巨頭会談

今日は南タリアスの全騎士が、王城に全員集まっている。


城と王都は緊張に包まれており、いつもとは雰囲気が全く違う。


「こら、秋奈、都子。会う度に睨み合わない」


そんな雰囲気の中、空き部屋で、いつもと全く変わらない光景が流れる。


「この小さいのと一緒に教会に行ったの?」


仲裁する為に間に入ると、早速巻き込まれる。


「都子も行きたかったのか?」


「行きたかった! 秋奈抜きで!」


「私もあんたが一緒なんて、こっちから願い下げよ」


仲裁のつもりが、火に油を注ぐ形になったので、もう口出しをしない事にする。


部屋から逃げる様に出て、自室に向かう。


廊下を歩いていると、前からレクトが歩いて来る。


「アルカナ、今から剣の勝負をしよう。私が勝ったらお前の歩法を教えて貰う」


『わぁー。絡まれると思たわ』


レクトの言っている歩法が全く分からないが、こちらが勝ったらラズワルドを押し付ける事が出来るので、断る理由が見つからない。


「負ける気がしないんで、負けてから言う事を聞かないとか、無しだぞ」


言うと、レクトが木で出来た剣を用意する。


『こいつ準備万端や』


剣を受け取ると、ずしりとした重さで、手から落としそうになる。


「では。行くぞアルカナ!」


「おい……ここでやるのか!」


人通りの多い廊下にも関わらず、レクトは構わずに剣を振る。


アルカナは剣を両手で握り締め、何とか全ての攻撃を避ける。


「攻撃をして来なければ、勝負にならんぞ。あの歩法をもう一度使ったらどうだ」


『あの歩法ってのは、今となっては受け継がれてない、聖家初代の鈴鹿が作り出したやつか?』


「成程。私が斑鳩から教えて貰ったあれか。確か……」


『神隠し』


「そうそう。神隠しの歩法だったな」


この長い剣では振るえないので、避けることに専念する。


わざと壁に追い詰められ、持っている剣を、壁に思い切り叩きつける。


アルカナの腕力では折れず、何度も避けては叩きつけるを繰り返す。


「私は壁以下か! それとも、その壁が私に見えるのか?」


『神隠し準備や、次で折れる』


最後の一回は壁に叩きつけず、レクトの剣に当てる。


手に持っていた剣は、レクトの剣に当たると、刀身の半分の長さで折れる。


その瞬間、神隠しを使う。


「なっ……やっと使ったかアルカナ。だがお前の剣は折れている。騎士が剣を折られるのは、誇りを折られるも同然」


レクトは動きを止めて、五感を研ぎ澄ます。


レクトが動きを止めている間に、折れた刀身を手に取り、左手で持つ。


折れていた刀身が消えたのに気付き、レクトが剣を振るう。


『もうええやろ。背中を取ったんや、姿を見せたり』


神隠しを止めると、レクトが気配を感知し、反転して剣を振る。


その剣を受け止め、両手で絡め取る。


流れる様にレクトの横に並び、膝の裏を足で蹴り、地面に叩きつける。


「私の負けだ……ありがとうアルカナ」


倒れたレクトに手を差し伸べると、清々しい表情で、その手を取る。


レクトを立ち上がらせ、遠くに飛ばした剣を拾う。


「良い剣を振るうんだな、神隠しが無ければ、私は負けてたかもしれない」


改めて振り返ると、余裕の無い戦闘だった。


まだまだ余計な動きがあるものの、きちんとすれば、十分に伸びる動きだった。


「副騎士長、ティエオラ様が王都に入りました」


今の戦闘を見ていたのだろうか、終わってから出てきた騎士が、低頭しながら言う。


「分かった。直ぐに迎え入れる準備をする。全員並んでいるだろうな」


「はい、全騎士、整列完了致しております。全て抜かりありません」


レクトが騎士と一緒に歩いて行くのを見送り、自分の部屋に走る。


「秋奈、整列しに行くぞ。都子とアルマはこの部屋で待機」


急いで秋奈を連れて、部屋から出る。


廊下を駆け抜け、中央広間に滑り込む。


すると、城門が開き、ティエオラ、七凪、そしてもう一人、女性が並んで入って来る。


その後には、大勢の騎士が並んでおり、南タリアスの総兵士数を優に超えている。


「ストレント帝国皇帝陛下、南タリアス国国王、アヴァントル王国国王。御到着、一同低頭!」


向かい側の列に並んでいるレクトが、言うと、一斉に低頭する。


アルカナと秋奈もそれに合わせて、膝をついて低頭する。


先頭の三人はわ中央広場の真ん中を歩く、その三人が通り過ぎると、膝をついていた騎士が順番に立ち上がる。


三人が前を通過したので、立ち上がる。


「総員、警備に付け。配置は伝えた通り!」


「はっ!」


レクトの指示で、一斉に騎士が散らばる。


「私たちは、何も伝えられてないんだけど」


秋奈が、中央広場の真ん中で立っているレクトに言う。


「私とお前たちは、会談室の警備をする事になっている。勿論中でだ」



「了解。なら、この後に付いて行けば良いのか?」


「ああ、会談室に入れる側近は四人。ティエオラ様が指示なされたのは、騎士長、私、アルカナ、凛凪」


「私は待機?」


指名されていない秋奈は、入れない為、必然的に待機なるが。


