虚構の世間話
その眼は虚空でも空虚でもなく、網膜へと投射された光はしっかりと彼女の脳へ届いていたことがサクラコには判然としていた。
その窓辺を眺める佇まいより伝わる情報量の筋というものは明瞭だった。
「争いのない世界を希求するのはありきたりでしょうか」
サクラコはフリージアのポツリとした問いかけにフフフッと笑んだ。
「私達が行っている仕事自体、平和とは縁遠いものかもしれないと示唆されたばかりなのに」
フリージアは金色の長髪をふわりと揺らしながら、柔らかくサクラコへと振り向いた。
やはり彼女の目に濁りなど感じられない。
彼女はサクラコと同じように笑った。
「フフフ、それもそうですね。でも、サクラコさんはこの組織に期待を抱いているからこそ留まるのでしょう?」
サクラコは彼女を直視しながらニコリと返答した。
「はい。貴方を含めたここにいる人たち、その行く末は決して悪いものではないのだとは思っています」
そしてすぐに否定の言葉を重ねた。
「いえ、嘘をつきました。本当の事を言うと、私は他に身寄りがないというのを言い訳にここに留まっているに過ぎないのではと最近感じています。確かに救うことが出来たと自負できる人も居ました。しかし何分、依頼内容その一部始終に明かされない点、不透明な点が多すぎます。どこまでが真実かどこまでが嘘か。まるで自分がミステリー小説の登場人物に挙げられているようです。加えて私は名探偵のような学も脳もないのですから日々落ち込んでばかりです」
一息入れて。
「ですが私はエリカの件を一考したうえでも、ここには残りますよ」
フリージアは答えた。
「誰も……減らないのですね……」
その言葉尻に揚げ足を取る気は無かった。まるで「減って欲しかった」と聞こえる表現をサクラコは流した。
「フヨウの処分は妥当だと、現段階の情報では納得しています」
「ですね……」
こうして一抹の何気ないサクラコとフリージアの会話は他愛ない世間話へと転化し、のち終息した。
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