白き鋼

ウルト砦に到着するが、見回りの兵が、砦の周りを巡回している。


「壁が高いな。穴開けるか」


コルトガバメントに、サイレンサーを付け、砦の壁に、銃口を向ける。


「それは何ですか、アルカナさん」


この世界に、銃はまだ無いので、タイムが、不思議な目で銃を見る。


「良いから離れてて、出来るだけ、見ない方が良いと思うけど」


引き金を引き、壁に十四箇所、長方形型に、小さな穴を開ける。


都子が壁の前に立ち、刀の柄頭で、壁を壊す。


人が一人通れる位の穴を潜り、砦の中に落ちている弾丸を回収する。


「巡回は居ない。出来るだけ、早く見つけないと」


曲がり角の壁際に立ち、巡回が来るのを待つ。


遠くから、数人の足音が聞こえてくる。


短刀の柄に手を掛け、抜刀の姿勢をとる。


都子とタイムも構えて、奇襲の準備をする。


「しかし、グランフリート様も、酷い事をなさる。人身売買を、厳しく取り締まらないとは」


「ああ、この戦争に、北タリアスが勝ったら、南タリアスの兵や民は、どんな扱いをされるのだろうな」


「やはり、売られて奴隷か、女や子どもでも、構わずに売られるのであろうな」


巡回中の雑談が、徐々に大きくなってくる。


恐らく、この三人は、戦争にあまり賛成していないのであろう。


巡回が角を曲がった刹那、口を押さえて、背後に回り込む。


口をロープで塞ぎ、手と足を拘束する。


「鎧とかは手に入ったけど、この人たちどうする?」


都子は鎧を身に纏いながら、拘束した三人を見る。


「入って来た穴の外に出すか、あそこなら大丈夫だろ」


騎士の足を持って、穴の外まで引き摺る。


「鎧は重いから嫌だな、鉄臭いし」


鎧を身に纏い、砦の中を歩く。


途中、他の巡回とすれ違ったが、バレることなく、やり過ごせた。


『この部屋からわ火薬の匂いするぞ』


砦の門に向かっていると、斑鳩が、一つの部屋の前で、そう言う。


扉を開けると、中には、壺に火薬詰められた、爆弾の様なものが、山の様に積まれていた。


「こんなにも沢山の爆弾を用意していたのか」


部屋の中に入り、火薬の量を確認する。


『約四千キロ。この砦くらいなら、軽々吹き飛ばせるぞ』


「そうか、なら、これは王城を崩す時に使おうか」


部屋から出ると、都子とタイムが、先に進んでいた。


急いで二人を追いかけ、合流する。


「寄り道してたら、不審に思われるでしょ」


「私たちは、他の巡回に呼び止められたくないので、ごめんなさい」


相変わらず、タイムは弱気な口調で謝る。


都子は対照的に、強気な口調で、アルカナを怒る。


「それがな、爆弾を見つけたんだよ。約四千キロの」


「四千キロって、聖家の敷地が、吹き飛ばせる量じゃない」


都子は両手を握り、ぱっと開いて、爆発を表現する。


「アルカナさん、そろそろ行きましょう。構造と、敵の配置、そして大体の数は、把握しておきたいですから」


タイムの真面目な顔に、アルカナは、都子と顔を合わせる。


「そうだな、ここからは、真面目に行こうか」


「そうね。やっぱり、失敗は出来ないしね」


アルカナと都子、その後にタイムが並び、再び門を目指す。


門の前に辿り着くと、門番の隊が、こちらに気付くを


「巡回御苦労さん、夜遅くまで、お互い大変だよな」


「そうだな、あんたらは、そろそろ休みじゃないのか? 交代するぞ」


先程、爆弾の置いてあった部屋から、持ってきた酒を、右手で上げる。


「おお、助かる。最近は飲めなかったからな」


門番の兵が集まり、酒を受け取って、砦の奥に消えて行く。


「何でお酒なんかが、爆薬庫にあるのよ」


「巡回が隠してたんじゃないのか? 隠れて飲む為に」


都子は呆れた顔をして、それ以上は聞いてこなかった。


ーーーーーーーー


「アルカナさん、朝日が昇ってきました」


