ティエオラが王都に帰還後、北タリアス攻めの準備を進めていた秋奈は、攻撃隊を城の前に並ばせていた。


アルカナが倒れてから、ずっとイライラしている秋奈は、誰も近寄らせないと言う雰囲気を放っている。


「八番隊列がズレてる、やる気が無いのなら外れて。三十二番隊ひとり足りないけど何処」


「はっ。急病の為……」


「なら出撃準備前に報告」


「はっ、申し訳ありません」


溜息を吐いた秋奈に、クラウスが鉢巻を手渡す。


「持ってきてくれたの」


「ああ、軍服の内ポケットにあったよ」


鉢巻を右腕に巻いた秋奈は、鉢巻の両端を、腰の鞘に括りつける。


空を見上げて、聖家五十二代目の名を小さく呟く。


「随分と気合が入ってるな。アルカナが倒れたのが、そんなに響いたのか」


秋奈の隣に並んだアルトリアは、宥めるように話し掛ける。


「貴方、アルカナが暴れてる時止めなかったそうね。結局は見捨てたのか、それとも臆したのか」


「あんまり虐めてくれるなって。正直に言うと、怖かった気もするけど、手を出すべきでないって思ったんだ」


「都合の良い言い訳ね。貴方に用は無いの、早く自分の隊に戻ってくれるかしら」


「あんまり気を張り詰めすぎんなよ。切れた時が厄介だからな」


肩を二回叩いて歩いて行ったアルトリアに、秋奈は少し嫌悪感を覚える。


自分は雨宮家の一人娘として、何事もやれないままにはしなかった。


それは負けた気になるからであり、諦めてしまう自分が嫌いだからだ。


今まで常に気を張って来たが、一度も切れたことが無い。


切れるとしたら、それは……


「準備が早いね秋奈。エルトが指揮を執るから、君は参謀として頼むよ」


エルトと城から出てきたティエオラは、甲冑も着ずに、いつも通りの服に一本の剣を帯剣しているだけだった。


「その格好は何なの。もしかしてそれで出るつもり」


「そう言う君も軍服に鉢巻、そして一本の細剣と短刀だけ。大して僕と変わらないじゃないか」


「私は非戦闘員だから。剣を振ったことも無い」


「ティエオラ様、そろそろ出ましょう。城に二千残して行きます、攻撃隊は五千。留守はシェウトに任せます」


割って入ったエルトは、ティエオラを補助して馬に乗せる。


エルトを睨むが、こちらを見ること無く馬に乗って先頭に行く。


秋奈もそれに続いて先頭に行き、ティエオラの隣に並ぶ。


「南タリアス騎士団。出る!」


エルトが高々と宣言すると、門が開かれ、太鼓が鳴らされる。


「行ってしまいましたよアルカナさん。貴女は皆さんに全て任せる気なのですか」


出撃の様子をアルカナの部屋で見ていたシェウトは、眠っている蒼髪のアルカナに語り掛ける。


それに反応すること無く、アルカナは静かに、一定の間隔で呼吸をしている。


ベッドの横に椅子を移動させて、アルカナの手をとって、祈る様に椅子に座る。


背後でドアノブが軋む音がして、咄嗟に臨戦態勢に入る。


「シェウト、クライネが怪我した」


入って来たアイネはおどおどしていて、様子から焦っているのが見て取れる。


それ程大きな怪我をしたのか、心配になって急いでクラウスの下に向かう。


部屋に入ると、クライネが頭から血を流して泣いており、傍に血の付いた髪飾りが落ちていた。


「クライネ! 直ぐに手当するから」


医療室に入って、軍医に見せると、それ程深刻な傷ではなかった様だった。


止血して、頭に包帯を巻いてもらって部屋を出る。


「シェト……とんれけ、して」


まだ泣いているクライネは、シェウトの肩に涙を零す。


「痛いの痛いの飛んでけ〜。全部アルカナさんに飛んでけ〜。なんて可哀想ですよね」


「まだ痛いの」


「痛いの痛いの飛んでけ〜。全部私に飛んで来〜い」


「シェトに飛んでくのいや」


それを聞いてまた泣き出したクライネに謝って、アルカナに飛んでけに直す。


少し悪い気もしたが、あれだけ苦労させられたので、少しくらいは許してくれるだろう。


こんな事を言っても笑って許してくれる、優しい人だけど、それだからこそ怖い部分もある。


先日の無差別攻撃や、抜きん出た戦闘能力。


一番はあの眼と能力。


