第37話 道草

ババン達のお義父さんの傷をポーションで治した後も慌ただしかった。


兵士は敗走して行ったけど、まだ安心できないから全員で村には戻れない。


だけど、すっかり日が落ちて冷えてきた。


怪我人もいるから、何もない遺跡要塞いせきようさいだと体調を崩してしまう。


僕と張飛ちょうひ、比較的元気な村人数人と急いで村に毛布を取りに行くことになった。


荒らされている家ばかりだけど、その中から生活に使えそうな物を探す。


特に最初に襲われた村の入り口付近の家はひどかった。


逃げ遅れた人の大半は亡くなっていたけど、2人ほど助けることができた。


魔法帝国のポーションが優秀だったおかげだ。


瀕死ひんしの大怪我だった2人はポーションを飲んだらすぐに傷がえ回復した。


ただ、すぐに動けるわけじゃないから、僕と張飛が背負う。


もちろん、その上に毛布や必要そうな食料や水桶などを持って遺跡に運ぶ。


村人からは驚かれたけど、奴隷で鍛えられた僕達はこのくらいなら余裕だ。


遺跡に帰ると、黄緑団子きみだんごを作って振舞った。


夕食後だったはずだけど、張飛が「みんなお腹が空かしている」と言うので、運んだ食材で作る。


奴隷として何度も作っているので、黄緑団子なら慣れたものだ。


みんな美味しそうに食べてくれるので作り甲斐がいがある。


兵士に怯えながら、命からがら遺跡要塞に逃げ込んで、さっきまで戦っていたのだからお腹も空いてるよね。


食べ終わると遺跡要塞の上で火を囲みながら毛布を羽織って寝る。


ただ、みんな不安と緊張であまり寝られないみたいだ。


火を囲みながら、みんな横にならずに体を起こしている。


僕は眠いから先に寝ようかなと思ったら、村人全員からお礼を言われた。


ちょっと恥ずかしい。僕は大したことしていないから。


撃退できたのもババンの作った要塞のおかげだし。


張飛ともども撃退に関してはビックリするくらい何もしていない。


それなのに、なぜかお礼として僕達に協力したいと言い始めた。


きっと、まだ、みんな興奮状態こうふんじょうたいにあるからかな?


「僕達は敵国の人間だから」と何度言っても聞いてくれない。


ババンやゴールも大きくなったら、僕の配下になると言い出した。


いやいや、僕は配下とか持つ人間じゃないから。


「みんな落ち着くんだ」


ババン達のお義父さんがみんなを止めてくれた。


「今、ついて行っても迷惑になる。我々はアロ君が世に出るときに備えて、力を蓄えよう」


ええっと、僕は地球に帰るだけで、世に出るなんてことはしない予定はないんだけど……




日が明けると、村に危険がないか見て回る。


ミュアが千里眼の魔法で大丈夫と言ってくれたけど、念のためだ。


本当は復興のお手伝いもしたいけど、部隊に戻らないといけないので、無事にみんなを村に届けると、みんなに別れを告げた。


特に張飛は奴隷紋があるので、早く戻らないとダメらしい。


しまれたけど、村人総出の見送りを受けて、張飛と2人で馬に乗る。


食料やお金を渡してくれたけど受け取れない。復興に使ってもらわないと。


伯爵はくしゃくの街の方向と部隊が行きそうな道を教えてもらえただけで充分だ。


僕の中では馬をめぐらせて、映画みたいに颯爽さっそうと別れたつもりなんだけど……


「にゃ~ どうして左に行くのにゃ、右に進むのにゃ! お前は右も分からないのかにゃ? 剣を持つ方の手が右なのにゃ!」


「おい、アロよ。その猫、俺に失礼なこと言ってないか?」


方向音痴の張飛と、なぜか一緒に行くことになったミュアを肩に乗せて馬を進める。


颯爽とが台無しだ。


張飛にはミュアの言葉はニャーニャーとしか聞こえないみたいだ。


わざとしてるな……


ミュアは大人には自分が獣人だとバレたくないからって言ってたけど、聞こえないのを良いことに言いたい放題だ。


まあ、ミュアがいないとどっちに進んでいいのか分からないから、助かってはいるんだけど……


「ミュアが右だって」


「ちっ、本当にこっちで合ってるんだろうな」


千里眼の魔法で部隊を見ながら誘導してくれているので、間違いないはずだよ。


子猫に先導されながらゆっくりと進む。


乗馬がだいぶ上手くなったと思ったけど、たまに言う事を聞かずに道端の草を食べるために止まってしまう。


そういえば、道草を食うって寄り道のことを言うんだったよな……


盛大に寄り道してしまった気がする。早く関羽かんうと半兵衛さんのところに戻らないと。




◇◆◇◆◇◆


わたしはマリー。


村で大工をしているお父さんとババン兄さん、ゴール兄さんの4人暮らし。


ババン兄さんとゴール兄さんは義理の兄妹だけど仲は良いわ。


ちょっとデリカシーに欠けるところもあるけど、男の子だから鈍感でもしょうがないと思っている。


わたし達兄妹は東の遺跡に居るミュアちゃんと4人でよく遊ぶ。


ババン兄さんとは秘密要塞作り、ゴール兄さんとは詩や政治について、わたしとは魔石作りについて。


うん、わたし達の興味はバラバラね。


それに合わせられるミュアちゃんの知識範囲はすごいと思うの。


きっと、知識の泉の精霊さんなのだわ。




ある日、夕食後に村が襲われた。


家は焼かれ、お父さんは傷だらけ。


本当だったら一家みんなで死んでしまうところだったけれど、アロさんという素敵な方が来て助けてくれた。


アロさんはそれだけじゃなくって、わたし達じゃ入ることもできない危険な遺跡から古代魔法帝国のポーションを取ってきてくれて、重症だったお父さんを治してくれた。


危険かもしれない村に戻って、毛布に食料を取ってきてくれて……


あれは村のクフさんとマカさん!


アロさんに助けてもらったのね。


大人の人を背負って、その上、水桶に毛布、食料まで持ってくるって、どれだけ力持ちなの!?


村の大人達でもそんなの無理だわ。


その後、ご馳走ちそうしてもらった黄緑団子は絶品! 生まれて初めてこんなに美味しい物を食べたわ。


夜なのにみんなでお代わりしたぐらい。


わたしもこんなに美味しいなら食べるわ。太っても本望よ。


だから、みんなアロさんに感謝している。


この国の伯爵の兵士に襲われたのだもの、もうこの村は助けてくれたアロ騎士爵の領地だわ。


ババン兄さんとゴール兄さんはアロさんの配下になるって意気込んでいる。


わたしはどうしよう……


ババン兄さんみたいに戦いに役に立つ技能はないし。


ゴール兄さんみたいに頭が良く、舌が回る訳でもない。


家事もあんまり得意じゃないからメイドもできないし……


魔石への興味だったら誰にも負けないんだけどな……


そっか、アロさんの役に立ちそうな魔道具の研究者になったらいいんじゃない。


あれ? ミュアちゃんは? ずるい! アロさんについて行ったんだ。


ミュアちゃんがいなくなったら、魔石の研究ができないじゃないの!


あれ? いっぱい魔石と本が置いてある。ババン兄さんとゴール兄さんの分もあるみたい……


ミュアちゃんが置いて行ったんだ! さすが知識の精霊さん、ありがとう!


うん、お父さんの許可も出た。


わたし達、3兄妹は頑張って勉強して、成人したらアロさんのために働くことにします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る