのか?
今は魔王倒した実績で生活保障されてるケド、でもそれは俺一人の話だ。
一応レベルは600越えたし、討伐クエで稼ぎは出来る。
……でも安定は無いよな。
となると勇者と言う点を活かし、もっと仕事を紹介して貰うのがベストなのか?
「そう言えばエリスは何ヶ月目なんじゃー?」
考えに更けていると国王がそんな疑問を口にする。
そう言えばその辺りきちんと聞いてなかったな……。
「え、えーっとまだ1ヶ月らしいです」
「そうかそうか。じゃあこれから大変じゃのー」
「そう言う国王サマは、出産前みたいなお腹ですね」
「んふー残念。ワシはまだ7ヶ月じゃよぉー」
「はいはいそうですねおめでとうございます。相手は誰ですか?」
国王はでっぷりとしたビールっ腹を両手で揺らしつつ、訳判らん事を言い出す。
皮肉のつもりが上手く躱されたわ、クソ。
「相手は魔王じゃよー」
「はいはい魔王ね魔王……は?」
「ワシさっき話したジャン。
最近、西の魔王が悪さして男達が原因不明の妊娠してるって。
ワシさっきどうにかしてって頼んだじゃろ?」
おい、聞いてねーからそんな話。
□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □
俺らは国王の依頼を受け、即座に西の土地へ向かった。
一件の発端は約1ヶ月前。
そして問題は西の土地の港町を中心に発生していた。
港町名産の海鮮料理を食べた者の多くにその症状が出ているらしく、そこから考えれば西の土地特有の物に原因があると推測出来る。
「あーんもう疲れてきたんだけどぉ? 本当にこれで見つかる訳ぇ?」
「喋る暇があるなら口より手を動かせぇえええ!」
「やぁん勇者様ったらこわぁい」
そうなれば名産物が一旦集まる港倉庫を調べるのが最善と判断し、調査を行っていた。
「勇者様ってこんなに熱心な男だったっけぇ?
お城の印象だと、凄くめんどくさがりってイメージだったんだけどぉ」
「そんな事無いですよエリエットさん。
ハルヒトさんは決断するまでに時間かかっちゃったりしますけど、行動力は凄いんです」
何かあった場合に、俺一人ではエリスを守り切れない。
なので今回の調査にはエリエットにも同行してもらった。
魔法や薬で痛みなどを止めていると言っても万が一がある。
体調が優れないのを考えると、エリスには城へ残って欲しかったんだが拒否された。
……この子も頑固だからなぁ。
「あ……これ」
検査をする中、エリエットが声を上げる。
顔を向けてば彼女が手に持った緑色の野菜がみるみる崩れ去った。
「
これに魔王の魔力が籠ってるわねぇ」
「よっしゃあ! ビンゴ!」
国では食材に原因があるとはわかっていたが割り出しに難航していた。
そこで俺は魔王の力が影響してるなら、聖霊(エリ)を食材にあて、割り出しが出来ないかと考えた。
そしてその方法は上手く行き、見事割り出しに成功した。
これでこの食材が採れる場所を辿り、魔王の場所を突き止める事が出来る。
「サーワビと言ったら西の土地で有名な特産品ね~。
収穫から出荷までを川を利用してるし、これが採れるのは川の上流」
「ってー事は……」
「サーワビが採れる川の源泉近くに、魔王が隠れてる可能性が高いわねぇ」
□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □
エリエットの言葉で、俺達はサーワビ畑のある川の上流を目指す。
一心不乱に木々の合間を走り抜けていれば、不自然なインプの群れが行く手を阻む。
「ニ、ニンゲンだ!
やろうドモ、ここから先は通さないゾ!
魔王様に頂いたチカラ、見せてやル!」
「ここから先は行かせなイ!
かかってこい、ニンゲン!」
「イエッヘッヘッヘ!