切断されても斬られても元に戻る、その目を使っている時は、不死身になる能力。


周りの人についてもそうだ。


最強の種族である、剣龍の姫を連れている都子。


そして、目で追いきれない程速い抜刀。


アルカナ以上の実力を持つ鈴鹿。


未来でも見えているかの様に、何手も先を読む秋奈。


王都防衛の際、ストレントの皇帝を一人で守り抜いた凛凪。


ストレントの皇帝として、覇権を奮っている七凪。


姿を見たことが無いが、鈴鹿が態度を変える妃咲部という人。


全員が常人を遥かに超えていて、ひとりひとりが、英雄に成り得る程の実力を持っている。


そんな事を考えながら廊下を歩いていると、アルカナの部屋を通り過ぎてしまっていた。


廊下を戻って部屋に入ると、相変わらずアルカナは眠っている。


「ぱぱ……とんれけ」


腕の中に居たクライネが、突然そんな事を言い出したので、思わず笑ってしまう。


「飛んでけって、痛いの痛いのは何処に行ったの」


ひとりで笑っていると、こちらを見ていたクライネの小さな手が、頬に触れる。


「シェト泣いてるの?」


「泣いてないよ。だって、笑ってるじゃんか」


ベッドにちょんと座っていたアイネは、「どこか痛いの?」と聞いてくる。


「だって……痛いんだもん。無力な自分が……情けなくて、心がね……」


自分の頬を熱いものが伝って行き、やっと泣いていることを自覚した。


「痛いの……とんれけー。ぱぱにとんれけー」


「もう……ありがとー」


ベッドに座っていたアイネも巻き込んで、ふたりをぎゅーっと抱き締める。


「シェ……ウトなの、か」


アイネでもクライネでもない声が聞こえてきて、ベッドに寝転がっているアルカナを見る。


目を覚ましていたアルカナは、青白い手を伸ばして、アイネとクライネの頭を優しく撫でる。


「やっと目が覚めたんですね! 心配で心配で。もう少しで、このまま泣き疲れて寝てしまいそうでしたよ」


「お、おお。すまん、お腹空いた」


「へぇっ?」


「いや、何かお腹空いてきてさ」


アルカナのお腹が小さな音を立てる。


それを聞いたシェウトは笑い出す。


それを見たアイネとクライネも、釣られて笑い出す。


「なら、もう直ぐで夕飯なので、街に食べに行きましょうか」


「料理長さんに怒られてしまうぞ。以前怒られて痛い目にあったから、あまりお勧めしないからな」


「何を言ってるのですか、勿論アルカナさんが全責任を……」


「却下……って言ってるのにおんぶしないで」


シェウトはおんぶしてアルカナを車椅子に乗せると、アルカナの上に、アイネクライネを乗せる。


「行きましょうか。お疲れ様って事で、食べに行きましょう。勿論アルカナさんの奢りで」


「分かったから。あまり大きな声を出すと、通りすがりの騎士に密告されるかも」


「そうですね。鬼族が切腹する時くらい静かにです」


「じゃあ、迅速に行こう」


ドアを開けて廊下を確認したシェウトは、車椅子を押して廊下に出る。


左に向かって廊下を進むと、大広間が下に現れる。


右に曲がって直ぐ左に曲がると、大広間に下りる階段に辿り着く。


「難所だな。どうやっており……」


車椅子ごと持ち上げたシェウトは、床を一蹴りして、一気に階段を下りる。


殆ど振動の無い着地で、アイネとクライネも、早く流れる景色を楽しんでいた様だ。


城門の前に立ったシェウトは、本来十人がかりで開ける門を、ひとりで開ける。


城から出ると外は黄昏時で、綺麗な夕陽が落ちかけていた。


「綺麗ですね。アルカナさんの髪の色と、真反対の色ですよ」


「私の髪はそんなに汚いか」


「そんな事言ってません。とても綺麗ですよ、アルカナさん自身も」


「私は男だ、綺麗と言われるよりも、格好良いって言われた方が嬉しいのだが」


「綺麗です、誰が何と言おうと綺麗です。銀も好きでしたが、蒼も好きです」


暫く沈黙が漂うと、シェウトが笑い出す。


微笑んだアルカナは、アイネとクライネを撫でる。


「ちょっと、今は私を見て下さい」


顎を指で持ち上げられて、強制的に上を向かさせられる。


「見てるよ。この目でしっかりと」