「そうだな、急いで戻ってくれ都子。オズワルドに、きちんとお前の馬の用意もさせてある」


都子が頷き、入って来た穴の方に向かう。


「アルカナさん、開けるタイミングは、どうしましょうか」


「北タリアスと南タリアスが、ぶつかった時だ。前線で戦っている北タリアス兵は、恐らく、それで混乱するだろう」


タイムは、剣の状態を確かめ、鞘に戻す。


アルカナも、短刀の状態を確かめる。


刀身を見ると、後方近付いてくる、北タリアス兵の姿が見える。


「タイム、巡回だ」


刀をしまい、気を付けをして、門の前に立つ。


「ん? 昨日は三人じゃなかったか? それに……」


短刀を抜き放ち、目の前の騎士の首に捩じ込む。


それを見た後ろの騎士は、槍を構えて応戦する。


それをタイムが、二人の男の足を払う。


転けた騎士は、尻餅をつき、瞬く間に、タイムに気絶させられる。


「ふぅ……やりました! アルカナさん」


タイムは小さく息を吐き、ほっとした様な表情で、こちらに笑顔を向ける。


「流石だな、その腕は、何処で鍛えたんだ?」


「えへへ……これは、お姉様から教わりました。今は何処に居るか分かりませんが、いつか、また会える気がします」


警戒を解いてくれたのか、自分の過去まで話してくれる。


「進め! 敵が砦に戻る前に潰せ!」


話していると、外から都子の声が聞こえてくる。


「じゃあ、開けますか」


「はい」


真剣な表情に戻ったタイムが、門に手を掛ける。


二人で一緒に押し、扉を開く。


「陣形を維持したまま突撃! 五百は砦の横に空いてる穴から突撃!」


本隊とは別に、侵入する時に開けた穴からも、南タリアス兵が雪崩込む。


迎撃準備をしていた北タリアスだが、予想外の別働隊に、砦内は混乱し、砦の真ん中に追い詰められて行く。


「良くやった都子! 完璧だ」


「アルカナ殿! シグルド殿率いるストレント軍が、敗走したとの事です!」


隣に来た騎士が、緊迫した様子で言う。


「グラ砦を落とせなかったのか?」


「それが、グラ砦は、烈火の姫が守っていた様です」


「アルカナさん、このまま王都に攻め入るのは、かなり難しくなりました」


タイムが立ち止まり、一気に難しい顔になる。


「アルカナ殿、敵の包囲が、完了致しました」


オズワルドが馬に乗り、いつにも増して、真面目な声音で言う。


「降伏を促せ。応じなければ、仕方が無い」


「アルカナ殿、ストレント帝国、騎士団長を名乗る方が、アルカナ殿を探しております」


砦の外に出ると、約一万の騎士が、平原に並んでいた。


その中から一人、鎧を身に付けていない人が出てくる。


「斑鳩! 天月だ」


馬の上に乗っている鈴鹿は、大きく手を振り、こちらにゆっくりと、近付いてくる。


「ストレント帝国騎士長って、鈴鹿の事だったのか」


「何だ、全然驚いてくれないんだな。嬉しくないのか、私と会えて」


鈴鹿は、残念そうに肩を落とす。


「七凪は皇帝だぞ、その後ならこうなるだろ。でも、会えた事は嬉しいよ」


二人とも馬を下り、左、右と、交互にハグをする。


その後、少し背の高い鈴鹿に、頭を優しく撫でられる。


「相変わらず、綺麗な髪をしてるな。顔も肌も体も、全てが綺麗だな。結んでいたら勿体無い」


鈴鹿が言い、アルカナの、結んでいた髪を下ろして、手ぐしで髪を解く。


「一々言う事が男か。それに、私には綺麗な所なんて、一つも無い」


アルカナが、自分を卑下すると、鈴鹿は笑顔で、アルカナの頭を、ぐりぐりと撫でる。


「何でだ、女らしい美しい顔があるだろ。髪も肌も、華奢な体に良い匂い」


「女じゃないからな。これでも、一応は男をさせてもらっている。良い匂いは知らない」


アルカナは、髪を触っている鈴鹿の手を、払い除ける。


「反抗期か? 可愛いなこの野郎」


「五月蝿いぞ、私は甘える趣味は無い」


