第38話 地震、雷、火事・・・

やっと、合流できた!!


ミュアの指示に従って進むと、森が開けて平原の奥に大部隊が移動しているのが見えた。


あの旗は間違いなく、ボーラル子爵と神経質なおじさんの旗だ。


一日経っていないはずなのに、ずいぶんと長い間離れていたような気がする。


「早く行かなくてもいいのかにゃ? 戦っているのにゃ。」


えっ?


「あれは野戦をしているのか? アロ早く行くぞ」


ミュアは魔法で知ったのだろうけど、張飛ちょうひはここから見てよく分かるね。


張飛が馬にかつを入れてどんどんとスピードを上げていく。


襲歩しゅうほなんてほとんど使わないって言ってたのに。


僕も足で馬の腹を蹴ってスピードを上げる。


すぐにスピードが上がって、襲歩しゅうほになる。


何故かこの馬は速度を上げる指示だけ言う事を聞いてくれる。


まあ、その方が楽かも、なぜか一番使う機会も多いし。


張飛は敵軍の後ろの方にいる強そうな人に向かっている。


じゃあ、僕はその近くの一番弱そうな人に……


なさけないけど、こうやって敵陣に突撃しているだけでめて欲しい。


これは奇襲っていうのになるのかな?


「我こそは北のドワーフ族最強の男、張飛様だ! 死にたくなければ道を空けろ」


特に弓を射かけられることもなく近づけたけど、張飛が大声で名乗りを上げちゃった。


卑怯ひきょうなのが嫌いで、強い敵と正々堂々と戦いたいのは分かるけど、僕のことも気遣って欲しかった。


すごい人数の兵士が居るんだけど!


一斉に敵兵がこちらに向き直った。


身を守るために、馬を止めずに槍を振り回す。


僕は凡人なんだから、張飛に任せて退路を……


「ぶぎゅっ」


あ、何かいたかも。


馬に衝撃があった。ごめんなさい。


「男爵様と騎士様が~」


「アロやるにゃ。大将首にゃ」


「えっ? え?」


ミュアが魔法の盾で矢を防ぎながら何か言ったけど、敵兵がわめいている声が大きくてよく聞こえない。


「ちっ、たいしたことねぇな」


張飛と僕の周りから敵兵がどんどんといなくなっていく。


張飛は目標にしてた強そうな人と、その周りにいた兵士を何十人も倒したみたい。


僕は…… 来た道を見ると1人だけ倒れている……


戦場に似つかわしくない豪華な服。


馬に踏まれて泥だらけだけど……


「また、アロに大将首取られちまったか」


ええっと……  この人が大将だったんだ……




「この馬鹿者が!!」


関羽かんうの雷が落ちた。


張飛と一緒に正座で怒られる。


馬の暴走で居なくなったことを怒られると思ったけど、それは事故だからとほとんど怒られなかった。


すぐに戻らないことに、ちょっとだけお小言を言われたけど。


今、雷が落ちるほど怒られているのは、勝手に敵陣に突っ込んで行ったこと。


敵から奇襲を受ける情報をつかんだ半兵衛さんが、奇襲を受ける振りをして敵を一網打尽にする予定だったらしい。


それを僕達が後方から大将を倒してしまったから、撤退が早くなって思ったほどの戦果が得られなくなったみたい。


そりゃあ、怒られるよね。


えっ! 違う?


2人だけで一番危険なところに突っ込むなんて無茶なことをしたことに怒っていると……


ご、ごめんなさい。


張飛はちょくちょく反論して、その都度つど、関羽に怒られている。


僕みたいに黙って怒られたほうが良いよ。


火に油を注ぐだけだって。それにお説教が長くなって足が……


ダメだ、喧嘩になりそう。


2人とも、奴隷紋を消してもらえなくてフラストレーションが溜まっているからなぁ。


敵が撤退した後にいつも通り奴隷は奴隷紋を一つ消してもらったのだけど、ドワーフの2人は消してもらえなかった。


奴隷管理人と騎士達は「お前らはスレイン王国との戦争が終わったら消してやる」って言って笑っていた。


理不尽りふじん過ぎるよ、あれは僕だって腹が立つ。


半兵衛さんの言う通り、奴隷から解放する気が無いね。


なんとか解放してもらえるようにしないといけないけど…… おっと、今は2人の喧嘩を止めないと。


あれ? 関羽が黙り込んで、張飛が正座し直した。


ん? なにか寒気がするんだけど……


「ア~ロ~」


ひ、ひぃぃ。


は、半兵衛さん!? 何か黒いオーラが……


「…… 私がどれだけ心配したか分かりますか?」


お、怒ってらっしゃいますね。


――― 怖い物の例えで、地震、雷、火事、親父って言うけど、半兵衛さんが一番怖かったです。




◇◆◇◆◇◆


私の名はハンベイ。過去の名は捨てました。


アロのそばに居られれば、それだけで良いのです。


それなのにアロがはぐれるってどういうことですか!?


