第19話 井戸端会議

女騎士に優しくボコボコにされました……


強すぎるよ…… 何度かやりは当たったけど、神気しんきすべはじかれた。


慈悲じひたたえるうるんだひとみで急所以外を容赦ようしゃなく攻撃され、地面にした。


女騎士は近くで見ると思ったよりも若いみたいだ。


前回の戦いで見たときは大人の女性のシルエットだったから、もっと年上だと思ったけど、ちょっと先輩くらいかもしれない。


「アロ!」


張飛ちょうひが助けに飛んできた。


普段はぶっきらぼうだけど、なんだかんだで優しい。


女騎士と互角に戦っているけど、魔力が枯渇こかつしていたので徐々に押されて最後には鳩尾みぞおちに金属鎧の蹴りが入り沈んだ。


一人で神官戦士達の相手をしていた関羽かんうに女騎士が向かうと、さすがに多勢たぜい無勢ぶぜいで関羽もやられてしまった。


半兵衛さんはそれを見て降伏こうふく


「た、退却、退却」


奴隷管理人がそう叫ぶと、奴隷達は我先にと逃げ出した。


奴隷管理人の逃げ足は目を見張るほど早かったよ……


「ハーヴェン殿! なぜこんなところに」


「オールソン殿!?」


ちょっとえらそうな小柄こがらで小太りなおじさんがこちらに向かってきた。


この人も神官戦士みたいだけど、半兵衛さんと知り合いなのかな?


「私の攻撃を受けて、意識があるのか?」


倒れている僕の前に、いきなり女騎士の顔が近づいてきた。


お人形さんのような綺麗きれいな顔立ちだけど、目が笑っていないので怖い。


それに、夜のコンビニにる怖いお兄さんみたいな雰囲気が出ている。


「ここでは話も出来ませんから、一旦いったん、森まで戻りましょう」




小太りおじさんの提案で、神官戦士にれられて森の中に入った。


その後、神官戦士達は規則正しく、食事と警戒けいかいに当たっている。


倒れた、関羽と張飛も先ほど目を覚ました。


「人間よ、答えよ。なぜ神気を発している?」


僕は首をかしげた。


女騎士から3度同じ質問をされているけど、神気なんて発している覚えはない。


「それは僕も神気魔法が使えるということでしょうか?」


「…… 人間よ、答えよ。なぜ神気を発している?」


堂々巡りだ……


「いや~ こんなところでハーヴェン殿にお会いできるとは光栄こうえいですな。亡命ぼうめいのときはお世話になりました」


「いえいえ、オールソン殿もご健勝けんしょうそうでなによりです」


小太りおじさんと半兵衛さんは知合いみたいだ。


仲が良さそうに世間話をしている。


半兵衛さんは敵軍の貴族だったって聞いたから、お偉いさんと顔見知りなのは当然なのかもしれない。


「――― 人間よ、答えよ。なぜ神気を発している?」


5回目の質問。何のことを言っているのかも分からないから答えようがない。


光の羽があったり、『人間よ』なんて意味の分からないことを言うってことは、この女騎士は女神様とかなのかな?


困っていると、女騎士が突然、全身の金属鎧を脱ぎ始めた。


ちょっと何してるの!?


体にピッタリの鎧下よろいしただけだから直視できない。


「答えないのならば、直接身体ちょくせつからだに聞く。獲物を持て」


重そうな両手剣を片手で持って、こちらに突き付けてきた。


さっきもボコボコにされたし、僕は戦いが好きな訳じゃないんだけど……


「関羽に張飛、お前達も不甲斐ふがいなかった。回復したらまとめて相手をしてやる」


あれ? 女騎士と会っているときに関羽と張飛って呼んでいないと思うんだけど、なぜ名前を知っているのだろう?


神様的に心が読めるとかかな?


「私は神ではない、天使のヴァルキリー。心は読めない」


いやいや、読めているよね?


「読めていない」


女騎士、いやヴァルキリーが上段から両手剣を振り下ろした。


何気ない動作だけど、ブォンという不気味な音が通り過ぎる。


関羽が引っ張ってくれなかったら、頭が割られてたんじゃないかな?


振り下ろした瞬間を張飛が槍で突くけど、下した両手剣が重力を無視して跳ね上がり、張飛の槍を弾いた。


今度は張飛のがら空きになったどうにヴァルキリーの両手剣が迫る。


ボキッ


ヴァルキリーの腕が折れた。骨が飛び出していて痛そうだ。


「オールソン殿、最近はどうしておられたのですか?」


貧乏暇びんぼうひまなしですな。聖女のお供として色々回った後、こちらの援軍に向かえと言われましたが…… あの城で籠城戦ろうじょうせんをすると馬鹿なことを言われましてな、困っておるところですわ」


「苦労されていますね。籠城戦しないように散々言ったのですが、ダメでしたか……」


腕が折れたのをチャンスと見た関羽が間髪かんぱつ入れずに槍を繰り出す。


ガッ!


