第24話 救出作戦

ごめんなさい。


僕が馬で余計よけいなことをしたせいで進軍が早い。


タイミングが大事って言われたのに。


ちょっとあせったけど、軽装備のおかげで僕達の部隊は作戦通り北東に陣取じんどれたようだ。


城壁に次々と梯子はしごを掛けて登ろうとするギレッド軍と、登らせまいとする辺境伯領軍。


大きな爆発魔法で攻城兵器が壊れ、矢や石にやられて人が梯子から落ちて行く。


戦争は相変わらず人が簡単に死んでいく。


馬は全力で走って疲れたのか城から離れるようにトボトボと歩き始めた。


「アロ!」


張飛ちょうひが馬を横に付けると、僕を引っ張って自分の馬の後ろに乗せた。


「やりやがったなこの野郎。ちょっとふるえたじゃねぇか」


張飛が嬉しそうに馬を北東に進めた。


「ごめんなさい。タイミングが大事なのに」


「いえ、当初の作戦よりも上手く行っています」


北西に移動するよう神経質そうなおじさんに伝えると、半兵衛さんが馬を並べた。


兵士、奴隷全てが急いで移動していく。


「いきなり駆け出したときは驚いたぞ」


関羽かんうも馬を並べ、3人で脆い城壁の部分に急ぐ。


「馬に乗ったことなかったのに……」


「「「えっ?」」」


驚きの声が3つ重なった。


「アロお前、馬は初めてか?」


「乗ったことがないのにあんな無茶をしたのか?」


「もしかして、さっきの一騎駆けは偶然ですか?」


張飛、関羽、半兵衛さんと同時に質問してきた。


もちろん答えは全部「はい」だ。


黙ってうなずいたら、3人とも天をあおいだ。


――― すぐに北西の方が騒がしくなった。


まだ城壁が破られた訳じゃないのに、撤退が早すぎる。


「まあ、アロがおかしいのは今に始まったことではありません。戦術魔法を使いますので詠唱の間の守りをお願いします」


「「おう!」」


今、サラッと聞きてならないことを言われたような……


半兵衛さんが馬から降りて魔法の詠唱に入ってしまったから、問いめられないけど。


戦術魔法は高難度なので、通常は数十人の魔導士が必要らしいんだけど、半兵衛さんは一人で発動が可能らしい。


規格外のおかしいという意味だったら、半兵衛さんの方がおかしいんじゃないかな?


城壁からは十分に離れているけど、油断はできない。


敵の攻撃から半兵衛さんを守ることに集中していたら、城から黒ずくめの男が弓を放ったのが分かった。


分かったのは超集中力と魔力が見えるから。


矢は魔法で透明にしているみたいで目視できないけど、モヤが一直線に迫ってくるのが分かる。


半兵衛さんと矢の直線上に立って、盾を構える。


ガッ、「ぐっ!」


矢は盾と小手を貫いて、腕にさったところで止まった。


透明化にするために魔力を使ったから威力自体は弱かったのかな?


もう少し威力があったら体まで届いていたかも……


冷や汗が出た。


黒ずくめの男は驚いた様子を見せると城壁から離れた。


ズドン! ゴゴゴゴ・・・・・・・


離れた直後の城壁に半兵衛さんの戦術魔法が炸裂する。


大きな音を立てて城壁が崩れていく。


「何だ今の攻撃は、アロ大丈夫か?」


痛い、痛い。


貫通かんつうはしてないけど、腕の骨に刺さっている。


でも、カトリーヌと街の人を助けるために平気な顔をする。


「行こう」


崩れた所からナポレオンさん率いる神官戦士団が街の人をともなって出てくるのが見えた。


やっぱりと言うか想定外というか、街の人は多いし移動が遅い。


全員は無理だけどと言っていた意味がよく分かる。


4人で城壁を越えると、我先に逃げようとする人が他人を押し退けてでも進もうとする姿が目に入った。


兵士が邪魔な街人を殺したり、略奪りゃくだつも起きていて地獄絵図じごくえず……


カトリーヌの思いが踏みにじられたようで不快だった。


そのカトリーヌは遥か後方で力のない人を必死で避難させようとしていた。


あ、あの黒ずくめの男は!?


「危ない!」




◇◆◇◆◇◆


あたしはカトリーヌ。恥ずかしながら聖女をしています。


辺境伯のお城に一室を与えられました。


貴族扱いですけど、ちょっと前まで平民だったので落ち着きません。


落ち着かないので、もっぱら教会に顔を出しています。


女神様にお祈りしていれば心も落ち着くでしょう。


「聖女様、お助けください」


街中に居ると、兵士と街の人のいさかいをよく目にします。


その都度つどなぜかあたしに助けを求められます。


神殿で街の人と兵士への神聖魔法による治療をしているので、両者の仲裁ができると思われているようですが…… これではまったく落ち着きませんね。


いさかいをおさめるなんてあたしには荷が重いです。


オールソン団長はどちらに行かれたのですか?


