第36話 ファラオの棺
遺跡の小部屋に入ったと思ったら、扉が閉まって毒ガスが噴き出てきた。
口に布を当てて、壁を登る。
毒ガスは重いみたいで床に
ミュアが慌てて解除をやり直したから、途中で毒ガスが止まる。
ちょっと吸ったみたいだけど、致死量じゃなかたのか何ともない。
「ふぅ、危なかった」
「アロは何で生きてるにゃ。思いっきり吸ってたにゃ」
「えっ? 上に行ったから
「こんな小部屋で上も下もないにゃ……」
でも、なんともないけど……
「む~、使われなくなってから数万年は
毒ガス部屋を出ると建物の雰囲気が変わり、大きな大きな空間に出た。
20~30メートルはありそうな扉と、同じぐらいの
左側が人の体に猫の顔で、右側が人の体に
バステトとホルスだったっけ? どちらも砂を
ミュアの操作で大きな扉が開き、恐る恐る中に入る。
「坐像の目が動いてない?」
「ミュアと一緒にいるから襲われることはないはずにゃ」
あっ、やっぱり、この坐像動くんだ……
「ようこそにゃ、ここが魔法帝国中央研究所にゃ」
坐像に襲われるんじゃないかとビクビクしていたけど、何事もなく中に入れた。
目がずっとこちらを見ていたから気が気じゃなかった。
小部屋の件があるから、ミュアのうっかりで攻撃される可能性も
――― 中に入ると天井が高く、幅も広い廊下が続いている。
どういう仕組みか天井が光っていて充分に明るい。
廊下の両側には大きな窓と扉を持つ部屋がたくさん並んでいた。
部屋を
扉や窓は人間サイズだけど、何もかもが巨大なので小人になった気分だ。
ミュアがもっと奥だと言うのでどんどんと進む。
途中で2メートルくらいのスフィンクスが床に伏せていた。
顔が人間で身体がライオン。作りは石じゃなくて、生物そのものだから野犬に会ったような恐怖を感じる。
「たぶん大丈夫だと思うにゃけど、走らず目は合わせずに歩くにゃ」
たぶんじゃ困るんだけど…… 対応も野生動物に会った時の対応だし。
野良犬のように100メートルくらい後ろを追ってきたけど、途中で興味をなくしたのか戻って行った。
「にゃ~ 危なかったのにゃ。あいつは精神魔法が得意にゃから、刺激すると大変な目にあってたにゃ」
知ってたんだったら事前に言ってくれないかな?
「魔法に掛かると、延々と
うん、そんな死に方はしたくない。
頑張って進むと行き止まりになっていて、格納庫のような扉が付いている。
「少し待つにゃ」
ミュアが扉に付いている六角形のクリスタルに手を
ガコン
しばらくすると格納庫の扉がゆっくりと開いた。
始めは真っ暗だったけど、手前から徐々に光が灯る。
なんだこれ? 5メートルくらいの
「着いたのにゃ~ 真ん中の一番立派なのがミュアのなのにゃ~」
えっ!? ここに封印されているの? これってピラミッドだよね!?
ミュアの言う一番立派なピラミッドに入ると、中は病院の
白を基調にして机やよく分からない機器が並んでいる。
ベットがあるところに
形がファラオの棺と同じだ…… 古代文明って似るのかな?
「机の上にポーションが二つあったはずにゃ」
確かに、青い液体の入った
これがポーションなんだ。
あれ? ポーションを取ると、その下に手紙が置いてある。
手紙を開くと神官服を着た女性のホログラムが現れて喋り出した。
「アロ、ちゃんとミュアを見て行くにゃ。絶対に絶対、ミュアの提案を断ったことを後悔するにゃ」
う~ん、道中で聞いたけどミュアって魔法帝国で最終決戦兵器だったんだよね?
