4・エイリアン

この世界は自分の世界じゃない。そう感じ始めたのはいつごろだったか。

小学生の高学年頃にはそう思っていた気がする。どこにいたって居心地が悪かった。

家にも、学校にも、塾にも、街にも私は馴染めなかった。不良やオタクみたいな『普通』に馴染めない連中の中にも私は馴染めない。私は馴染もうとしなかった訳じゃない。


人が私を見れば、私は『普通』の範疇に入るだろう。少ないが友人もいるし、恋人もいる。けれどそれは、やっぱり上っ面だけで誰と居ても息苦しかった。年をとってそれを隠す事が上手くなった事の証明が友人達と恋人だってだけだ。

じゃあどうすればいいんだ?

いつまでも、いつまでもこの息苦しい世界で生きて行かなきゃならないのか。


この世界は私の世界じゃない。そう考え始めてからは、無性に何処かに行きたくなった。取り敢えず『ここ』ではない何処か。

けれど、『何処か』なんてどこにもないって事も分かっていた。それが実にありがちなチープな悩みだってことも分かっていた。分かっていても、息苦しさは消えなかった。生まれ持った宿命なのだ、と納得するしか私に道はなかったのだ。


私は人間として生まれたエイリアン。だから仕方がない、そう考えることにした。



俺が臨場した現場に転がっていたのは、見慣れた『首輪』を着けられた犬の死骸だった。

「これで何件目だ?」

相棒の佐川にそう尋ねると、佐川は死んだ犬を方を見たまま答えた。

「7件目ですね」

野良の犬猫が殺される事件が今月に入って7件目。それも全てお手製の首輪に仕込んだ12〜13本の針を首に刺して失血死させる手口を使っている。

おそらく睡眠薬を混ぜた餌を食べさせて、眠った犬猫に『首輪』を取り付けて苦しむとこを見て楽しんでやがるんだろう。

犯人は反吐が出るカス野郎で、同時にわざわざ証拠の首輪を残して自分の犯行だとアピールするような奴。自分の犯行を知ってほしい、自分を理解してほしいという感情の表れなんだろう。

それが挑発のためか、自分を止めてくれと言っているのかは分からない。

「…イカレ野郎め、犬猫に何の恨みがあんのかね」

「まあ、マトモじゃないですね。この殺し方は」

「大分ブンヤも騒いだからな。ホシはかなり調子に乗ってる。…対象が人になるのもそう時間はかからねえかもな」

「…そうですね」

佐川はこちらを見て、そう返事をした。

「その前に必ず捕まえるぞ」

「はい」

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