抱き付く鈴鹿に構わず、引き摺って、砦に引き返す。


鈴鹿は離れる事も無く、砦の中に一緒に入る。


「何だ、もう詰めか。流石の手際の良さだな」


「予定なら、鈴鹿が来る前に片付けたかったんだ」


「高い理想だな、でも、十分早いじゃないか、偉い偉い」


再び鈴鹿に頭を撫でられる。


「鈴鹿なら、夜が明ける前に出来るだろ。成長出来ない私は、いつまでも、何処にも行けないな」


「馬鹿言うな、前に比べたら、成長し過ぎだ。一人で良いって言っていたアサルトが、多くの人と協力しているんだ。成長だよ」


砦の入口で、待っていたタイムが、アルカナから、鈴鹿を引き剥がす。


「せ、戦争中に、そんな事は良くないです」


「おおぉ? アルカナさんよ、何だこの娘……可愛いじゃないか」


鈴鹿は、タイムをの周りをぐるぐる周り、全ての角度から見る。


戸惑うタイムを脇目に、降伏を提案しに行った騎士が、帰って来る。


「どうだった」


「はい。それが、時間を稼いでいた間に

、裏口から逃げていた様で、この砦に、敵兵は、一切残っておりませんでした」


「陥落か。王都決戦に備えたか、烈火の姫を機転として、巻き返しを図るか」


「アルカナ殿、アーマクス国のアリラタ砦が、陥落したとの事です」


後ろから、違う騎士が駆け寄ってきて、そう報告する。


「おお、エイルーンがやったか。流石私の弟子だ」


「エイルーンって、クロノコード家の、一人娘か。それは是非会ってみたいな」


「アルカナさん、私たちも、都子さんが戻って来たら、一日休みましょう」


まだ不機嫌そうに、タイムが言う。


一旦解散し、各々で、自由に行動をする。


『そろそろ活動限界やろ、変わったるで、ちと休み』


「そうさせてもらう。変わったら都子を探そう。天幕を張る準備を、都子に頼む」


目を瞑り、体の力を抜くと、意識が、中に引き摺り込まれる感覚が襲う。


目を開くと、いつも通り、大量の本棚と、その中央に、机と椅子が置いてある。


「ほんなら、行こか」


砦の奥に着くと、都子が、一人で立っていた。


「頼みたい事があるんだが、良いか都子」


都子は振り向くと、刀の柄に手を掛け、アルカナに踏み込む。


刀を抜刀し、首元で、寸止めする。


「誰」


都子の質問は、至極シンプルだが、アルカナからしたら、最も難しい質問だった。


「何言ってるんだ、アルカナだって。どっからどう見てもそうだろ?」


都子は疑いながらも、刀をしまう。


「変な動きをしたら殺すから」


「大丈夫だって。天幕を張る命令を、皆にしてほしいだけだから」


都子は返事もせず、フロアから出て行く。


『バレバレと言うか、何で分かったんだ』


「怖いわ、一番敵に回した無いタイプやわ」


ほっとした斑鳩が、首を触ると、指が濡れる。


手を見ると、指に血が付いており、首が少し切れているみたいだった。


『本気で来たな、割と本気で来たな』


「首よりも、アレや。結構髪が巻き込まれたぞ」


斑鳩が切られた髪を掴み、指先で、ちょいちょいと弄る。


「アルカナ殿、アイン・ルーシュが、反攻戦を開始致しました。目的地は、このウルト砦です」


「遂に来はったか、北タリアス最強の突破力」


『恐らく騎士王の妻、エテルノ・サンイルーチェが来るだろう。戦姫も居るとなると、流石にキツくないか』


一人で、騎士数千人に匹敵すると言われる戦姫に、烈火の姫。この二人が組むとなると、最高に条件が悪くなる。


「こっちには、一万と二千。主な将はアルカナ、鈴鹿、都子、タイム。十分やろ」


「アルカナ殿、報告致します」


先程報告に来た騎士が、再び報告に来る。


「どうしたんや。えらい忙ししとるけど」


「烈火の姫は、七千の兵を率いて、南タリアス王都に向けて、一直線で進んでいるとの事です。このウルト砦に向かって来るのは、戦姫、エテルノ・サンイルーチェ。その数、約二万です」