しっかりとアロの手綱たづなを握っていなかった私も悪いとは思いますけど、乗馬の練習を少ししていただけで、行方不明にならないでください。


千里眼せんりがんの魔法を使ってもどこに居るのか分かりません。


嫌な予感がします。


探しに行こうとしたら、関羽に慌てて止められました。


…… 冷静ではなかったみたいですね。奴隷が勝手に部隊を抜けだしたらひどい目にいます。


クゥマが偵察から戻って来たら、探しに行ってもらいましょう……


…… クゥマはまだですか? 遅いですね。


えっ? まだ、3分も経っていない?


…… やっぱり、私が探しに行こうと思います。


魔法で姿を隠すので、大丈夫でしょう。


関羽は子爵に上手く言っておいてください。


ダメですか、張飛が一緒だから心配するなと言われても……


…… 余計に心配です。


自分で言っておきながら、確かにって言わないでください。


ああ、クゥマが戻りましたか。


良かった、ええっとアロがですね。


えっ? この先に奇襲部隊が居るのですか?


そんなことはどうでもよくてですね。


「「流石さすがにどうでもよくはないだろう」」


関羽とクゥマに同時に突っ込まれました。


おかしいですね。


アロの緊急事態よりも大事なことはないはずですが……


どうしました? 2人で頭を抱えて?


ふぅ、分かっていますよ。


今から子爵に献策しますから、関羽は付いて来てください。




夜はアロが心配で一睡もできませんでした。


夜通し魔法を駆使して探そうとしましたがことごとく失敗です。


アロの消えた方向に魔法を阻害する物がありますね。


こんなに完璧に阻害するとは古代魔法帝国時代の遺跡があるのかもしれません。


都合よくそんな物があるって…… アロのことですから、こちらの考えも付かないことに巻き込まれていそうです……


「敵襲!」


日もだいぶ上がった頃に伝令が届きました。


ああ、やっと来ましたか、献策通り動いてくださいね。


動揺している振りをしながら後方の部隊は左回りで敵を包囲ですよ。


奇襲はバレている時点で失敗ですから、私達の負けはないでしょう。


――― ええっと確かに子爵には、アロと張飛は奇襲を見越して後ろに回るように移動したと言いましたが、本当にしなくてもよいのですよ。


突然居なくなった言い訳のための嘘なのですから、本当にされると困ります。


というか2人だけで敵の本陣に突っ込まないでください。


どれだけ命知らずなんですか?


これはお説教が必要ですね。


――― 怒ってはいますが、本当に心配したのですよ。


1日会えないだけで、こんなに胸が張り裂ける思いをするとは思いませんでした。


でも、無事に戻って来てくれたのですからもう良いのです。


ところで、その子猫はなんですか?


異様な魔力を感じるのですが……


ミュア? 虎の獣人ですか??


獣人!?


動物の耳と尻尾のある比較的ポピュラーな種族?


どこの知識か知りませんが、私の知る限りそれって古代魔法帝国時代の最終兵器です……


ライカンスロープという、強力な魔物と人間を合成した兵器です。


魔法は一切効かず、魔物と同じ身体能力を持ち、強力な魔気まき瘴気しょうきの魔法を使うと言い伝えられていますよ……


「やっとミュアの実力を知っている者がいたのにゃ、恐れおののいていいのにゃ」


…… 私の知識に誤りがあったようです。


気が抜けるような声、人間型は猫耳と尻尾を持つ少女。


最終兵器作成のかたわらで愛玩あいがん用も作っていたのかもしれません。


「にゃ~、そのあわれんだような目は何にゃ」


アロから詳しい話を聞きました。


やっぱり考えも付かないことをしていましたね。


その聖女は、きっと滅びの国の聖女です。


人類が最終兵器同士の戦いで滅びようとしているときに身をていして、最終兵器を止めたと言われています。


虎型でミュア…… 最終兵器の中でも一番強いと言われていたμ(ミュー)のa型は虎の魔物とのライカンスロープとわれていますね……


…………


「元の場所に返してきなさ~い!」


野良猫よりもたちが悪いですよ!

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