オレは後ろの女たちをやってやるゼ!」
なんともわかりやすい歓迎を前に俺は剣を握り、
「おっるぁああ邪魔だ邪魔だ邪魔だどけやザコ共がぁああああああ!!」
「イギャァアアアア!?」
容赦なくインプたちを斬り払う。
「勇者様、随分キャラ変わっちゃってるけれど大丈夫なのぉ?」
「あはは……感情的になるとああなってしまうと言いますか。
多分、大丈夫です」
2人はエリエットの飛行魔法によって俺の後を飛んで付いてくる。
魔法による移動の為、エリスの負担はほぼ無い。
とは言え、僅かでもエリスに負担があるのは変わらない……早く魔王の野郎をぶっ倒さねば。
「勇者様ぁ~魔王の魔力反応よー気を付けてぇー!」
エリエットの警告と同時に周囲の空気が一気に変わり、俺は剣を構える。
その瞬間、暴風を纏った一閃が俺達を襲う。
「フリンジ・エアウォール!!」
「ぬぐわっ!?」
風は土を抉り、クレーターを作り上げると川の水を散らす。
遅れて巻き起こる爆風に煽られて俺は吹き飛び、ぬかるんだ地面の上を転がる。
「ハルヒトさん!」
「んふっ☆
インプちゃんたちが一気に消えたと思えば、この魔力は勇者と聖霊の女じゃなぁ~いん☆」
負傷した俺を回復すべくエリスが駆け寄って、自分のふとももに触れさせて回復をさせてくれる。
―――2人とも攻撃は受けてないみたいだな、良かった。
俺はすぐさま剣を構え、頭上より聞こえたふざけた声の方へ顔を向ける。
「おいてめぇが魔王か」
「いえーすあいドゥッ☆
まさ~かこんな早く気付かれるなんて思っていなかったわ~ん♪
もしかしてぇ~アナタ、東の魔王を倒した勇者ぁん?」
「しらねぇよ。
それよりこの一件てめぇの仕業だろ。元に戻しやがれ!」
「んっん~?
やぁ~よ。これは人間たちの勢力をジワジワ奪う為の策☆
男がだぁ~すきなワテクシによるイケナイ魔術☆
そぉして~男のハ・ジ・メ・テをワテクシが奪っちゃう為の素敵なワ・ナ♪
わっかるぅ?」
色白ムキムキマッチョの魔王は変なポージングを取りながらそう答え、その言葉で俺の中の何かが弾ける。
この……。
「このクソ野郎がぁああああああああああああっ」
「まぁったく、せっかちさんね☆」
「ぐはっ!」
「ハ、ハルヒトさん!?」
感情に任せて剣を振れば、モロにカウンターブローを貰って空を舞う。
俺は上手く着地を試みるが、水浸しの地面の上を滑ってしまい受け身を取り損ねる。
そしてエリスはダメージを受けた俺を抱き寄せると、傷を癒してくれる。
……やっべぇこのオカマ魔王。
ふざけたキャラのクセに、強い。
「んっん~良いわ良いわ良いわ~ん♪
アナタみたいなアトゥ~イ男、大好きよん☆」
「勇者様、ここは一人で突っ込んじゃダメよぉ!
魔王を倒すには聖女の力を……」
「下がってろエリエット。
コイツは俺がぶっ飛ばさなきゃ気がすまねぇ!」
「そうよ女は黙ってなさぁいん!
今ワテクシと勇者ちゃんが遊んでるのよ~ん☆
邪魔をすると言うなら―――さぁいらっしゃいな、ワテクシの可愛い可愛いインプちゃぁあん!
邪魔くさい聖女たちをヤっておしまいなさいん♪」
「させるかよ!
アマノハバキリィイイイイイイイイイイイイイ!!!!」
「隙だらけよ勇者ちゃああん♪
アナタは思ったよりかわいいからぁ、ちょぉっと女の子にしていじめてア・ゲ・ル♪
ほぉら心は男なのに、体は少女なんて辱しめはどうかし―――
ほわっちゃああぁああああああ!?」
愛剣の力を全解放し、放たれた光によって呼び寄せられたインプたちは全て消滅する。
……しかし
「熱っ、アツ、アツアッツアツゥイ! 熱いからねソレ何なのその火力!?