「二万! そんな数、どっから湧いて出たんや」


「北タリアスは、密かに、アリアス王国と、メクル王国を、属国としていた様です」


『アリアスって、ストレントに次ぐ、軍事大国じゃなかったのか。あんな大きな国が、まだ小さい北タリアスに潰されたのか』


「メクルってのは、元々アリアスの属国やったんやろ。エルトの部屋で見たわ」


王都に残っているのは、七凪が持っている、五千、ティエオラが持っている二千。


今から引き返そうとしても、戦姫が立ちはだかり、確実に間に合わない。


何とか、本国のエルトに、頑張ってもらわなければならない。


「アルカナ殿」


また違う騎士が飛び込んで来る。


「次は何なんだ」


「レクト様が、烈火の姫を追い、南タリアスに戻りました」


『斑鳩、王都は任せよう。エルトが居れば、何とかなる。私たちは戦姫を打ち破らねば、進むことも引く事も出来ない』


「せやな、戦姫を打ち破って、一回体勢を立て直さなあかん」


今後の動きを考えていると、タイムがフロアの中に入ってくる。


「あの、アルカナさん。戦姫が向かって来ていると聞いたのですが、私に出来る事は無いでしょうか」


「そうだな、鈴鹿と手合わせをしてほしいかな。本気で構わないぞ」


すると、呼んでもいないのに、気配も無く、上から鈴鹿が落ちてくる。


「良かろう、私も少々退屈だったんだ」


「ひゃっ」


それに驚いたタイムが、びくんと跳ねる。


鈴鹿はそれを見ながら、笑ってタイムの肩に、手を置く。


「じゃあ、宜しく頼むぞ。私とて、実力の無い者に、アルカナと都子の護衛を、任せる事は出来ない」


鈴鹿の眼光と言葉で、タイムが、早くも涙目になる。


「わ、私だって、負けません。アルカナさんの護衛を、させて頂きます」


タイムは、今までに無い程の、強気な姿勢で、勝利宣言までする。


それを見た鈴鹿は、頷きながら、タイムと間隔をあける。


剣を構えるタイムに対し、鈴鹿は、剣も抜かず、腕を組んで立っている。


「開始!」


アルカナが手を振り下ろすと、タイムが姿勢を落とし、踏み込む。


タイムの踏み込みを支えた床は、大きく抉れ、土煙が上がる。


鈴鹿は全く動かず、タイムが接近するのを、ただ立って迎える。


剣が鈴鹿の体に当たると、剣が真っ二つに折れる。


「なぁっ!」


タイムが鈴鹿から距離を取ると、鈴鹿が剣を抜く。


「自分の武器の状態くらい、完璧に把握しておくべきだ。あと、普通に短剣を使ったらどうだ?」


隠している短剣を指摘され、タイムが、懐から短剣を抜く。


「恐ろしいお方ですね。貴女からは、異様な威圧が感じられます」


今度は、音一つ立てずに、タイムが鈴鹿との距離を詰める。


下から突き上げるように襲い掛かる短剣を、鈴鹿は、悠々と受ける。


「気配を消すのは十分だ、だが、重みが無い。軸がぶれている。斬撃の瞬間、気配が漏れる」


タイムは、足払いをするが、鈴鹿は先が見えていたかの様に、その足を止める。


鈴鹿がタイムの短剣を絡め取り、剣で弾く。


タイムは、その瞬間を待っていたと言う表情になり、靴から、ナイフを取り出す。


「ほう、それは気が付かなかったな」


鈴鹿はナイフを振る、タイムの背中に回り込み、反転して剣を振り抜き、二人がすれ違う形になる。


