第34話 遺跡要塞

はぁ、はぁ、やっと着いた。


大人一人背負って、山道を全力疾走は流石さすがに息が上がる。


馬で行けば良かったよ。


ババンに会いに行ったら、村が襲われてるなんて分かるわけないからしょうがないけど。


とりでになっている遺跡に入ろうとしたら、ババン達から待ったがかかった。


正面の門に見えているところは実は偽物で入ると危険な罠にかかるようになっているんだって……


…… こ、怖い砦だな…… 砦じゃなくって要塞? うん、遺跡要塞いせきようさいと呼ぶことにするよ。


遺跡の奥のおはかのようなところを開けると地下に続く階段が出て来た。


村人は30人近くいる。この階段を順番に降りていたら追いつかれちゃうよ。


「みんなが降りるまでは俺が食い止めてやる」


張飛がやる気満々で槍を構える。


「大丈夫、みんなそれぞれのお墓に分かれて入って」


100近くあるお墓が全て開いていた。


それぞれ分かれて入る。入るとお墓は勝手に閉まった。魔法による仕掛けかな?


入った先は同じ広場に出るようになっていて、合流して地下を進む。


地下はダンジョンのようになっていて複雑だ。ババン達がいなければ迷っていたと思う。


地上に出る階段を上がると遺跡要塞に着いた。


でも、これって地下を警戒しとかないとダメなんじゃ……


「ここから敵が出てきたら、俺が倒してやる。細い階段だから一人でなんとかなるだろう」


今度こそと、張飛が弓と矢を用意する。


ババンがスイッチを押すと階段がなくなり絶壁になった。同時に地下は危険な罠だらけのダンジョンになるらしい…… さ、殺意高いよね……


「ぎゃ~」


偽の入り口の方から悲鳴が聞こえる。


きっと危険な罠にかかったね。




遺跡要塞の上から見下ろすと100人ほどの兵士が集まっていた。


擁壁ようへきの高さが20メートルくらいあるので、見下ろすのが怖い。


しかも垂直ではなく、せり出しているので空中から眺めているような感覚におちいる。


とりあえず、近付いてきたら石でも投げたらいいのかな?


兵士の何人かが、堀に入って、擁壁ようへきに近づいてきた。


堀は浅いみたいでザブザブと歩いて擁壁に近づ……


…… あっ、沈んだ…… 浮き上がって来ない……


今度は奥の方で魔法使いが5人ほど集まって何かをしている。


あのモヤは爆裂魔法だ!


「張飛! あそこ、魔法が来る。」


「まかせな!」


僕が指差したところに向かって、張飛が弓を構える。


「大丈夫なのにゃ」


ミュアが張飛の矢から魔力を霧散させてしまった。


直後に爆裂魔法が完成したみたいだけど、何も起こらない。


「遺跡への魔法は全て無効化されるにゃ」


「何だこの猫は?」


「村に行くときに話してたミュアだよ」


「ミュア? アロは猫と話ができるのか!?」


ええっと、話がみ合っていないような?


「ミュアは大人相手には普通の猫に見えるようにしているにゃ。もちろん声も聞こえないにゃ」


何で大人には姿を見せないのだろう?


「獣の魔獣と掛け合わせた獣人なんて大人が知ったら怖がられるにゃ。大人はずる賢くて信用できないから、秘密にしているにゃ」


う~ん、張飛は大丈夫だと思うけど……


ミュアのせいで張飛に白い目で見られた。


猫と話しているわけではないんだけど……




兵士達はまだ撤退する様子を見せない。


辺境伯領のお城を攻めるときみたいな攻城兵器も見えないから、遺跡要塞を落とすのは無理だと思うけどな……


作戦を変えたのか、堀のない入口付近の擁壁からどんどんと登ってくる。


あ、確かに入口から入らずに、そこの壁だったら登れそう。


「やっと俺の出番か」


張飛が嬉しそうに弓に矢をつがえる。


「擁壁から離れてください」


ババンが奥から呼ぶので、擁壁から離れる。


「やつら、どんどんと登ってきているぞ」


擁壁から兵士の顔が見えた。


あんなに急な壁なのに登ってくるってすごい。


感心しながら、僕と張飛は槍を構えた。


ガコン


ババンがスイッチを押すと、擁壁が倒れ出した。


ズ、ズズン!


擁壁は玉ねぎの皮のようにどんどんとけるらしい。


登ってきてた人は無事じゃないよね?


端から下を見るとほぼ全滅していた……


「酒はねぇのか? 俺は寝てくる。用事があったら起こしてくれ」


張飛がねた。


気持ちはよく分かる。




◇◆◇◆◇◆


匿名とくめい希望だ。名前は出したくない。


俺はスライン王国の東方にあるサターキ伯爵領で十人隊長じゅうにんたいちょうをしている。


普通の兵士に毛が生えたようなもんだが、平民では頑張っている方だと思いたい。


ちょっと前に、辺境伯領をガレトン王国に落とされたとの話を聞いた。


辺境伯領を落とされたのは初めてだ、緊張が走る。


敵はどう出るのか?


