革命の火種⑤

服と剣を返され、馬を借りて城門前に集合してから出撃した。

城下町を出ると、ずっと隣で並走していた騎士が話しかけてきた。


「見ない顔だな、鎧も着ずに戦場に行くのか?」


「まぁな、鎧は機動力が落ちるから遠慮したよ」


「お前、エルト様に斬られそうになっても動じなかったそうだな」


「いや、速すぎて反応できなかっただけだよ」


「とか言って、本当は見えてたんじゃないのか?」


「うん。誰だ」


「おお、名乗るのが遅れたな。俺の名前はゼルってんだ」


「ゼルか、覚えておくよ」


覚える事の無いだろう名前を聞き、ゼルから離れようとする。


「おう。んで話を戻すが、本当は見えてたんだろ?」


ゼルが話を続けた為、仕方なく留まる。


「何でそう思うんだ」


あまりにも執拗いゼルは止まる気配が無い為、観念して答える。


「見えてなけりゃ、気付いた後に腰抜かすだろうよ」


「見えてたって。まぐれでも良よく分かったな」


「そりゃ俺はお前が只者じゃないって思ってるからな。あの副団長を圧倒したんだろ?」


「副団長とエルトでは格が違うだろ。エルトは構えも太刀筋も全く違うものだったからな」


「アルカナの名前は今や全騎士に知れ渡ってるぜ。軍に入った直後にこんなに話題になるなんてな」


「何でだよ」


「副団長を圧倒するなんて、俺らはティエオラ様とエルト様以外に見たことないからな」


無駄話をしていると、前方に中規模の砦が見えてきた。

目の前に紅い鎧に身を包んだ騎士が、砦に群がっていた。


それを確認したこの部隊を任されてる先鋒隊長が、大きな声で指令を叫んだ。

その後に太鼓と笛が鳴らされ、同じ支持が飛ばされる。


「全軍、左翼右翼に分かれて突撃‼︎」


相手の数が多いにも関わらず、向かう騎士の少ない右翼に配属された。

左翼に先鋒隊長が行ったので、事実上右翼には指揮官が居なくなった。


全軍が突撃して、混乱する前に味方を全員追い抜き更にスピードを上げる。

トップスピードで敵の横腹を突く形で突っ込む。


仲間からかなり離れていた為、すぐに周りを大勢の騎士に囲まれる。

馬を下り、空いていた穴から逃がす。


突撃の余波でまだ乱れている敵を、片っ端から斬り伏せていく。


「一人、二人、三人……うん面倒だ」


数えるのが面倒になり、ただ斬ることに専念した。

舞うように戦っていると、暫くして置いてきた軍が突撃する。


敵がさらに大きく乱れ、形勢が不利になった敵は立て直すこともなく散り散りに撤退していった。

左翼が苦戦しているようだが、あちらに任せ砦の中に入る。


砦の中には多くの負傷者が横たわっていた。

中様子は誰が見ても酷い状況で、辺り一面がボロボロで兵の士気も低い。


来る前に相当攻撃を受けた事が予想される砦の中には、誰一人として前を見ずに俯いている。

砦の防衛長の話を聞くため兵たちに聞き回ると、すぐに見つかったが言葉を語る事もなく静かに寝転がっている。


静かに眠っている戦士の隣にしゃがんで、両手を合わせて祈る。

防衛長の話を聞く事も叶わなかった為、左翼の様子を見る為に外に出る。


右翼より多く騎士が向かっていた左翼だが、数が少ない敵に押されていた。

右翼の騎士を砦に置き、単騎で左翼に参戦する。


参戦して暫くするとティエオラの本隊が到着し、その戦闘は北タリアス軍の撤退で終わったが、南タリアス軍は大打撃を受けた。

後日王都から新たな兵と物資が砦に運び込まれた。


物資を届けた後、外で南タリアス軍の死者を探して砦に全人運んだ。

今回の防衛戦で友人が死んだ者も居た。弟が死んだ者も居た。


参加した殆どの騎士が泣いていた。

昨日まで一緒に笑い合っていた者が今日には居ない。


もう話すことも出来ない。笑うこともなくなった友を見て、皆は何を思うのか。

少し嫌な事を思い出した為、考えるのをやめる。


その後、砦の修復を終えた先鋒隊は王都に帰投した。

王都に帰る途中、誰も喋ることはなかった。


そして自分もその中の一人だった。


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