タイムの服が切り裂かれ、お腹が露になる。


「はぁぁぅぅ……」


タイムは、終始弱気な戦い方で、鈴鹿に圧倒される。


へたり込んだタイムが、遂に目から涙を零す。


「おいおい、泣くなよ。また本気出せる時にやろう。今の時点でも、十分に任せられるから」


鈴鹿は転がっていたナイフを拾い、泣いているタイムを、慰める。


「迎撃準備、ギリギリ間に合ったわ。それと、戦姫が、目と鼻の先に接近。直ちに準備して」


外に出ると、地平線から、真紅の鎧を纏った騎士、その先頭に純白の鎧を纏った騎士が向かって来ている。


「鈴鹿、出来るだけ、エテルノは攻撃しない。多少の傷は負わせても、捕縛する」


「それじゃあ、五千ずつ率いて、迎え撃とか。都子はそっちにやるから、オズワルドってのを預けてくれ」


指名されたオズワルドは、自分を指差し、戸惑いながらも、ストレントの隊に入る。


「アルカナさん、私はどうしたら良いでしょうか」


ボロボロの服のまま、タイムが砦から出て来る。


「私のクロークを貸すから、砦で休んでろ。そんな精神状態じゃ、戦場には出せません」


アルカナはタイムに、クロークを羽織らせ、馬に乗る。


鈴鹿も槍を持ち、騎乗する。


「アルカナさん。砦は任せてください」


タイムは握り拳を作り、気合を入れる。


「よし。鈴鹿、勝負だな。どちらが先に、戦姫を捕縛出来るか」


「今までの戦績は、私が六百二勝無敗。お前が六百二敗だ」


「今日が一勝目の日にする」


鈴鹿が槍を出してきたので、その上に、短刀を重ねる。


同時に馬を出し、北タリアス兵に、真っ直ぐ向かう。


軍の先頭を走り、約半分の数で、敵に向かっていく。


「南タリアス国、ティエオラが側近。アルカナ、出る!」


「ストレント帝国、騎士長。天月 鈴鹿。さあ、真剣勝負!」


その声に続き、後ろに続く騎士が、次々と雄叫びを上げる。


「戦姫は私が貰った!」


「私が戦姫を貰う。アルカナの手に、負えないだろう」


二人で並走しながら、エテルノに接近する。


エテルノを挟み込み、左右から挟撃する形になる。


短刀を構え、エテルノ目掛けて振り下ろす。


鈴鹿も同時に、槍を構え、エテルノの腹部に、狙いを定めて突く。


エテルノは虚空から槍を出し、鈴鹿の槍を弾き、左手に持った剣で、短刀を弾く。


馬上で反転して、短刀を切り返し、追撃を繰り出す。が、馬の上に、エテルノは居らず、馬だけが走っていた。


「上だ!」


鈴鹿の叫びに反応し、上を見ると、エテルノが槍を構えて、落下して来ていた。


馬から飛び下り、回避するが、槍は、馬の胴を、貫通する。


飛び下りたアルカナは、地面に叩きつけられ、暫く起き上がれずに、地面に寝転がっていた。


「貴方がアルカナさんですか。エルトが御世話になっております。それも今日までですが」


いつの間にか、エテルノが隣に立っており、剣を突き刺そうとしていた。


「こちらこそ、御世話になっております。よく出来た一人娘様で。少々世間知らずが混ざっておりますが」


コルトガバメントに手を掛け、エテルノの会話に応える。


鈴鹿に期待したが、北タリアス兵に阻まれており、こちらに来れそうに無かった。


「少し抜けている所は、私に似たのです。そして、騎士として誇り高いところは、あの人に似ました」