どんだけ魔力籠めてんのよん、ばっかじゃないのっ!
……と言うかちょっと待ちなさいよん。
アナタ、どうしてワテクシの魔術が効かないのん?
しかも男妊娠させたってくらいで、ちょぉっと激おこしすぎじゃなぁい?」
一撃を受けて水溜りの中で転がっている魔王は、泥の付いた顔を拭いながらそう呟く。
男を?
妊娠?
させたくらいだぁ?
「おいクソ魔王。よぉーく聞けよ?
魔王のせいで男が妊娠してる。
単語だけ聞きゃ大爆笑な内容かもな。
だがな、実際は自分の好きな相手や大事な奴、身内が苦しめられているっつー許し難い話なんだよ!」
俺は剣を振り被ると渾身を込めて魔王の脳天へ打ち下ろす。
「あいだい!? ちょ、フツー喋りながら攻撃してくるぅ!?」
「うっせぇわボケ!
こちとらな、こちとらなぁ……!
本来なら、段階を踏まえて成される結果を奪われてアッタマきてんだよ!!」
「……う~ん?
さぁ~っきから気になってたんだけど~、そこの水色のかわいらしー子はもしかしてぇ……。
オ・ト・コ?」
「そうだよ!!
テメェのせいでその……出来ちゃってんだよクソがぁ!!」
水溜りの中で座り込んでる魔王は俺とエリスを見やり。
「なるほどねん☆
アナタってばワテクシと同じくゲイなのねん♪
ゲイな勇者様、略してゲイ者様かしらん?」
「一緒にすんなボケ!」
「あいだい!? だからぁ急に殴るのは理不尽よぉん」
「……勇者様って印象と違ってすごくバイオレンスね」
「あ、あはは……」
「でもさぁちょっとマッテぇん?
ワテクシに奪われたって怒ってるけど、アナタたちなぁんにもシてないの?」
その一言に俺はピタリと動きが止まる。
「記憶が確かならぁ~ん、アナタとその子知り合って5ヶ月近くよねぇ?
ながーく2人旅とか一緒にいてぇ、手も出してないのかしらぁ~ん。
流石にそれぇ~は奥手過ぎと言うかぁ……ヘタレ?」
「う、うるせ! 何でお前が俺達が知り合ってからの期間知ってんだよ!?」
「そりゃぁ~敵情を知るのも、大切な事ですしぃ~。
で、で、で?
勇者ちゃんはまーだ何もしてないトコに、ワテクシに奪われておこって―――」
「ああそうだよチューすらまだだよ恥ずかしくて手を握るのが精いっぱいだ文句あっかクソがぁあああ!
膝枕だってな、回復って名目で恥ずかしいの隠してんだよ!
舐めたのすらじゃれてるノリだったから出来たケド、めちゃ勇気いったんだぞ!
うんな進展が無い中でエリスが妊娠とかよ!?
それが魔王の仕業とか許せるか、許容出来るか、我慢出来るか?
うんなん許せるわけねぇだろが!!」
「あ、あのハルヒトさん……そ、その落ち着いて……」
「人が大事に大事にしてるエリスを
俺のエリスの初めてがかっさらわれたんだぞ!?
こんなんよもや寝取られじゃねーか!!
そんな事実を前に落ち着け、冷静になれ?
出来るか訳ないだろコンチキショウがっ!!
弁護士来いや裁判所来いや末代まで毟り取ってやるぁああああああああ!!」
溜まりに溜まった全ての感情を俺は全て吐き出し、気付けば過呼吸の中で息をしていた。
「……アナタ、その子の事をそんなにラァ~ブだったのねぇ」
ふと我に返ればエリスが俺の右手を両手で強く握って真っ赤に。
そして脇に立っているエリエットまですげー赤面して、顔を逸らしている。
マッチョ魔王に至っては跪いたまま顔を両手で覆ってフルフルと身震いしてる。
……やべ、頭に血が上って途中から何言ったか記憶にない
「それに比べてワテクシなんて男なら誰でもイイだなんて考えで……っ!