素直に考えると王都へ向かう途中にある侯爵こうしゃく領にそのまま向かうだろう。


「この伯爵領にも来るかもしれん。よく領内を見張るように」


百人隊長ひゃくにんたいちょうから言われて、安心した。


侯爵領に援軍に行けと言われたら大変だった。


褒賞ほうしょうも期待できないのに命懸けで他の領地を守れなんて絶対に嫌だ。


サターキ伯爵は侯爵と仲が悪いから援軍は出さないと高をくくっていたが、正解だったようだ。


敵に攻められているのに身内で争い合っているんだから、この国も末期だな……


敵が迫っていないか確かめるために、俺達は辺境伯領とのさかいに向かう。


辺境伯領と接している森に入って野営の準備をしていると、百人隊長が一部の人間を集めて声を掛けている。


百人隊長のお気に入りばかり集まっているじゃないか。何かうまい話でもあるのか?


少し大きな声で話しているので気付いたものは聞き耳を立てる。俺もテントを立てながら話を聞く。


「この先に林業でもうけている村がある。伯爵様への税を誤魔化している疑いがあるので我々であらためるぞ」


おおお、それは村を襲って良いってことだな。


みんなが色めき立つ。


防衛戦は侵略戦と違って、領土拡大などの得るものがないので、命懸けの割には褒賞が期待できない。


「50人ほどの小さな村だ。金も女も早い物勝ちで持って行け」


「おおお、良い女いるかな?」


「さすが百人隊長殿、分かってらっしゃる」


「うむ、うむ、みなで英気をやしなおうではないか。生き残りがいると厄介だ、ちゃんと後始末はするように」


俺も参加して良いよな!


テントの準備は新人に任せて古株を連れて百人隊長についていく。




夕食後の村を襲う。


森にある質素な村だ、たいした稼ぎにはならないだろう。


数人ずつに分かれて、我先に民家へ入っていく。


そこら中で悲鳴が聞こえる。


完全に出遅れたが、みんな若いな。


古株4人と村の奥に進んで大きそうな家に入る。


経験からすると、大抵の村では奥に行くほど村長とかの偉くて金を持っているやつが住んでいる。


村の入口の家に押し入っても儲けは少ないだろう。


――― 失敗した。


大きな家だったが大工道具を置ているだけだった。


若い女もいなけりゃ、金目の物も少ない。


大工のおっさんが一人いるだけ……


とりあえずおっさんにはサンドバックになってもらう。


ただの腹いせだ。どうせ村人は皆殺しだからな。


剣を使って後で手入れするのも面倒なので、柱にくくり付けて火を放つ。


時間が惜しい。早く次の家に行かないと稼ぎがなくなる。


――― 隣の家に押し入ったらもぬけの殻だった。


逃げるのが思ったよりも早いな。


違和感を持ったが、この家には金目の物が多少ある。


古株4人でホクホク顔で物色していく。


ドゴーン!


「あっちだ! 追え、追え!」


百人隊長の声がする。


村に戦える者がいたのだろう。


村を襲って怪我をしたくないので、物色を終わらせてからゆっくりと外に出る。


他のみんなも遅い。まぁ、気持ちは同じだろう。




百人隊長を追って、村から更に東に向かうと遺跡があった。


生まれてからずっと伯爵領に居るがこんな所に遺跡があるなんて初めて知った。


――― 警戒しながら奥に進むと絶壁が見える。おいおい、要塞みたいじゃないか。


遺跡を改造したのだろうか? 古い遺跡に新しいほりへいこしらえてある。


すごく立派だ。立派だが、要塞の入口が開いている……


罠か? いやいや、村人が少なくて閉められなかった可能性がある。


百人隊長の命令で先に村人を追って行ったやつらが入口に突入した。


「ぎゃ~」


…… すぐに悲鳴が聞こえた。


やはり罠か。外からだと中に入った人間が見えない。


どんな罠か分からないのは怖いな……


攻城用の道具など持ってきていないので、何人かがほりに入ってみる。


思ったよりも浅いようだ。これならへいを登れるかもしれん。


ドボン!


奥に行くと深くなっているのか沈んだ。


どういう作りか、沈んだ兵が上がってこない……


おいおい、村人が使うにしては物騒ぶっそう過ぎる。


頭の良いやつが入口の上を登って行く。


おお、そこなら罠もないんじゃないか。


半分以上登っても何も起こらない。


チャンスだ。みんなで入口に殺到した。


ガコン


えっ? 目を疑った。


へいが倒れてくる。


ズ、ズズン!


すごい音がして、砂煙が上がる。


俺を含めて後ろの方に居た数人が無事なだけで、他は見当たらない……


古株4人もどこに行ったのやら……


「ひ、ひぃぃぃぃ」


誰が上げた悲鳴かは分からない。


もしかすると俺だったかもしれないが、そんなことは気にせずに必死に逃げた。


もう二度と悪いことはしないから、神様、助けてくれ!

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