エテルノの言うあの人とは、エルトの父親の事だろう。


「素晴らしい騎士だが、あんたらが居なくて、とても寂しそうだぞ」


「あの子には、私たちが居なくても、強く生きていかねばなりませんから」


「残念、エルトを一人にさせる気は無い。あんたらには、まだ用がある」


コルトガバメントを抜き、引き金を引く。


銃口から放たれた紅い弾丸は、エテルノが持つ剣に向かう。


弾丸が剣に当たり、剣が弾き飛ぶ。


エテルノは飛び退き、再び、虚空から剣を出す。


「それは新たな兵器ですか」


「あんたの質問には答えられない。言える事は、あんたに用がある。それだけだ」


コルトガバメントをしまい、地面に突き刺さっていた短刀を、引き抜く。


鈴鹿は相変わらず阻まれており、こちらには来れない。


都子は後方で、砦に向かう敵を、引き止めている。


オズワルドは、鈴鹿の背中を守っていたが、北タリアスの騎馬兵の槍を、左腕受け、馬から落ちる。


オズワルドを討ち取ろうとする敵を、鈴鹿は全て切り伏せる。


オズワルドは、その間に立ち上がり、再び騎乗する。


「アルカナさん。私も、貴方に用があるのを思い出しました」


エテルノは言うと、大きな斧を出す。


取り出した斧を、こちらに投げつける。


それを回避すると、斧の後ろに隠れていたエテルノが、追撃を繰り出す。


それを短刀で流すと、次は、上から槍が降ってくる。


それと同時に、右からはエテルノ、左からは剣、後ろには、先程回避した斧が突き刺さっており、逃げ場所が無くなる。


『剣はガバメント、槍は今の場所から、一歩前に行って避けろ、エテルノは短刀』


斑鳩が言った通り、剣には弾丸で対処する。


撃った後は、一歩前に行き、槍を避ける。


エテルノが来ていた方向を見ると、大きな斧を構えたエテルノが、突撃して来ていた。


「斧は無理だろうが!」


黙り込んだ斑鳩に、吐き捨てるように言い。短刀で斧を受ける。


体は軽々と吹き飛ばされ、先程弾いた剣に、一直線に向かう。


剣は横腹を抉り、地面に落ちる。


左の横腹からは、大量の血が出ており、角度によって、内蔵が見えるまで、深く抉られていた。


「死なないで下さいよ、アルカナさん。アイン様が、貴方を欲しいと仰ったので、死んで貰っては困ります」


機械的な喋り方と、光を失った瞳が、より機械っぽさを引き立たせる。


エテルノが、アルカナの前でしゃがみ込む。


右手の短刀で、反撃を試みるが、力が入らず、短刀を地面に落とす。


「あんたは、騎士としては優秀だが。親としては……最低だな」


アルカナの言葉に答えず、黙々と、腹に包帯を巻く。


エテルノは、全ての武器を取り込むと、馬を連れて来て、アルカナは馬に乗せられる。


後ろにエテルノが座り、抱えられる形で運ばれる。


北タリアスの、本陣に連れて行かれて、布の上に、寝転がされる。


「衛生兵は、アルカナの治療に専念して下さい。出撃前に、あの学者に貰った薬を使いなさい」


エテルノは再び槍を携え、戦場に出る。


砦を見ると、南タリアス連合軍は、かなり押されていて、落ちるのは、時間の問題だった。

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