けど今のアナタを見て気が付いたわぁん!
ワテクシが間違ってたっ!
その他大勢の男タチからハジメテを奪った所で、それはただの自己満足っ!
……サーワビにかけた魔法と男タチにかかった魔術を全て解くわぁ~ん」
感涙に顔を濡らしながら魔王を腕を広げ、何かを呟く。
それはまるで神に許しを請う、敬虔な信徒の姿を思わせる。
異様な光景の中、エリスが小さく声を漏らしながらお腹を押さえる。
「あ、あの……お腹と体にあった違和感が全部消えました……」
「ほ、本当か?」
駆け寄ってエリスに触れると熱を持ってた体はいつもの体温に。
良かった……元に戻ったのか。
「ハ、ハルヒトさん……その、ちょっと今は」
喜びにいつもより身を寄せていると赤らんだ顔で拒否される。
あ、あれ?
その仕草で俺は変に意識してエリスを見つめてしまう。
すると濡れた服がエリスの華奢なラインをやらしく強調している事に気付く。
ああそっか。
魔王の一撃で川が吹き飛んだ影響で水浸しになってしまったのか。
とりあえず……スカートが張り付いて足が特にすんげーエロイよエリスさん。
「見過ぎよぉ」
「あいて」
そんな楽しい観察もエリエットによる注意で終了となる。
「んふっ~☆ 良いわん良いわぁ~ん。
問題無く解除出来たみたいねぇ~ん☆」
「どうして魔法を解除したんだ……。
お前は人間を苦しめる為にやってたんだろ?」
「これはワテクシの八つ当たりみたいなものだったしねぇ……」
「どう言う事だ」
「実はぁ人間に化けて港町に行った時に出来たカレシが浮気してねぇん?
それがいつの間にか色々とエスカレートしちゃっただけなのぉん。
でもアナタを見てわかったわぁん☆
ワテクシがぁ浮気されたのはぁ~……相手を満たすだけの愛が足りなかったのよんっ!」
魔王はそう告白を語り出す。
おいおい。
めっさとばっちりなんですが。
つーか人間に化けて街にくんなよお前仮にも魔王だろ?
……しかし問題を解決してしまった手前、どうしたら良いか迷う。
魔王だから倒さなきゃいかんのだが、倒し辛くなった。
と言うかこいつ、ホモな迷惑かけた以外に倒す理由が見付からん。
前のアホ魔王みたいに、エリスの太もも舐めてくれればサックリ終わるが……。
かと言って俺のエリスをまた穢されるのは我慢ならんし、困ったな。
「あ、あれハルヒトさん……」
そんな事に迷う俺に声がかかる。
何事かとエリスが指を向ける先を見やれば―――
「お前、体透けてね?」
「あらぁ~ん? ちょ、これって
ムキムキ魔王様は水溜りの中でバチャバチャ慌てて回る。
すると余計に体が透け、白く発光し始める。
エリエットが何かしているのか?
いやしかし聖女は契約した勇者以外とじゃ力を発揮出来ないと聞いてる。
となるとエリスの力……?
そして水浸しのエリスを眺めていると、スカート越しに雫が伝う足へ目が行く。
「もしかして太ももの雫に
「いやあああぁ~あんっ!
まさかこんなよくわからない消え方するなんて……っ!
