彼の眼に映る世界
白石定規
01
その日、東洋の方にある国で有名な画家の新作が画廊に置かれました。
芸術にさして詳しくもない私から見れば、いかにも高そうな金の額縁に納められている彼の絵を目にしたところで、「あ、似てますー」なんてしょうもない感想くらいしか出てきませんでした。
しかし国の人々にとって、その一枚はあらゆる意味を含めているようでした。絵の前にできた黒髪の方々による人だかりには、あらゆる声が飛び交ってきます。
「数年ぶりに絵を出したと思ったらこれか……がっかりだよ」
「相変わらず美しい絵だわ。この儚い表情をしている魔女が特に素敵」
「久々に新作を目にすることができると思ったのに何だこれは。迷走している」
「いや、この路線もすばらしいものだよ」
「革新的なことをやり続けてきた彼らしい進化の仕方だね」
「進化だと? 退化の間違いだろう」
要するに賛否両論なのでした。
画家の名前はクーロン。若くしてこの国一番の画家として評価されるようになった天才であり、特に大胆な色遣いが特徴的……だそうです。紹介文にそのように書かれています。
新作の絵の横には過去作がずらりと列を連なっています。それらはどれも確かに大胆な色遣いで、少なくとも絵に疎い私でも、「あ、カラフルですー」なんてしょうもない感想が浮かぶくらいには大胆でした。
しかし新作の絵はどうでしょう。
人だかりの向こう側に掛けられているのは『灰の魔女』と題された一枚の絵。黒のローブと三角帽子、そして星をかたどったブローチをした魔女が一人、窓辺に佇んでいます。灰色の長髪をたなびかせている彼女は儚い表情をしているようで、退屈そうに腰かけているだけにも見えました。
その絵にクーロンという画家らしさは、確かにありませんでした。
新作の絵には大胆な色遣いなど微塵にも無かったのです。『灰の魔女』は白と黒、そして淡い灰色だけで描かれていました。
迷走しているようにも見えますし、あるいは新しい何かに挑戦しようとしているようにも見て取れます——だからこそ、賛否両論なのでしょうか。
「…………」
ま、そんなことは置いておいて、もう一度絵に目を向けましょう。迷走云々を抜きにしても、綺麗な絵です。美しく麗しい一人の魔女がそこにはいました。
ところで、その絵のモデルとなった人物とは一体誰か。
そう、私です。
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