「いや、秋奈は警備を管轄してもらう。王都警備取締役だ」


秋奈はそれを聞くと頷き、別棟に続く廊下に歩いて行く。


「そろそろ会談室に行こう。もうすぐで始まるだろ」


急いでティエオラたちを追いかける為、階段を上がる。


階段を上がると、廊下が二つに分かれている。確か右が会談室、左が軍議室になっていた筈だ。


二つに分かれた廊下を右に曲がり、ティエオラたちの背中に追い付く。


ここからは歩き、ティエオラたちの列に加わる。


会談室の前に着くと、凛凪が一歩前に出て、会談室の扉を開ける。


「では、ティエオラ様が中央の席、七凪様が右の奥の席、ルフレ様が左の席にお掛け下さい」


それぞれが指定された席につき、側近がその横に立つ形になる。


入室を許可されている残りの三人は、それぞれ両脇の壁際に立つ。


「じゃあ、これから会談を始めるよ。議題は北タリアス王国と、アーマクス王国の対処、及び侵略での役割決議」


「では、アヴァントルから言わせてもらう」


そう言い、アヴァントル国王の、ルフレが立ち上がる。


「ウチらアヴァントル王国は、アーマクス王国に度々侵攻され、砦が二つも落とされた。反攻を試みるも、迎撃戦を得意とするアーマクスに、ことごとく敗走。さらに北タリアスの将まで出てくると、お手上げ」


言い終わると、椅子に座る。


「では、次はストレント帝国からです。ポーラロードを占領し、公国に致しました、戦争をする為の武力は無く、国を守る為だけの武力に抑えました。また、覇剣率いる部隊に砦を落とされる。そして我が軍と衝突した事で、多大な犠牲が出ました」


七凪が丁寧に言い、椅子に座る。


「じゃあ、最後は僕だね。南タリアスは新たな戦力が加入し、遂に反撃を出来る人数にまで増えた。タリア砦迎撃戦では犠牲が出ながらも、撃退に成功。殲滅戦では、軽微な損害で二百人の北タリアス兵を減らした。これくらいかな」


ティエオラは椅子に座ると、ルフレが挙手する。


「ストレント帝国は、南タリアスに一万人駐屯させている。ウチには、いくら回してくれる?」


「はい、アヴァントル王国には、一万の駐屯兵からは、お貸ししません」


七凪が慌てて立ち上がり、ルフレの質問に答える。


「アーマクス王国が八千。ウチらの兵は四千、砦を攻めるには不利すぎる。ウチらに兵を回してくれたら、こっちとしては有難いんやけど」


「アヴァントル王国には、本国から、副騎士長率いる六千が、そちらに加勢致します」


「ストレント帝国の守りは、大丈夫なのかい?」


「そちらについても、全く抜かりありません。参謀長が王都に残っていますので」


会談の途中だと言うのに、会談室のドアがノックされる。


全員がドアの方を向き、剣の柄を握る。


「会談の途中に失礼致します。アーマクス王国のマギと北タリアスのアイン連合軍が、タリア砦に向かっているとの事です」


「ティエオラ様。アルカナと都子で迎撃致します」


「ではストレント帝国からは、シグルド率いる四千の兵をお貸しします」


「有難う、あとレクトも行ってほしい。君たちが無事なのが最優先だ、危なくなったら、レーラン砦まで撤退するんだ」


一礼し、直ぐに会談室から出る。


「アルカナ殿、早速共闘する事になりましたね。宜しくお願いします」


タリア砦で話した、ストレント帝国のシグルドが、手を出して、握手を求めてくるので、それに応じて手を取る。


「では、城門前で」


ストレント帝国が駐屯しているのは、軍事棟なので、シグルドとは一旦別れる。


走って自分の部屋に入ると、既に都子とタイムが、準備を整えていた。


「出撃するんでしょ? もたもたしてる暇は無いから、直ぐにお兄ちゃんも準備して」


「悪いな、これで準備万端なんだ。軍服でも十分動ける」


都子が壁に掛けてあるコルトガバメントと、ホルスターを投げてくるので、それを受け取る。


「奥の手になるけど。無いより安心でしょ? 別に心配はしてないけど……一応ね?」


「ありがとう。どちらかと言うと、都子に持たせたいんだけどな」


言うと、都子はスカートを少し上げる。


「自分のはきちんと持ってる」


都子の太股には、アルカナと全く同じデザインのコルトガバメントが、収まっている。


そのやり取りを見ていたタイムが、何をしたら良いのか分からなかったのか、宙に舞っている、埃を掴もうとしている。


「じゃあ、行こうか」


机の上に、秋奈宛の書き置きを残す。


わざわざ城の中を歩くのも面倒なので、窓から飛び出る。


ワイヤーを引っ掛け、迅速に降下する。


秋奈との話し合いで、下に馬を用意させていたので、乗馬して、直ぐに城門に向かう。


「あの、私たちは、誰に付いて行けば良いのでしょうか?」


「都子とタイムは、正式な騎士ではない為、私が率いる先鋒に来てもらう。レクトの本隊が三千、私は二千だ」


城門に到着すると、南タリアスの騎士は、全員出撃準備が整っていた。


本隊の先頭では、レクトが待機しており、先鋒の出撃待ちだった。


「先鋒出る!」

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