で、でもぉ~
そして筋肉魔王は色白の顔を恍惚に染めながら消滅した。
□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □
「いやーお陰で助かったのじゃー。
これ以上お腹が張ったらどうしようかと不安だったんじゃよーワシ」
「安心して下さい。
国王サマのピザレベルはそんな簡単に変わんないっすよ」
「まじでー?」
一件が無事に終わり、国王を始め男達の体は元に戻った。
国王は腹をペチペチと叩いて上機嫌。
しかし俺は何ともスッキリとせず、自室でゆっくりするも何かモヤモヤしてた。
「あーら折角ホモ魔王倒したって言うのに、元気ないわねぇゲイ者様ぁ」
「おいコラ誰がゲイ者様だ。
俺は可愛い女の子にしか興味ねぇし、エリスだから好きなんだよ」
「はいは~いどうもご馳走様ぁ。
そこまで言うなら、お姫様の前でムッスリはやめなさいなぁ?」
そう返されてエリエットの視線を辿れば、隣に座るエリスに顔が行く。
「あ……ごめん」
「い、いえ」
互いに何とも言えない雰囲気となり、会話に詰まる。
「今回の一件、大変でしたね」
「……そうだな。エリスも色々嫌な思いしたよな」
「いえ、ハルヒトさんも、大変でしたよね。
でも自分は嫌な思いと言うより、その、少し嬉しかったと言うか……」
そう言ってエリスは自分の軽くお腹をさする。
そして俺が困惑するのを理解しながらもエリスは苦笑を交えて続ける。
「ハルヒトさんの前でこんな事を言ったらいけない、とはわかっています。
でも自分は何と言いますか、一件の間、嬉しかったんです」
「……どうして?」
予想とは違った返答を前に、思わず訪ねた。
魔王のせいで妊娠だなんて訳わからない事になったのに、何で嬉しかったんだ?
「え、えーっとですね自分が本当の女になれた気がして……。
ハルヒトさんも妊娠したって時に、色々と考えてくれてたのが嬉しくて」
「ほーら勇者様ぁ?
そこは『俺がお前を女にしてやるゼ』くらいの事を言ってあげたらどうかしらぁ?」
「エリエットお前なぁ……」
「いやーん勇者ったらエローい。ワシこわーい」
「ちょっと黙れ下さいピザ国王サマまじぶっ飛ばしますよ」
真面目な話も間に入ったエリエットによってぶち壊される。
まぁ微妙な空気になったのは悪かったとは思うケドさ……。
あれ、待て。
嬉しかったって事は、女を体験出来たからだよな?
そして俺は、今まで確かめていなかった問題に気付く。
「エリスはさ、やっぱり出来るなら本当の女の子になりたいの……?」
自分は今まで避けていた内容を口にした。
エリスは女の子に生まれるハズが呪いのせいで男に生まれ、魔王討伐の為に女の子として育てられ。
しかしそれらは全部、この子自身が望んだ事ではないんだ。
俺の言葉に皆は固まり、エリスは返答に困って胸元の髪を少し弄る。
「そう、ですね……。
もし叶うなら、女の子になりたいです」
眉を八の字にしながら、そう静かに答える。
だよな。
じゃないとそこまで仕草一つ、女の子をやれるハズない。
確認を終えた俺は、瞑目すると深呼吸を一つして整理を付ける。
今までエリスはそう言った本音を、ずっと我慢してたんだと思う。
そしてその本音を言える場所もなく、聖女と言う立場もあり、吐き出す事も出来なかったんだろう。
しかしこの世界では、性別を変える方法はないと言われた。
―――いや、待てよ。
そんな方法が無いなら、何でエリスは妊娠した?
西の魔王と戦ってる時、アイツは何て言った……?
「わかった、俺がエリスを女の子にしてやる」
気付けば俺は、一件で見えた可能性を胸にそう言っていた。
妊娠させる魔法なりが存在するなら、女にする方法があるハズだ。
そして言い切った俺を見る一同は間を置いてから、顔を赤くして動揺する。
するとエリエットが顔を頬を染めながら嬉しそうに、
「ゆ、勇者様もエリスの事となると本当ぉ大胆ねぇ。
でもそう言うセリフは、2人きりの時にもっとムードを作ってから、ね?」
なんて呟く。
はて何の事やらと思うのも束の間。
「いや、そう言う意味じゃないからね!?」
と、俺は慌てて否定した。
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