上から見下げるシェウトは、左右の瞳を交互に見る。


「左眼は紫色、右目は赤色なのですね。何だか色が沢山ですね」


「そうだな。そろそろ進んで頂けると有難いのだが、流石に限界だ」


車椅子の持ち手に手を掛けたシェウトは、ゆっくりと進んで、二つ目の門に歩く。


以前も同じ様なことがあって、出るのに少し苦労した。


今回はどうやって切り抜けるか。


だが今回は、立っている騎士に出たいと言うと、すんなりと通行許可が出る。


「何食べますか? 私はアルカナさんでも構わな……」


「私は美味しくない。シェウトは喰鬼種トロールじゃないだろ、肉が良いのなら店を探そう」


「喰鬼種なら良かったのですか、行った店を暴れて潰しますよ」


「後でその力は発散させてやるから辞めなさい」


上手く力の入らない手で、アイネとクライネを抱き締める。


泣いてしまったクライネを膝の上に下ろして、精一杯の力で膝を上下運動させる。


大きく揺れる動きで、なんとか泣き止んで、笑顔が戻ってくれる。


一安心していると、クライネが後ろから来た女性に持ち上げられる。


咄嗟にシェウトがアイネを抱え上げて、アルカナがクライネを取り戻そうと手を伸ばして、車椅子から落ちる。


なんとか女性の足は掴んだ。


立ち上がろうと力を込めると、上から手を差し伸べられる。


女性を見上げると、笑顔で泣かないクライネを抱いている。


「この世界に来てから家族が増えたのか、まだ母親は幼子に見えるが」


シェウトを見た妃咲部は、考え込む様に停止する。


「お前は何時も物事を簡単に受け入れるな、どうしたらそうなる。この子たちは保護したんだ、後ろの子も含めて」


「何をする気なんだ」


「保護だって。それ以外に……」


「戦争に巻き込んで兵士にしていると聞くが。なあ、幼子よ」


クライネに聞いた妃咲部だが、よく分かっていないクライネは反応しない。


「そんな気は無かった、出来れば戦場に出て欲しく……」


「だが戦場に出させてちゃ、それは唯の嘆きにしか聞こえんな」


「やめてください」


妃咲部の前に立ったシェウトは、低い声を発して、妃咲部を睨みつける。


「私は聖家の当主と話しているのだが、退いて頂けるかな」


「御断りします。これ以上害するのなら、実力行使をとらせて頂きます」


クライネをシェウトに渡した妃咲部は、アルカナの肩を二回叩き、歩いて行く。


クライネをアルカナの膝の上に戻して、シェウトと街を歩き出す。


「後免。悪い人ではないんだ、良い意味で指摘してくれる人なんだ」


「アルカナさんは優し過ぎます。怒る時は怒って下さい」


返す言葉も無く、アイネとクライネに助けを求める。


「めっ!」


座っていたアイネに、突然叩かれて怒られる。


「いたたた……はははっ、私が怒られてしまったな」


「アルカナさんが悪いです。ねっ、アイネ」


「そうかもな、もっと頑張るよ」


「頼ってくれても良いんですよ。私は貴方の娘なんですから」


そう言うと、走り出したシェウトは、街を凄いスピードで駆け抜ける。


前に飛び込んで来た少女に、そのまま突っ込んで行く。


「シェウト!」


車椅子を空高く投げたシェウトは、少女を避けて車椅子をキャッチする。


「アルカナさん?」


車椅子にアルカナの姿は無く、アイネとクライネも姿を消していた。


民家が遥か下に見えて、自分の目の前では、アイネクライネがきょとんとしている。


『踏ん張り切れん、着地しても前に倒れて二人に被害が出る』


「眼を使うか」


『馬鹿言うな、次は終わるぞ』


「終焉を萌す怪物も悪くない。必ず止めてくれるだろ」


覚悟して左眼に意識を集中させた瞬間、体が何かに攫われて、ゆっくりと地面に下ろされる。


抱えていたアイネとクライネも、楽しそうに笑っているだけで、特に何もしてない。


視界に足が入って来ると、白い翼を広げたミネルヴァが下りてくる。


「遊ぶのは良いですが、あまり子どもたちに危険が無いようにお願いします」


「有難うミネルヴァ、一緒に夕飯でもどうだ」


少し考え込んだミネルヴァは、手の平を合わせて、食べたいものを見つけたようだ。


