第7話 ついに秘密を知る日が……
しかしある日、そのどうしようもない「秘密」事件の波及はついに私たちの元へと飛んできたのだった。
それは激しい夕立に見まわれ、傘を忘れた私はずぶぬれになって会社から帰ってきた日の事だった。
「いやー、びっちょりだ。おい佳子、風呂沸いてるか?……おい、佳子?」
返事はない。私の頭にいやな予感が過った。
「佳子? おい、佳子?」
まさか佳子。お前まで……そう思った私は、襖を思いっきり開けた。
「あら、おかえりなさい」
私はほっと胸をなでおろした。
「佳子、びっくりさせるなよ。どうしたんだ? 部屋に電気も点けずにぼーっとして——」
「………」
「佳子?」
「あなた、ごめんなさい」
私には訳がわからなかった。
「何だよ、何がごめんなさいだ? 気味の悪い事を言うのはよしてくれ」
「私、知ってしまったの」
私の全身に電流が走った。
「知ってしまったって……ひょっとしてあの『秘密』をか?」
佳子はゆっくりうなずいた。表情はただただこわばっている。
ついに来てしまったか、この日が。
いつまで引き延ばしていられるかと思っていたのだが、私が真実をつかむ前に妻の佳子がその「秘密」を知ってしまったのだ。
外は相変わらず、激しい夕立の雨が窓を叩いている。雷が一つ、うるさい音を立ててどこかに落ちた。
「で、何なんだ、その秘密って」
「そんな、言えないわ」
「言えないって事はないだろう。私たちの仲はそんなもんだったのか? 私を信頼してないっていうのか?」
「そうじゃないわ。あなたのことは信頼してるわ、信頼してるからこそ言えないのよ」
信頼しているから? 私には全く意味がわからなかった。
「どういうことだ? 何を言っているのか良く分からない」
「もしあなたがこれを聞いてしまったら、あなたは……」
「俺なんてどうなっても構わない。だから頼む、教えてくれないか?」
佳子はただうつむいていた。だがしばらくしてやっとその頑なに閉じていた口を開いた。
「分かったわ。そこまでいうなら話すわ」
私は佳子の目を見つめた。
「あなたは………あなたは、この話しを聞いたら、どこかに消えてしまうの!」
私の心臓が激しく波打っていた。
「分かっている、決心はついた。さあ話してくれ」
「………」
「どうした? 話してくれるんだろ?」
「……もう話したわ……」
「なんだって? 良く聞こえない」
「もう話したって言ってるのよ」
なんの事だ? 私には良く分からなかった。
「もう話したって。私は聞いてないぞ」
「もう話したわ。『この話を聞いたらあなたは消えてしまう』っていう事。これがその秘密よ」
?
私は状況を把握するまでにかなり時間がかかった。
「何だって? じゃあ秘密っていうのは国家機密でも、宇宙の始まりをを示す鍵でもなんでもなく、ただのそれだけか?」
佳子はうつむいたまま、ゆっくり頷いた。
「ただそれを聞くだけで人が次々と消えてなくなってしまうっていうのか?」
「私にだって分からないわ。でも事実そうなのよ、この話を聞いた人は必ず近いうちにどこかに消えてしまうの」
「どこかってどこにだよ」
「分かってたら私だってあなたに言うわよ。それがわからないから困ってるんじゃない! 私たちもう駄目よ、二人とも近いうちに消えてしまうんだわ」
何ていうことだ。今まで血眼になって探してきた「秘密」がそんな事だったなんて。
だが確かに言われてみればうなずけなくもない。確かOL三人組の一人、有坂はこう言っていた。
……もし話したらあなた大変なことになるんですよ?……
こういう事だったのか。しかし消えるって言われても何故? 一体誰が?
そんな事を考えても答えが見付かるわけがなかった。とにかく私も近いうちにきっと安田や村野と同じように「消されて」しまうのだ。じたばたしていても仕方が無い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます