革命の火種④

「んで、なんで連行されてるんだ?」


腰に繋がれたロープを持ちながら、こちらをチラチラ見てくる少女に問い掛ける。


「貴様には聞きたいこともあるし、会ってもらう御方が居る」


通行人の視線が自分に集まって、売られる見世物の様な気分になる。

暫く街を歩いていると、大きな門が見えてきた。


遠くから見ても大きいのに、近くで見ると更に大きく見える。

逃げ出す隙を伺う為に口を開く。


「怪しい者を会ってもらうお方ってのに謁見させるのか。得策とは言えないな、って事で帰りたい」


「貴様は今から更に拘束させてもらう、手を後ろで組め、あと服はこちらで用意する。それと剣も当然預かる」


腰の剣を取られ、脱いだ服の代わりに白い服を渡される。


「更に拘束されるのか」


服を着た後に大きな城門を潜って、聖家本家よりも遥かに大きな城の中に入る。

長い廊下を歩いて、城内の一室に押し込められる。


「帰りたいな」


『この世界に帰るところなんて無いのに、どこに行く予定なんや』


「……」


『……』


重ったるい沈黙が続く。

現実を突きつけられて、返す言葉が見つからない。


「部屋の外に居るのは七人、中庭では騎士たちが集まって逃げられそうにない……か」


『部屋の外に居るのは八人、中庭では騎士たちが集会をしてるから逃走は不可能やな』


「七人だ。認知症かババア」


『八人や。ほんに衰えたな糞ガキ』


外の見張りの数について言い合っていると、部屋のドアがノックされる。

ドアの向こうから、槍を持った騎士が入ってきた。


「出ろ」


無愛想に、簡潔に言い捨てて部屋から出ていく。


「物騒だな」


言われた通りに部屋から出ると、また周りを騎士に固められてどこかに連れてかれる。


「どこに行くんだ?」


「黙ってろ」


只管に長い廊下を歩かされて、雰囲気の違う頑丈そうな扉の前で止まった。


「王に失礼のないように、それと怪しい動きを少しでも見せれば……分かるな?」


物騒な言葉を聞いたが、そこはスルーする事にした。

今の言葉は冗談だと思う事にして、重い扉を開いて中に入る。


扉を全て開けると、謁見の間に居た全騎士が剣を抜いた。


「え……なんか怖いな。帰りたい」


すると王の隣に居た綺麗な女騎士が、剣を抜きながらこちらに歩いてきた。

目の前で剣を大きく振りかぶり、迷い無く水平に振る。


地面と並行に軌道を描いた剣が、首元ギリギリで寸止めされる。


「避ける素振りも無ければ怖がっている様子も見えない。余程の猛者でも出来る者は少ない、君は何者だ?」


「聖家五十三代目現当主、九条斑鳩。あと避ける素振りが無いのは反応出来ない速さだったからだ」


『斑鳩ちゃん、最後のは堂々と胸張って言えへんと思うんよ』


「ちゃん付けするな」


「斑鳩って呼べばいいかな? それと反応できなかったってのは隠し通して、怖くないって言っていた方が君に利があったんじゃないのかな?」


「正直者なので」


『あ、嘘ついた』


「後で話し合おうか」


『え、遠慮するわ』


こちらを見ていた女騎士が、不思議そうに顔を見て剣を首筋に触れさせる。


「何か?」


「いや、誰と喋ってるのかと」


「斑鳩とですけど?」


「斑鳩? 取り敢えず後で私の部屋に来てほしい、色々と調べたい」


暫く喋っていると、今まで後ろで座していた人物が少し不服そうに声を上げた。


「エルト、僕を除け者にして何を二人で喋っているんだい。そんなに親しい仲だったとは心外だな、羨ましいな、僕もその子と話したいのに」


「失礼致しました」


女騎士が剣を首元に置きながら、背後に回った。


「なぁ、剣の場所間違えてないか?」


「ここで合っているが?」


女騎士は笑って答える。


「そうですよね。有難う御座います」


「じゃあ質問するよ。君の名前は?」


「九条 斑鳩です」


「随分と珍しい名前なんだね」


「俺の所でも珍しい名前だったので。本名ではないですが、次はこちらから質問よろしいでしょうか」


「今は僕が質問しているのだが」


「貴女様のお名前をお聞かせ願いたい」


後ろに立って居るエルトと呼ばれていた女騎士の剣が少し動く。


「貴様に質問は許されていない」


「良いさエルト」


騎士は不安そうな顔をしながらも、納得のいかない顔で引き下がった。

その騎士にどうだと言う顔で見ると、足で腰を蹴られる。


「君が聞きたいのは僕の名前かな?」


「ええ、貴女様の名です」


「そうだね、僕の名前はティエオラ・ルーシュ」


「ティエオラ王、質問は以上です」


「ん、そうか。次は僕の質問に答えてもらうよ。副団長を圧倒したってのは、事実かい?」


「覚えがありません」


頑張って白を切ると、首元の剣がまた少し動く。


「いやぁ、多分したかもしれません。はい、かも」


「うん、したんだろうね」


ティエオラは満足そうに答える。


「ニつ目、君はどこの何者だ?」


「先程申した通り。私は聖家の五十三代目現当主です」


「聞いたことのない家だけど、五十三代目って事はどこかの貴族かな?」


「名家です。昔は貴族でしたが、主上としていた家が無くなったので、個々の家で政策をしております」


「じゃあ、聖家はどんな家柄なんだい?」


「第十四光議会の第ニ席をさせてもらっております。昔は武によって仕えさせてもらっておりました」


「武により主上に貢献するという家なら、その強さも納得出来るね」


謁見の間のドアが勢い良く開かれ、一人の騎士が転がる様に走り込んできた。


「失礼します。北タリアスが攻めて参りました」


報せを聞いて即座にティエオラが立ち上がり、全員に命令を下す。


「全騎士応戦準備、最前線の砦に急ぎ向かう。それと九条、こちらの世界に合わせる為に君の名は今からアルカナとする、君も一兵士として参加してほしい。僕の側近兼騎士団長補佐として君を最前線に出す。先鋒は先に騎馬隊を率いて食い止めるんだ。エルトは僕と一緒に残りの全兵を率いて参戦する」


なぜか強制的に最前線に送られた、帰りたい。

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