「ボルシチが食べたいです」


「良いな、私も好きだぞ……この世界にあるの?」


「ありますよ」


「店に案内してくれ」


こくりと頷いたミネルヴァは、よろけたアルカナを支える。


車椅子を押して来たシェウト、申し訳なさそうに謝る。


軽く説教を受けたシェウトは、かなり落ち込んで、全く言葉を発することが無くなった。


「此処です」


裏路地の隠れ家みたいな場所に着き、ミネルヴァは何の迷いも無く入って行く。


それに続いて入って行くと、内装は意外ときちんとしていた。


木で作られた店内は、暖かな印象を与える。


店の中には、白銀色の髪の女性が先客として居た。


膝の上には牛の骨の様なものが置いてあり、綺麗な蒼い瞳に、色白い肌、耳の後ろ辺りには、黒薔薇の髪飾りを付けている。


「隠れ家的で良い場所だな」


机の前に車椅子を止めてもらい、シェウトが椅子に座る。


既に注文を済ませていたミネルヴァは、何かを警戒する様に目を瞑る。


「あの人、何時も此処に居ます」


「好きなんだろ、何時も食べたいくらい」


ミネルヴァの方を見て会話を続けていると、肩を二回つつかれる。


振り返ると、先客の少女が立っていた。


「はい、どうしたのでしょうか」


「あなたが……アルカナ?」


「そうですが、貴女はどちら様でしょうか」


「私はアビス・レイ・セイクリッド。一緒に良い?」


そう言うと、少女はシェウトの隣に腰掛ける。


警戒心の無いシェウトは、非常に好意的に受け取っているが、ミネルヴァは警戒をより一層強める。


歳はアルカナと同じくらいで、黒のドレスがよく似合っている。


何処かの貴族かと思ったが、護衛すら付けていない事から、恐らくその予想は外れ。


ボルシチが机に全て揃い、皆で一斉に食べ始める。


スープをスプーンに溜めて、よく冷ましてからアイネの口に入れる。


「おいし」


それを聞いたクライネは、自分も早くくれと言わんばかりに手を振る。


もう一度スープをすくって、よく冷ましてからクライネの口に入れる。


スープを飲んだクライネは、目を大きくさせて両手を広げる。


「うるゅ」


「うるゅじゃ分からないよ。でも、美味しいんだろうな。良かったよ、有難うミネルヴァ」


二人の喜ぶ姿を見ていると、何となく体の中のどこかが満たされる気がする。


「私はただここのものが食べたかっただけですので」


「本当に美味しいですね、アルカナさん、どちらか私があげます」


シェウトにクライネを渡して、自分はアイネにボルシチを食べさせる。


肉を小さく切って、スープと一緒にアイネの口に入れる。


「ぱぱ!」


「パパって誰だ、お父さんの顔を思い出したのか」


シェウトを見ると、顔を赤くして動きが止まっていた。


「パパって、アルカナさんの事をそう思ったんじゃないんですか? 一応私たち皆貴方の娘ですから」


「そうか、それなら良いんだけど。親らしいことなんてしてやれない」


「いっぱい!」


アイネが満腹と言う事で、声を上げる。


「結構食べたな。大きくなったら、ティエオラたちを助けてやるんだぞアイネ」


「変な使命を課さないで下さい。この子たちが大きくなる時には、私たちが終わらせるのですから」


ミネルヴァにアイネを取られて、膝の上には温もりだけが残る。


アビスは無表情でアイネを見つめて、少しだけ微笑んでいる。


「アルカナ……死ね」


アビスの口が少しだけ動くと、予想もしていなかった言葉が発せられる。


刹那、少女の背後に骸が現れて、アルカナに襲いかかる。


鋭い攻撃はミネルヴァのハルバードに阻まれたが、もう一体の骸にアイネを奪われる。


「動かないで。その首を渡しなさい」


「俺の首が欲しいなら直接来いよ、子どもに手出してんじゃねーよ。今俺は動けねーんだ、首くらい勝手に取ってけよ」


アビスはアルカナをまじまじと見て、骸に指示を出してアイネを離させる。


「動けないの?」


「見ればわかるだろ、深淵アビスは名だけか」


「なあんだ、余計な労力使っちゃった。本当に首取っちゃって良いの?」


ホッと息を吐いたアビスは、骸をひとつ残して仕舞う。