急に現れた光の羽が関羽の槍を止めた。


関羽はすぐに飛び退き、代わりに張飛が槍を入れる。


張飛の槍を両手剣が防いだ。いつの間にか折れた腕が治っている。


「苦労されてますね。あの城で籠城戦になると兵士は大混乱でしょう」


「ハーヴェン殿もやはりそう思われますか、だから吾輩わがはいは東の砦を落としてさっさと帰ろうとしたのですよ」


「たった百人でですか? 普通は不可能だと思いますが…… きっといつものきまり文句を言われたのですね」


「ええ、『吾輩の辞書に不可能という文字はない!』、辺境伯補佐へんきょうはくほさ使つかいが不可能だと言うので思わず言ってしまいましたな」


ヴァルキリーの後ろに居たのに、張飛の攻撃を弾いたそのままの勢いで横なぎにされた。


槍のつかで刃は防いだけど、車にかれたような衝撃を受けて、遠くへ吹き飛ばされる。


関羽と張飛がすぐにフォローしてくれたけど、もう少しで追撃されてやられていたかも……


「まあ、もちろん勝機がないのにそんな無茶はしませんよ。実はここだけの話、聖女は本物の天使ですからな、近くにいれば神気がきることがないのですよ」


「天使ですか!? 確かに神気魔法が無限に使えるのでしたら勝機はありますね」


「吾輩と違ってハーヴェン殿でしたら、東の砦と言わず、全ての砦を落とせるでしょうな」


「いえいえ、中距離戦術はオールソン殿にはかないません」


誰か一人でもくずされると負けそうなので、僕も起き上がるとヴァルキリーの後ろに戻った。


今度は油断しないぞ!


三人で連携して攻撃していく。


攻撃は足手纏あしでまといだけど、攻撃を受ける一人としては役に立っていると思いたい。


「ただ、東の砦を落とせませんでしたから、辺境伯補佐の言う通りにしないといけませんな…… 城に入るか…… 籠城戦で負けるとなると逃げるにしても兵士と民間人が北門に大挙して大混乱でしょうから、行きたくはないですな」


「そうですね。損害なしで逃げるのは難しいでしょうし」


二人はお茶を飲みながらゆったりと話を続けている。


…… ええっと、半兵衛さんと僕達の温度差は何なの!?




◇◆◇◆◇◆


私はヴァルキリー、ウルド様につかえる天使です。


英雄達の魂を追って異世界に来ましたが、追ってどうすれば良いかは分かりません。


何もしないと怒られると思ったから来ただけです。


ジャンヌ ダルクの魂をすぐに見つけることができたのは幸運でした。


私達神族と相性が良いですからね。すぐに乗っ取り……


いえいえ、加護かごを与えることができました。


戦闘は楽しいです。戦乙女の血がさわぎます。


神官戦士達が私の神気を勝手に使うのは鬱陶うっとうしいですが、仲間のようなので仕方しかたがありません。


チームは大事にしなければいけませんからね。




東の砦を落とすというので、向かいました。


神官戦士長に抱き付かれたくないとのことで、金属鎧フルプレートを付けましたが、動きづらいです。


このまま、この砦を落とすのは簡単ですが、後ろからかすかに神気を発する者が近付いているので、非常に気になります。


神気を使う者ではなく発する者です。


最下級の天使か、神器を与えられた者か、私みたいに憑依ひょういしているのか……


気になるので、神官戦士長は放っておいて、見に行きます。


何か叫んでいますが、気にしなくても良いでしょう。




なぜ神気を発しているのか聞いているのに答えてくれません。


天使でも神器でも憑依でもないようです。


私は心は読めませんが、ウルド様の力を借りて過去は読めます。


あ~ まだるっこしいですね。


こぶしまじえたら、きっと分かります。


うん、そういうものです。


関羽と張飛の魂を持つ二人もヴァルハラの時よりも弱くて気に入りません。


三対一で丁度ちょうど良いでしょう。


掛かって来なさい。


『きゃ~ こんなところでなんで鎧を脱いでいるのよ!』


ジャンヌいえ、カトリーヌの声が聞こえます。


脱いだのは動くのに邪魔だからです。


『女性としてのつつしみを持ちなさい! これ、ほとんど下着姿だから!』


相変わらず五月蠅うるさいですね。ちゃんと質問には答えましたよ。


『――― う、腕が、腕が!』


ちょっと無理をして折れただけです。


騒がないでください。すぐにくっつきます。


この神気は…… 神様の卵でしたか…… 


何百年後か何千年後か分かりませんが、そのうち上司になる方です。


新入社員が入って来たと思ったら、社長の息子だった感じでしょうか?


遅いかもしれませんが丁寧ていねいに接しておいた方が良い気がします。


「あ、カトリーヌさん。彼と結婚しませんか? 同い年で将来は良い男になるのは確実ですよ。天使の保証付きです」


男神は色を好む傾向にあります。


女性を紹介するのが仲直りに丁度良い気がします。


『な、何を急に言い出すのよ! 私はまだ初恋も……』


初心うぶな感じですね。


満更まんざらでもなさそうですが。


ほぼ下着姿ですから、このまま誘惑ゆうわくすれば―――


「き、きゃ~」


あれ? 勝手にカトリーヌから抜け出てしまいました。


あ、ウルド様からの緊急招集きんきゅうしょうしゅうですね。


ちょっと嫌な予感がしますが、帰らないと。


カトリーヌ、ということで帰還きかんします。


パスはつないでおきますので、神気は自由に使って良いですよ。


私ってば太っ腹ですね。

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