宣戦布告

城から出るとき、門で騎士から渡された、翠色の小さな水晶が付いた髪飾りを、服のポケットに付ける。


ティエオラが置いていった紙の裏には、シェウトの妹が、取り引きされるであろう場所が書いてある。


その紙の最後に、掃討という文字が、赤いインクで書かれている。


『安請け合いしたけど、今そんな余裕は無いぞ』


「シェウトが少しでもあの城で過ごしやすくなるなら、やっぱり何でも聞いてやりたい。勿論、シェウトだけじゃないけどな」


まだ幼い三人が過ごすには、あまりにも空気が悪い、加えて肉親が離れ離れなのも、精神的にも実に良くない。


理由はそれだけではないが、兎に角離れ離れでは、何も良い事は無い。


一部を除いては。


本人が望むのであれば、それは叶えられるべき我儘であり、何者にも鑑賞されては行けない、禁域となる。


斑鳩は聞くだけだと乗り気ではないが、内心は賛成しているのだろう、救出するまでのプロセスを、綿密に考えてくれている。


『言う事がじじい臭いわ、そう歳も変わらへんのに』


「じじいで結構だ、ばばあに言われるのは癪に障るがな」


『おい……調子に乗るなよ。実体化出来たら、そん時は殺すからな』


裏路地を進んでいると、最近幽霊騒ぎの空き家が、薄気味悪く蔦に包まれて現れた。


この家の噂は、誰も住んでいない筈なのに、声が聞こえたり、ドアが何かに引っ掻かれている様な音がするなど、色々と噂が立っている。


ティエオラは、この幽霊の正体、を売買される人と推測したのだろう。


「じゃあ、突撃しますか」


剣を抜き、ドアの近くに気配が無いことを確認し、思い切りドアを蹴飛ばす。


老朽化していたドアは簡単に壊れ、ついでにドアノブまで取れる。


家の奥には、一人の少女が監禁されており、驚いた顔をして、暫くの間硬直する。


『ひとりだけ……遅かったようやな』


「初めまして。南タリアス騎士団の、アルカナと申します。他の人たちは分からないかい?」


離れた場所から挨拶すると、少女は頭を下げて、挨拶を返す。


少女を縛っていた縄を切り、服に付いていた埃を手で払う。


「他に三人居たのですが、少し前に連れていかれてしまいました。アーマクスが何かとか話していましたが、よく聞き取れませんでした」


『あと三秒、抱えて守れ!』


斑鳩の言葉に反射し、少女を抱えると爆発が発生し、周りの建物を巻き込んで、建物だった破片が落下してくる。


『大丈夫やろ、効果が切れる前に全部どかして脱出し。切れたら出られへんなるぞ』


爆発に巻き込まれて、その後建物の破片に押し潰された筈だが、身体に傷は付いておらず、それどころか体に力が流れ込んで来る。


額が熱くなって異変を感じるが、今は脱出を最優先する。


少女を抱えて岩を足で砕く。


道に出ると音を聞いて集まってきた市民と、巡回していた騎士が居た。


瓦礫の中から出て来たのを見て、その姿に驚きの声、更には気味悪いと言う声も聞こえる。


「抵抗をするな、その少女を離せ!」


騎士に槍を向けられ、仲間の騎士に少女を受け渡す。


両手を上げると、二人の騎士に取り押さえられ、地面に組み伏される。


「今すぐ王城に報告だ、少女を誘拐しようとしていた鬼人を捕らえたと、急げ、暴れ出したら手を付けられなくなるぞ!」


少女を保護した騎士が若い騎士にそう言うと、若い騎士はこちらを見ると、急いで走って行く。


「私はこの人に助けてもらいました! この人を話して下さい!」


少女がそう訴えると、騎士は少女の頭を撫でて、大丈夫だよ。と少女に言う。


「違うんです、この人は騎士なんです」


「大丈夫だよ、お兄さんたちが来たから」


背後手で縛られ、王城に連行される。


「聞いて下さい! あの人は……」


「私は確かにあの子を誘拐しようとしていた。犯行を事実だと認めよう」


言うと、少女はこちらをじっと見つめ、連行されるのを見ていた。


『まだ効果は暫く続く、こいつらには大人しくして貰っとけ』


腕に力を入れると、手首を縛っていた縄が容易く切れる。


足で右に立っている騎士の膝を折らせ、体勢が崩れたところで、顔面に蹴りを入れる。


甲冑が大きくへしゃげて、騎士が地面を転がる。


