スナッフフィルム職人の最後

ちびまるフォイ

ランドスーはモンスターの通貨単位

「はじめまして、私の名前はランドスーというものです」


「ずいぶん変わった名前ですね」


「ええ、モンスターの世界で使える通貨の名前なんです。

 人間でたとえると"円"みたいな名前ですね」


「それで、俺は何をすればいいんですか?」


「実はモンスターのスナッフフィルムを撮ってほしいのです」


男はコンタクトレンズを見せた。

これは文字通り“レンズ”になっていて、見た風景を録画できる。


「スナッフフィルム?」


「"殺害映像"です」


「モンスターを殺す映像を撮ってなんになるんだ?」


「ふふふ、これが意外に需要あるんですよ。好きな人は食いついて見ます。

 ほら、年末に格闘技とかあるじゃないですか、あの感覚ですよ。

 襲い掛かるモンスターを人間がばっさばっさと倒す映像が見たいんです」


「わかった、これをつければいいんだな」


「話が早くて助かります。ああ、そうそう忘れてました」


男はカバンから紙を出して俺に見せた。

そこにはモンスターと、それぞれの料金が書いてある。



コボルト…100円

ゴブリン…100円

 オーク…500円

トロール…10000円

バハムート…5000円



「必要な装備は、異界ポータルの近くに設置しています。

 ワープするときに手にしてくださいね。

 あ、でもあまり強いのを選ばないでほしいです」


「なんでだ?」


「一方的な殺戮は視聴者が冷めてしまいますから。

 あなたはヒットマンであり、ユーチューバ―であり、タレントなんですから」


「わかったよ」


ポータルの前に置かれているのは重火器から刃物までよりどりみどり。

俺は意外性を狙ってハンマーを選んだ。



最初はなかなかうまくいかずにグダグダとしながらもモンスターを殺した。


その様子を撮影したコンタクトレンズは、異世界から戻ったあと返却する。

録画された映像が編集されて世に出るというわけだ。


「コボルトお疲れさまでした。今回の報酬110円です」


「100円じゃないのか」


「映像の反響によって報酬が追加されます。

 今回は殺し終わるまでに長かったので視聴者も飽きてしまいました。

 武器の選択はよかったと思いますよ、今後もよろしく」


「わかった」


それから何度も異世界に赴いてはモンスターを殺して録画した。

だんだんと武器の扱いにも慣れ始めて、追加報酬額も増えていった。


「ナーガを殺したんですね、大変だったでしょう!」


「ああ、1万円ね。たいしたことない相手だった」


「1万円?」


「最近はモンスターを殺すのに名前を覚えるのが面倒でね。

 殺すモンスターは名前ではなく値段で覚えているんだ」


「さすが、いまや大人気のスナッフフィルムカメラマンですね!」




数日後、事件が起きた。


「大変です! ポータルが何者かによって壊されています!」


「なんだって?」


男と一緒に異界ポータルに向かうと、ポータルの制御装置がぺしゃんこになっていた。

これでは現実と異世界の扉が開きっぱなしだ。


「……いや! これはチャンスかもしれません!」


男は壊れた異界ポータルを差し置いて目を輝かせた。


「今現在、きっとこの世界にはたくさんのモンスターが入ってきています!

 現実世界でモンスターを殺す非日常感! これはヒットします!」


「俺もそのつもりだった」


「さっすが! 話が早い! よっ! スナッフ職人!」


「調子いいな」


「調査したところ、異界から現実にきたモンスターはここに集まっています。

 現場に向かってサクッと殺し潰してきて下さい」


「その方がいい映像が撮れそうだな」


モンスターが集まっている場所へと向かった。

そして、軍勢を引き連れて人間たちの住んでいる町へとやってきた。


モンスター軍の先頭にいる俺を見て、男は目を白黒させた。


「あの……いったいこれはなにを……?」


「異世界でモンスターを殺している時に取引を持ち掛けられたんだ。

 悪い話じゃないから受けることにした。

 どうやらあっちにも需要はあるらしい」


「ま、まさか……スナッフフィルム……!?」


男は顔が真っ青になって足ががくがくと震えている。

命の限りをふりしぼって命乞いをした。


「止めてくれ!! 生き物を面白半分で殺していいわけないだろぉぉ!!」





「100ランドスー、ゲット」


モンスターに向けてハンマーを振り下ろした。

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