酔夢

@Harusame9

睡眠論者は夢しか見ない

 私は諸君らに問いたい。なにゆえ、起きるのか?

 世界は不条理で満ち溢れている。朝起きれば講義に間に合うようセットされた目覚まし時計に惚け切った頭を情け容赦なかき乱され一日の始まりから満身創痍である。

 混乱する脳を必死に修正しつつ置きっぱなしにしておいた晩の残りもののほうれん草の胡麻和え、買い込んだ即席味噌汁、そして適当に温め所々硬い米粒を貪り、畳まずに投げ散らかした服を着て外に飛び出す。

 外に出れば四季という大自然のもたらした洗礼に心身共に削られ、やっとのこと電車に乗ろうと何年も熟成されたかも分からない濃厚な香りを放つシートに群がり電車はあっという間に満員となる。さながら漁業で網に詰め込まれた鯖のようで詰め込まれる私は非常に可哀想だ。

 通学するだけでこのような仕打ちを受ける、とても講義を受ける体力は残っていない。さらにそこから家に帰り明日に備えなければならない苦労は筆舌に尽くし難い。実際私の語彙力の天井は茶室の入口並みに低いため間違ってはいないだろう。

 これらは全て「起きる」という行為から始まる。否、始まってしまうのだ。起きなければ、終わりは始まらないのだ。

 私の学説だと起きる行為自体が悪いことではない。望まれないなにかに駆られ追われるようにして起きることこそが問題なのだ。

 一度起きても再び睡路につく、二度寝の快楽は皆知っての通り。好きな映画を見るために起きることや、朝いきり立った己をなだめ鎮めるために猥褻本を読みふけることは断じてそれに当てはまらない。

 諸悪の根源は、少なくとも私は大学にある。出席率という悪魔が我々学生を学問へと縛り付け各々好きな形に整えた思考を角張った豆腐のように共通化させてしまう。中には私のようにくちゃくちゃに崩れ豆腐なのか豆乳なのかわからなくなる程逸脱した人とも存在する。人はそれを阿呆学生と呼び馬鹿にしながら毎日規則正しく起きている。

 だが、本当にそれが正しいのであろうか。つぶれよくわからなくなった思考の持ち主程、賢く確固たる意志で起きないのではないか。

 皆、考えてほしい。布団は敵か?特に冬場起きるとき甘えるようにのしかかり、その温かさと共に添い寝を乞う美少女だと思っていないか?断じて違う。ついでに言うとその温かさは己の体臭をブレンドした己自身のあったかさだ。美少女とは程遠い。

 休日を思い出してほしい。好きなだけ惰眠を貪り起きたいときに起きる。そのとき布団はただふんわりと私たちの体にかかっているだけなのだ。

 そう、追われているときと追われていないときでは全く異なるのだ。追われていない起床は、心地よく夢を見、寝ていると同じだ。

 起きるな、諸君。断固とした意志で夢を見るのだ。たとえ出席日数が足りなくとも。


                       阿呆大学生 新柳 凪

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