キャンプ道中3

「は!? アベリアが倒れた!?」

「Da! ソウデース」

「ちょっと……カモミールに代わっていただけないかしら?」


 ハスと合流して再び一号車に乗り込んだサクラコ一行。

 サクラコの説教が思いのほか長時間に及んだこともあり、カモミール達二号車は既に目的地へ近づいていてもおかしくないはずだったが、おいそれとは行かないようだった。


「それが実は色々あってね。まぁ僕も悪いんだけど……」

 要領を得ない説明の仕方だったラナンキュラスに代わり、応答したカモミールはそのように述べた。

 カモミールにしてはあまり歯切れが良くなかったが、それでもラナンキュラスよりは幾分マシだとサクラコは感じた。

「詳細が欲しいわ」

 サクラコは手短に聞いた。

「あぁ。実はその、行き掛けで食材購入のためスーパーへ寄ったんだ。そこでアベリアが何時の間にか缶ビールを大量購入していてね。まぁ今日の人数を考えるなら盛り上がるし良いかと特に気にしなかったんだ。そして、再び車を走らせると、道中で、アベリアがこの量なら絶対余るから今からちょっとだけ飲みたい飲みたい、ねぇ、ちょっとだけってどうしてもせがむものだから許可してしまったんだよ」

「はぁ……。なるほどね。それで?」

「う、うん、まぁそれでなんだけど。言い訳になってしまうけど、僕は運転に集中していたし、ラナンキュラスとナノハは、いつも通り仲睦まじい様子というか……、要するに僕ら二号車の誰もアベリアのことを注視してなかったんだ。そして僕が、赤信号の際、ふと助手席を見ると、缶ビールが既に七本ほど転がっていたんだよ」

「七本!? そんな短時間で……」 

「ああ。そしてぐでんぐでんに出来上がってしまったアベリアは、それはもう酷かった。まぁ行き掛けから凄くハイだったけれど、そこにアルコールの力が加わってもう止められなかったんだよ。本当に言い訳を繰り返すようだけど、僕も運転中だったからね……」

「はあ。二号車も大変ね。それで具体的にどうなったのかしら、アルコール中毒?」

「いや、脳震盪だね」

「脳震盪?」

 少し間があって、カモミールは続けた。

「まぁ、その、アベリアもレディだから口にはしづらいけど、急に下着姿になって僕に抱き着きだしたり、二列目に乗り込んで、踊り出したり泳ぎだしたりしたんだよ」

 サクラコはそう聞いて、暫し言葉を失ったが続けた。

「ごめんなさい、言葉の意味はわかるけど、ちょっと何を言ってるかわからないわ……泳ぎ?」

「う、うん、まぁ、要するに酒乱状態だったと受け取ってくれれば良いよ。そして、最もピークの際、簡単に言うと、ラナンキュラスに突然チューしちゃったんだ」

「は……?」

「まぁ、既婚者でアベリアとも親しい僕が何をされようと冗談で済む話なんだけど、よりによってナノハの目の前でラナンキュラスにしてしまったらしいんだ……。僕は運転中だったから直接見たわけではないけれど……」

「そして、堪忍袋の緒が切れてしまったナノハが、三列目にあったクーラーボックスを手に取り、アベリアの顔面に思い切り、投げ付けちゃったという訳なんだ」

「……」

 サクラコは開いた口がふさがらなかったが、とにかく話を続けるしかないと気を引き締めた。

「それで脳震盪ということ?」

「そうだね、その場に意識を失ってゴトリと倒れた様子を見て、非常に危険だと判断した。すぐに救急を要請して病院に搬送させたんだよ。だから僕らは今、山の近くの大病院に居る」

「なるほどね……。一通りの事情は把握したわ。アベリアの容態は大丈夫なの?」

「あぁ、幸い程度も軽かったらしく意識も戻っているよ。医者ももう大丈夫だってさ。最も、本人は流石にしおらしくなっているけどね」

「そう、それは何よりね。それで、えーと、どうしましょうか?」

「そうだね、アベリアもちょっと落ち着いて夜には山に来たいと言っているよ。僕もアベリアにお酒を許可した責任があるから、暫くはアベリアに付いているよ。ナノハはまだ少し根に持っているようだったけど、反省していたし、ラナンは全然気にしてないようだった。二人は、この辺を散歩してくるってさ。だから僕ら四人は夜に合流するよ。問題は食材関係だね」

「それは気にしなくて良いわ。結局、私達もゴタゴタがあったから、着くのは夕方頃になりそうよ。お昼は何処かでつまんでくるし、夜までに来てもらえれば大丈夫だわ」

「そうかい、ありがとう。悪いね、色々と問題を起こしてしまって」

「ふふ、それはお互い様よ。まったく、ただの一泊旅行がどうしてこうなるのかしらね」

 サクラコがそう述べると、カモミールは笑いながらこう言った。

「ははは、そうだね、でもそこがまた、僕らの持ち味なのかもしれない」

「はぁ。あなたの器量には敬服するわ」

「いやいや僕なんかより、サクラコが居てくれて皆助かっているよ」

「はは、そんなことないわよ。ふぅ……。わかったわ、それじゃあね」

 サクラコは通話を切って、一号車の面々に事情説明をしようとしたが、カモミールが口を継いだ。

「あっ、ちょっと待って。問題に問題が重なるようで申し訳ないんだけど」

「え……? 何?」

 その前振りはどう捉え直しても、悪い話が待っているとしか思えなかった。

「それがね、買い出しの時までは一緒だったんだけど、三号車が途中で後方に見えなくなってしまったんだ。一度連絡したんだけど繋がらなくてね。まぁその時はノロノロ走ってる僕らを見かねて何時の間にかアロエが追い抜いちゃったと思って特段気にしなかったんだ。ただアベリアの件が落ち着いて今改めて思うと、迷ってないか心配でね」

「はぁ、あの馬鹿のことだから、行き先を間違えて明後日の方角を目指してるなんて十分考えられることね。わかったわ。こちらから連絡してみる」

「助かるよ。まぁ、皆で楽しい夜を過ごせるよう祈っている」

「そうね」

 そうしてサクラコは一抹の不安を他所に、一号車メンバーに現状を通達し、アロエに連絡することとした。

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