猫の化物だろうから、あんまり見たくないんだけど……
棺の上半身は
想像していた猫の化物でもミイラでもなく、若いエキゾチックな女性が見える。
ミュアが言うように確かに美人だ。この顔、
「そうだ、クレオパトラだ!」
「にゃ?!」
急にミュアが棺に吸い込まれて、棺の中にいるエキゾチックな女性の目が開いた。
「もう一つの魂の名前なのにゃ! これなら封印も……」
ミュアがなにかを
バキッ! ガラ、ガラ――― ポスン
棺が割れて崩れ落ちたかと思ったら、空気が抜けたような可愛い音がして、灰色の煙が上がった。
「なんにゃ~~~
エキゾチックな大人の女性ではなく、今まで通りの子供のミュアが出て来て
「力の源泉が浄化されてるのにゃ! 絶対に聖女のボケナスの仕業なのにゃ」
喚いている最中も体から灰色の煙が上がっていて、子供姿からどんどんと小さくなって、虎柄の子猫になった。
「にゃ~ 聖女は
あ、猫じゃなくて虎なんだ。
ミュアに怒られそうだけど、耳をペタンとして落ち込む虎の子供はすごく可愛い。
「封印から出られたんだから、元気出してよ」
「にゃ~」
ミュアとポーション、それに手紙を抱えて来た道を戻る。
「それに聖女さんもそんなに悪い人じゃないと思うよ」
ホログラムは『ミュア、あなたに戦争を押し付けてごめんなさい。瘴気を払いましたので綺麗な体で平和な時代を生きてください。あなたの幸せを祈ります』と言って切れた。
この手紙はミュアが元気になってから見せてあげようと思う。
「にゃ? アロ、何か言ったかにゃ?」
「なんでもない」
ババン達のお義父さんが待ってるから急がないと。
◇◆◇◆◇◆
僕はゴール。
ババンよりも年下らしいから9歳くらいかな?
孤児院に居る時からババンとは気が合ってよく遊んだけど、まさか同じ人の
優しく働き者のババン兄さんは大好きだから嬉しい。
ちょっと建築バカなところがあって、僕の読書と詩の時間を邪魔してくるけど、それ以外は良い兄さんだ。
早く妹のマリーと良い仲になると良いね。
密かに
お義父さんが何て言うかは知らなけど……
僕もババンと同じで貴族の生まれだけど、没落して一家離散した。
貴族の生活を知っているだけに、ババンよりも貴族に執着がある。
でも、この国はダメだ。
村を自国の兵士が襲うとか、この国の貴族は腐り切っている。
僕達を助けてくれたのが敵国の人だなんて恥ずかしいよ。
スライン王国は一度やり直した方が良い。
そのときこそは僕が貴族になって、この国を立派な強国にしてやる。
家名は後から考えるけど、絶対にデル・ゴールになってやる。
僕達を助けてくれたアロさんが遺跡の中から戻ってきた。
何度かミュアに内緒で遺跡の中に入ろうとしたけど、僕達が入るとすぐに体が熱くなって動けなくなるんだよね。
魔力袋を持ってないから問題ないって…… それは魔力を使った防御や強化も使えないってことなんじゃ……
使えないのに、燃えている家に飛び込んで、家の柱を背中で受け止めて、僕達とお義父さんを抱えて脱出したの!?
アロさんって何者?
無事にポーションを見つけて帰ってきてくれたようだ。
あれ、肩に乗っている子猫は遺跡の中で拾ってきたの?
薄汚くって、小生意気そうだから、返してきた方が良くない?
子猫に引っ
「誰が薄汚くって、小生意気そうにゃ!」
げっ! ミュア!
ミュアは不思議なやつだ。いつもこの遺跡に居て、僕達と遊んでくれる。
なんだかんだで、長い時間一緒に
だから、なんとなくミュアに元気がないのが分かった。
ミュアは僕らよりも子供みたいな見た目だけど、色々な知識を持っている。
ときどき大人びた表情もするし、見た目通りの年齢じゃないのはなんとなく感じている。
ババンとマリーは妖精の
あんな
うん、このことを話していたときもミュアに引っ
ババンに要塞建築の基礎を教え、僕に古代の詩を聞かせてくれて、今はお義父さんのためにポーションを持って来てくれた。
ミュアが何者か知らないけど、大切な友人には変わりない。
ポーションを飲んだお義父さんはすぐに傷が
すごい効き目だ。
「魔法帝国時代の最高級品にゃ、その辺のポーションと一緒にしてはいけないにゃ」
ミュアが得意そうだ。ミュアが作ったわけじゃないだろうに。
「いつも一言多いのにゃ!」
今度は来ることが予想できたから、引っ掻き攻撃をヒラリと
あっかんべーと舌を出すと、ミュアが怒って追いかけて来たので必死で逃げる。
うん、ミュアが元気なら妖精でも何でもいいや。
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