第5話 CIAの情報
悪名高いOL3人組である彼女達は「会社のCIA」と呼ばれていた。
それほど会社の情報をつかむのが早い。誰彼がくっつきそうだとか、誰彼が不倫をしているとか。私なんかはその情報のとばっちりを受けて大事な仕事一つ失う位、打撃を受けたことがある。それ以来、二度とあいつらとは関わるものか、そう思っていた。
しかし——
「ねえねえ聞いた? 営業二課の村野さん! 消えちゃったらしいよ」
「うっそー! それってひょっとしたら『アレ』を知っちゃったから?」
「まさかー、そんなことって。じゃあひょっとして『アレ』、本当だったの?」
「なあ君たち、ちょっと。その話、聞かせてくれないか?」
どうしても我慢出来なくなった私はついに彼女達に話しかけてしまった。だが彼女達は良い顔をしなかった。当然だ、今まで私は彼女達に会うたびに出来る限りにらみつけていたし、エレベータで彼女達が乗りこんで来そうになると、よく「閉」ボタンを押して嫌がらせをしていたからだ。その他、わざとお茶をこぼしたり、ぶつかってみたり……挙げていったらそれだけで話が終わってしまうくらい、沢山やっていた。
彼女達はとびっきりの「イヤ」な顔をして、
「何? 別にあんたに教えるような話は無いわよ」
「そうよそうよ、第一調子良いのよね、こんな時だけ。さ、行きましょう」
そう言って去ろうとする彼女達の肩を私はつかんだ。
「何するのよ……」
「頼む、頼むから教えてくれ。会社に関わる事なのか? それとも——」
そう言う俺の腕をはらうと、彼女達は廊下の角を曲がって奥に消えていってしまった。
……まあ、仕方ないか……
そう思っていた俺の目の前に、予想外の光景が飛びこんで来た。
あの彼女達の一人、有坂が戻ってきたのだ。この有坂は三人組の中でも一番話の分かる女であり、私も彼女にだけはそんなに被害を与えなかった。そんな有坂は辺りをはばかり、先程のOL残り二人がいないのを確認すると、私にこう話しかけた。
「あの、どうしようかと思ったんですけど……」
「教えてくれるのか?」
彼女はうつむいていた。
「なあ、頼む。私の周りの二人が消えているんだ、このままじゃ黙っていられない。頼むよ」
「あの、私、教えてあげたいのはやまやまなんですけど。でも……」
「でも?」
「でも……もし話したらあなたは……あなた、大変なことになるんですよ? やっぱり私にはそんな残酷な事は出来ません」
そう言って彼女は走り去って行った。
何なんだ、大変なことになるだって? 一体何の事だ。結局またあと少しで真実をつかみ損ねてしまったのだ。さて、どうすれば真実をつかむ事ができるのだろうか、今の私にはその打開策は見付かりそうになかった。
「ただいま」
「おかえりなさい」
妻は会社で疲れきった私を笑顔で迎えてくれた。
「今日はエビフライよ」
「……あ、あぁ」
「どうしたの? 顔色悪いわよ?」
「いや、別に……」
それから、妻と一緒に食事をとっていても、やはりあの事が頭から離れなった。
「あのさ」
私は思いきって妻に相談することにした。
「お前の周り、変な事起こってないか?」
「何? 例えば」
「例えば、人が消えるとか」
妻は吹き出し、もう少しで食べていたエビフライを吐き出しそうだった。
「なによ、突然。そんなことあるわけないでしょ!」
もっともだ、私の考えすぎだろう。明日になればもしかしたら解決してるかもしれない。安田も村野も普通に出勤してきて、「すまんすまん」など笑ってくれるに違い無いのだ。
そう思って出勤した私に、事態は思わぬ方向へと進行する。
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