第6話 次々と消え始めた

「部長、どうしたんですか?」


 次の日、部長の様子がおかしかった。

 ひたすら頭を抱え込んで、何か悩んでいるようだった。そしてうわ言のようにこう言っていた。


 ……まずい、知ってしまった。もう駄目だ、私はもう……


 どこかで似た言葉を聞いた事がある。ひょっとして——


 そう思った私を同僚の三田が引っ張った。

「なんだよ、三田」

「いいからこっちへ来い!」


 そう言って私をトイレへ連れこんだ。


「一体なんだっていうんだよ」

「お前聞いたか? あのOL三人組」

「あいつら、また何かやったのか?」

「やったというより……消えたんだよ。まるで神隠しみたいに三人とも」

「何だって? やっぱり……」

「やっぱりってお前、何か知ってるのか?」

「いや、別に……俺は何も知らない」


 結局次の日、奇妙なうわ言を言っていた部長もやはり消えた。遺書もなく、言付けもなく、やりかけの仕事もほっぽらかして、部長は消えた。


 人が次々と消えだしたのはそれからだった。

 会社の人間もさることながら、一般の人間も次々と消えた。やがてニュースにも取り上げられるようになった、謎の大量失踪事件として。


 様々な仮説が建てられた。宗教的な仮説、巨大な秘密結社がついに動き出したという仮説、しまいにはみんな宇宙に逃亡したのだ、という説をたてる者まで現れだした。だが結局どれもこの事件を解決するには決定力に欠けていた。

 そして、失踪した者に共通するのは皆、ある「秘密」を知ったらしい、という事だけは確かだった。




「ねえ、あなた」


 妻との食事も最近どこか暗い話しばかりになってしまっていた。


「何だ?」

「あなた、ちょっと前、人が消えるとかなんとか言ってたわよね。ひょっとして何か知ってるんじゃないの?」


 私は黙っていた。


「なんだか怖いわ、次は私じゃないかって。だってお隣の古山さんも、パート先の田中さんもみんな消えたのよ? 何も言わずに突然」

「きっと大丈夫だ。噂によるとある『秘密』を聞かなければ消えることはないらしい。きっと一般人のうちらにはそんなもの、聞きたくて聞けないだろう」


 そうだといいんだけど、妻はそれだけ言った。

 だが私はそういう訳にはいかない。周りの友人多数を「消されて」いるのだ。黙って手をこまねいている訳にはいかない、そしてすぐにでも真実をつかみ、友人の無念を晴らしたい、そしてなによりも妻を安心させたい。その思いだけだった。


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