「取りたいなら取れって言ってんだよ、取れるならな」


「嘘つき。でも、まだ完成してないから取らないけどね。その髪が全て染まるまで待ってる、たーのーしーみー」


くるくると回って驚くアビスに、ミネルヴァはハルバードを向けたまま立っている。


シェウトも角を出して、完全に臨戦態勢に移行している。


「潰すべきですアルカナさん。貴方様の命を取るなど、このミネルヴァが許しません」


「私も同意見です、この人を今ここで消しておくべきです」


「此奴らの前で人を殺す気か。それにな、私は首を取られることは無い」


異様な空気に怯えているアイネクライネを抱いて、代金を払って店を出る。


「御免なさい、つい頭に血が登ってしまって」


店から出てきたシェウトとミネルヴァは、二人で頭を下げる。


「いや、私に非がある。お前たちを怒る資格は無いよ」


『さっきのアビスとか言う奴、相当ヤバイな。骸を使うなんて人の出来る技やない』


神まで居る世界に、今更骸を使う人間では驚きが少ない。


「今晩わ、改めましてアビス・レイ・セイクリッドです。ずっと付いて行きます」


「帰れ。アイネとクライネが怯えているだろ、一本勝負してやるから、私が勝ったら帰れ」


「嫌ですよ。此処は楽しいですから、あっちは退屈で遊び相手がこの子だけだもん。それに、私が勝っちゃうじゃないですか、待つしかない私は勝っても意味が無いですもん」


「なら歳相応の立ち振る舞いをしろ、年齢は十七辺りだろ、折角美人なんだから大人しくしてれば完璧だ」


真っ直ぐ城に帰ると、料理長から何のお咎めもなく部屋に帰ることが出来た。


「此処がアルカナのお部屋? 何か地味ー、ベッドだー!」


ベッドに飛び込んだアビスは、端から端まで転がって遊んでいる。


目を輝かせて指を指すアイネクライネを、シェウトとミネルヴァに抱かせる。


ベッドの横に移動して、転がって来たアビスを引っ張って落とす。


「子どもが真似するだろ、あと私が寝るから邪魔」


「私も眠たいから寝るー」


「来るな、お前の寝相は悪そうだ」


「酷いなー、ポルクスが出ちゃうだけだよ」


アビスに胴体を抱かれて、背面でベッドに飛び込む。


アビスを下にしてベッドに落下する。


バウンドして三回程跳ねると、次は一緒にベッドの上を転がされる。


視界がぐるぐると回り、新しいボルシチが出そうになる。


ようやく止まったアビスは、アルカナを抱き締めたまま寝息を立てていた。


子どもの様な行動に振り回されて、最後は忘れ去られた玩具の様に放置される。


「頼むシェウトかミネルヴァ、此奴は隣に寝かせてて良いから」


地面に転がっている頭蓋骨を机に置いたシェウトは、アビスを引き剥がそうとする。


「この子絶対起きてます。全然離れません」


「最初から締め付けが強かったんだけど、シェウトが引き剥がそうとしたらもっと……強くなった」


諦めたシェウトは、ふたりを同時に持ち上げて、姿勢を直してくれる。


「ゆっくり休んで下さい」


ふぅと溜息を吐いたシェウトは、アイネクライネを抱いていたミネルヴァを連れて、部屋を出て行く。


『あれはええ嫁になるわ〜』


時々顔を出す斑鳩は、爺臭いことを言って、けけけと笑っている。


「私には脅しに聞こえた、大人しくしてなければ顎砕くぞって」


瞼を閉じて、上に乗るアビスを離そうとするが、腕は離れる気配が無い。


このままでは息苦しい為、横になって、向かい合う形で眠る。


『アウトやアウト、顔の間に板でも挟んどけ』


「そんな事言われても、力が上手く入らな……い」


アビスの背後に現れた骸が、不気味な顔でこちらを見つめている。


微笑んで寝ているアビスは、寝惚けて骸を出した様だ。


「いけー!」


「来るな!」


骸の右腕が振り上げられて、アルカナの顔目掛けて振り下ろされる。























































































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