応戦しようとした騎士の剣を回し蹴りで折り、一回転して、顔面に回し蹴りを見舞う。


少女の元に走り、少女を保護していた騎士を、投げて地面に叩き付ける。


「アルカナさん」


少女は差し出した手を取り、一緒に街の中を走る。


後ろから追ってくる騎士が、どんどん増えていき、かなり大事になる。


「飛ぶぞ」


少女のスピードに合わせていると、追手との距離が迫ってきたので、少女を抱えて、民家の屋根の上を目指す。


地面を強く蹴った瞬間、先程まで続いていた膨大な力が、体から抜けていく。


跳躍が出来ず、地面に落ちる。


「このまま走れ、城の壁に穴が空いてるから、そこから城に入るんだ。入った直ぐに大きな木があるから、その下で待っているんだ」


少女は頷くと、大通りに出てから、王城を目指す。


剣を地面に置き、両手を上げて敵意が無いことを示す。


追ってきていた騎士に囲まれ、身柄を拘束される。


先程逃げたこともあり、手荒に地面に伏され、手錠と縄で結ばれる。


「留置所に連れてくぞ、逃げない様に檻に入れろ」


動物園にライオンを連れて行く様な、大きな檻が馬に運ばれて来て、その中に入れられて運ばれる。


ーーーーーーーー


「誘拐犯の鬼人を拘束した?」


「はい、街を巡回していた騎士から、そう報告が」


空き部屋でシェウトたちと話をしていたティエオラは、エルトからの報告を聞くと、何も言わずに部屋を出る。


エルトはその後を付いていくと、ティエオラが珍しく外出の準備をする。


「ティエオラ様……何か知っているのですね」


「僕は鬼人を見に行くだけだよ。欲しければ引き取る。確実に引き取るけどね」


そう言うティエオラだが、長年付き添っているエルトには、ティエオラが原因な事が分かっていた。


「このエルト、ティエオラ様にお付き致します」


エルトと一緒に城を出て、鬼人が収監されている、王都警備本部に到着する。


本部の騎士に案内してもらうと、床に倒れている、髪の長い人物が倒れている。


「ティエオラ様、お気をつけ下さい。この鬼人は凄まじい力を持っております」


「この鬼人は貰っていくよ。襲われはしないさ、僕にはエルトが付いているからね」


警備署長は不安な顔をするが、檻の鍵を開ける。


ティエオラは檻の中に入り、鬼人のポケットから、壊れた髪飾りを手に取る。


それを数秒見つめてから、運び出すように指示をする。


エルトが髪の長い鬼人を担ぎ、王都警備本部から出る。


「ティエオラ様、何故アルカナが収監されていたのですか。きっちりと説明をお願いします」


「僕が鬼人の力を引き出せる髪飾りを渡したんだ、それは持ち主の想いに応える物なんだ」


壊れた髪飾りを出して、それをエルトに手渡す。


「では、何故気を失っているのでしょうか。そして、何故アルカナはこれを使うに至ったのか」


ティエオラがアルカナの頬に手を添えると、ティエオラの左眼が蒼色になる。


「シェウトの妹を助けると言う任務を、僕が与えてね、その途中でアーマクスに謀られた様だ……壁に穴を開けていたのか、帰ったらきつく言っておかないとね」


ティエオラの目の色が、琥珀色に戻る。


白くて細い手がアルカナの頬を撫でる、その指は頬をつまんで引っ張ると、ぱっと指を離す。


余程柔らかかったのだろうか、指先をほっぺの上でバウンドさせ、何度もそれを繰り返す。


「アーマクスが何故アルカナを?」


「それは分からないよ、僕が直接行こう。アルカナには、このまま自分の任務を続けてもらうよ。僕たちはアーマクスに行こう」


「無茶です。アヴァントルとストレント連合でも、守りの堅さに阻まれています。それも我々小国が行くなど、それに北タリアスとも睨み合いが……」


「アイン・ルーシュと交換する。僕たちがアーマクスを攻めている間、手出しをしないと言う条件と」



































































































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