いろまち…… 色町ですか!? こんな真昼間に!?


お城に入ってからオールソン団長の姿はほとんど見ません。


エロ親父ですが、仕事はきっちりするタイプなので何かやっているのでしょう。


短い付き合いですが、それくらいの信頼はあります。


…… 本当に仕事してますよね? してなかったら女神様に代わって天罰を与えますよ。




今日も豪華なご飯が出ますが、辺境伯補佐と一緒なので美味しく食べれません。


すごい量ですね。


街中では兵士がお腹を空かせて街の人と揉めていたのですが……


食べ物と美術品の話ばかりなので、街のことには興味がなさそうです。


ええっと、オールソン団長と色町の話は止めてもらっていいですか?


仮にも妙齢みょうれいの女性がいるのですが……


…… 気にしませんか、そんな気はしました。


それにしても、オールソン団長が頻繁ひんぱんに色町に行っていることを知っていたこの男爵だんしゃくはすごいですね。


辺境伯補佐の部下とは思えない優秀さです。


目つきが鋭く、すきもありません。


相当戦えると思いますよ。


う~ん、ヴァルキリーのせいであたしもすっかり戦闘狂になってしまいました。


鍛錬たんれんをしないと気持ちが悪いくらいです。


早く食事を終えて今日の素振りをしたいのですが。


オールソン団長の色町の話はすごくリアリティーがありますね。


そうですか、仕事をしていないのなら、新技の練習台になって頂きましょう。




とうとうガレトン王国軍が城に向かって動き出しました。


オールソン団長が言うには準備は上々とのことですが、あまり顔色が良くありません。


作戦を成功させるために頑張ったのでしょう。


ガレトン王国軍が撤退してくれると最良なのですが、それは難しいですよね。


兵士が多過ぎて、城壁の守りは一部の者だけになりました。


私達、神官戦士団も城壁の守り手からは外されているので教会にフル装備で待機しています。


信心深い方が教会に集まってくれているので、この方達だけでも逃げることができるように頑張りましょう。


教会の鐘塔しょうとうに登ると街を一望できました。


兵士を鼓舞こぶするための指揮官による演説えんぜつが聞こえてきます。


良いことを言っているはずなのですが……


あれはアロ!?


アロが挑発するように、矢と魔法の雨の中、城壁の前を悠悠ゆうゆうと往復していきます。


敵味方から大きなどよめきが起きます。


本当にすごい! 騎士物語に出てきそうな光景です。


あんなに命知らずなこと、本当にする人がいるとは思いませんでした。


効果は絶大です。あれでは指揮官は面目丸潰めんもくまるつぶれでしょう。


直後にガレトン王国軍が怒涛どとうの勢いで攻めてきます。


分かります。あれを見せられては私でも奮起ふんきします。


反対に城壁の兵は浮足出っています。


ふぅ、これは思ったよりも撤退は早くなりそうですね。


「聖女様、北西の門が開いております」


へ?


ええっと、嘘ですよね……


豪華に着飾った部隊が北西の門から出て行こうとしています。


あれって、辺境伯補佐の近衛兵ですよね。


あのお洒落しゃれな馬車に辺境伯補佐が乗っているのでしょうか?


早過ぎません? まだ、城壁が落ちたわけでもありませんよ??


神官戦士団の人と顔を見合わせました。


やっぱり、普通は驚きますよね。


「聖女様よ、ダメだ急ごう」


鐘塔しょうとうの下からオールソン団長が呼びかけて来ました。


確かにダメそうですね。




街の人を逃がすのがこんなに大変だとは思いませんでした。


老若男女、いろんな人がいるので統制が取れません。


そんなに大荷物では逃げられませんよ。


心無い人は弱い人を押し退けて、どんどんと逃げて行きますね。


天罰が下りますよ。


「敵はまだ城壁の兵士が止めている。慌てずに、助け合って移動しなさい!」


子供やお年寄りを助けては、神官戦士団にたくして、略奪や暴力を振るっている狼藉者ろうぜきもの成敗せいばいします。


きりがありませんね。


城壁が壊れました。


こちらからも神聖魔法で手伝う予定でしたが、まったく手が足りません。


兵士も逃げ始めましたが、よりにもよって邪魔な住人に剣を向けています。


信じられません。街の人を守るために戦っていたのではないのですか?


「危ない!」


アロの声が聞こえたと思ったら、首に衝撃と熱さを感じました。


矢? 


矢が首に刺さったみたいです。


プレートメイルを着て、神気で防御していたのに、それを貫きましたか。


声が出ませんし、血が……


首と口から血を流しながら、振り返ります。


全身、黒ずくめの男。顔も隠していますが、あの目は男爵ですね。


「敵と内通しているとは感心しませんな、聖女様」


男爵がなぜこんなところに居るのか分かりませんが、街の人を逃がすまでは倒れる訳にはいきません。


さて、ヴァルキリーなしでどこまで通じるのでしょうか……


神気で傷口の血を止めると、両手剣を構え直しました。

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