キャンプ道中2
サクラコはカモミールとの通話が終了した後、ハスには手頃なコインパーキングで車を停めなおしてもらうよう頼んだ。
取り急ぎ近所の公園で腰を落ち着けたサクラコ、ガーベラ、リナリア、アズサ、ギボウシの五人。特にアズサとギボウシに至っては、園内にある砂場の上で正座させられていた。二人とも同じような黒Tシャツだったため、幸い公園に人気は無かったものの、端から見れば何かの悪質なイジメのように見えたかもしれない。
サクラコがある程度、アズサとギボウシを説諭したものの、彼らはあまり得心の言った風ではなかった。
「オーケー。今回の件は謝る。僕としたことが、紳士さを欠いていた。感情的な思考を考えなしに吐露したことはとても思慮の浅い行為だったように思う」
「まぁ、サクラコにこうやって面と向かって言われると返す言葉もない。むしろ冷静にしてくれて感謝している。正直に言うとね。ギボウシそのものを嫌っているわけではないと思う。ただ私の中にある憎悪の対象のようなものを彼が体現していることが多いから」
両人ともそのように口だけは立派だったものの、結局一度も顔を合わせようとしない。
どちらもあくまでサクラコを通しての間接的な謝罪に終始した。
――根は深いわね。
サクラコは、どちらかと言えば、ギボウシよりもアズサの方が敵対意識が高いように見えた。
ギボウシは元来、趣味である読書の影響なのか鼻につくような言葉遣いをするが、その言葉の棘並みに内心が荒んでいる訳でもなかった。そのことをアズサがジャッジできないほど愚人であるはずがない。
とすると、確かにアズサは自己の言葉通り、ギボウシそのものではなく、ギボウシのようなタイプの者を許せなくなるような、過去のトラウマ等があると考えられた。
アズサが腰に隠し持っていた短刀。夢で愛用している物と瓜二つだった。
あれだけ気持ちよく具現化できるのだから、高い比率で眺めていることは想像できたが、まさか肌身離さず持ち歩いているとは。
いずれにせよ、彼女が培ってきた人生、過去の出来事による価値観、これらには多少なりとも危険度のある何かがある気がした。
小柄だが、その流れるような黒髪のショートヘアに確かな美貌を携え、キリリとした黒く大きな瞳から覗くことができる強い精神力。
そのような非常に洗練されたアズサという像が、ほんの少し揺らぐのをサクラコは感じざるを得なかった。
だが、ボタニカルに属する前のアズサというものを知らない以上、今後とも時に注意深く彼女を見守っていくしかないのだと結論付け、サクラコは気持ちを切り替えることにした。
「ふぅ。まぁ、今回の件に関しては、喧嘩両成敗ということで水に流すとしましょう。だけど、次にやったら許しませんからね」
「はぁい」
「ふぁああい」
「なんであなた達が返事するのよ」
涙目になりながら「ふぁああい」と返事したガーベラが言った。
「よよぉ、だってサクラコ怖すぎるんだもん……。鬼子母神だよ……私食べられるよぉ……」
「鬼子母神というのは当てが外れていると思うけど、いや、むしろ合っていると言えるかもしれないけど、言い得て妙のような言い得ていない妙のようなだけど、やっぱりチームAのメンバーって興味深いよね」
特に涙ぐんでいる様子もなく、むしろ事態に興味津々のリナリアは相変わらず不思議なことを言いながらうんうんとうなずいていた。
サクラコはそんな彼女達を見ると、ようやく気が抜けた。
「はぁ。全く。少し疲れたわ……。この辺でお開きにしましょう。あぁごめんなさい、二人とももう正座やめて良いのよ?」
「感謝する」
アズサはそう男らしく言ったものの、立ち上がった途端、「いててっ」と可愛らしく間抜けな声を出した。武道の心得があると聞いていたが、どうやら正座は苦手らしかった。
対して意外にも卒なく立ち上がり、砂を払うと、周囲を追いて、さっさと公園を後にしようとするギボウシ。
「ちょ、ちょっと待って。あなたハスが車をどこに停めたか知っているの?」
「知ってるさ。既にメールでやり取りしたからね」
「え? はあ、さては説教中にポケットで携帯弄ってたわね? まったく……」
やれやれと思いつつも、サクラコらは、ギボウシの後を追った。
その過程でサクラコはカモミール一行の二号車へ連絡を入れることにした。
恐らくは運転中のカモミールを避け、その隣にいるだろうアベリアに電話を掛けた。
しかし一向につながる様子がない。
「ちょっと、ごめんなさい。誰か、ラナンキュラスかナノハの連絡先を知らないかしら?」
サクラコがメンバーに尋ねるとガーベラがすぐ返事をした。
「えー、あのバカップルの連絡先知ってるメンバーなんているのかなぁ? それこそアベリアかハスぐらいじゃないのぉ。ああああもうあのリア充共を思い出すだけで死にたくなってくるよ。私だってこんなにお色気魔神なのにどうしてモテないんだろう」
「え、どこが?」
「ちょっと、リナちゃん、冷静に突っ込まないで」
「ガーベラ、バカップルなんてそんな言い方は良くないわ。それにあなたラナンとはそこそこ馬が合うじゃない」
「サクラコもそこじゃないよ……私はお色気魔神の話をしたかったんだよ……」
「じゃあすれば?」
「もーう、リナちゃぁぁん……」
結局、ここにいる誰もが彼等の連絡先を知らないようだった。サクラコは取り敢えず車にいるハスと合流してから連絡を取ることとした。
それにしても、アベリアと連絡が繋がらないとは珍しい。サクラコは何だか嫌な予感がするのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます