第6話 超集中

小学校では集中力がない、もしくは注意力散漫ちゅういりょくさんまんとよく言われた。


心配した両親に病院に連れて行かれ、お医者さんからの色々な質問に答え、簡単な作業を何度も行うと軽度の発達障害と診断された。


そのときの両親の落胆らくたんぶりは今でも覚えている。


なので、集中力があればと何度も思った。


今までの僕だったらテントの建て方をすぐに覚えることも出来ないし、乾いた木を根気よく探すことも難しかったはず、でも……


――― それは不思議な感覚だった。


鞭で叩かれるのが怖いので、テントを建てるのを早く覚えなくてはとあせっていると、建てている人の動きがゆっくりになり細部までハッキリと見えるようになった。


逆に周りはまったく見えなくなる。


建て終わって我に返ると何故なぜか身体中が痛い。


よく見ると何度も鞭で叩かれていたようで、無数の蚯蚓腫みみずばれができて、所々で血がしたたっていた。


奴隷管理人が鞭を持って青褪あおざめていたので、恐らく鞭で散々叩いたにも関わらず無反応でテント作りを見ていたのだと思う。


テントの建て方はこの一回で完全に覚えた。


何だったら余らせるひもの長さを毎回同じにできるくらい完璧に再現可能だ。


穴掘りだって、乾いた木を集めるのだって、集中することで手早く完璧に作業を進めることができる。


自分の体重よりも重い荷物を持つのも、いつの間にかできるようになった。


以前は奴隷管理人から魔法を掛けてもらわないと持つことも出来ず、荷物を下ろした瞬間に死ぬんじゃないかと思うほど強い疲労感ひろうかんおそわれた。


今では魔法なしで背負うことができるし、ろした後もすぐに仕事に取り掛かれるくらいだ。


異世界に来てろくなことがないけど、これが僕の手に入れたチート能力なのかもしれない。


確かに望んでた能力だけど…… 境遇きょうぐうの悪化と見合ってない気がする。


お願い神様、元に戻して~~~




◇◆◇◆◇◆


はい、こちら神様のスクルドです。


ただいま、こちらも大変な目にあっているので、ご希望にはえません。


ていうか誰か助けて~~~


バシッ! バシッ!


手足をしばられて、じょうで叩かれるのですけど……


「痛い、痛いって、オーディン様これ何ですか??」


「うむ、平安中期の拷問ごうもん杖刑じょうけいと言うそうじゃ」


「何でそんなマニアックな拷問なんですか!!」


「ふむ、スクルドは源氏物語が好きなようなので、時代背景を合わせてみた」


うっ! もしかして源氏物語をヒントに婿むこゲット作戦がばれている!?


「源氏物語をヒントに婿ゲット作戦とな、馬鹿なことを考える」


しまった! オーディン様は心が読めるのだった。


ここは心を無にして……


「ウルドよ、手加減は無用のようじゃ」


「は~い、オーディン様」


ゴッ! ゴッ!


「痛! 痛い! こらウルド、そこ角! 叩く音おかしいから!」


「まぁ、スクルド、姉を呼び捨てなんて悲しいわ。ウルドお姉さまでしょ、お姉さま! 悪いことをしたら反省しないとね♪」


ウルドは私の一番上の姉で過去をつかさどる女神です。


神力は強いのですが何事も適当で奔放ほんぽうな性格が私には合わなくて、よく喧嘩けんかをしています。


「な~にがお姉さまよ! いい加減にしないと馬のことオーディン様に言うわよ!」


「こら! それは帽子の件と相殺でなかったことにしたでしょ」


「――― ふむ、非常に興味のある話をしておるな」


「「うっ!」」


オーディン様は最高神です。


偉くてすごい力を持っています。


何が言いたいかというと、怒らせるとらしちゃうほど怖いのです。


「オーディン様。そ、それよりも、スクルドが異世界に送った子に何をしたのか確かめないと―――」


うっ! それを聞かれるのも困る~~~ 彼が望んでいた集中力を祝福しゅくふく付きで与えたら人間の限界を超えた、超集中する能力になちゃったなんて―――


「――― スクルド……」


オーディン様がすごくあわれんだ目で私を見つめてきました。


あっ、そういえば心の声…… あ~ん、バカバカバカ


ことわりを破って、世界間の移転に、人知を超えた力。それだけでも重罪であるが……」


じゅ、重罪ですか!? か、神の試練を人間に与えるのは良いって聞いてたのに。


「試練の与え方に祝福の仕方、問題だらけじゃ」


「人知を超える力って、スクルドが祝福して与えたの? 毒や傷を受けても大丈夫な体に、強靭きょうじんな筋力と体力、それにあの集中力、あなたにそんな神力があるなんて知らなかったわ」


ウルドが感心したように言うけど、身に覚えが全然ない。


「え? 私にそんな力あるわけないじゃない。集中力だって未来には治る予定だったから、それを前借りしただけだし」


「あの回復力と力はどう考えても人間の出せるものじゃないわよ」


そう言われれば不自然だけど……


「神にいたる道を歩む子供…… 神になるならば何をつかさどるのか……」


オーディン様がブツブツ言いながら、思考にふけり始めました。


知識欲の強い方なのでこうなると長いのです。


これはチャンス! ウルドも同じ考えなのか二人で目を見合わせうなずきます。


あ、こら、私の縄を解いてくれないと逃げられない。


一人だけ逃げたって私がしゃべったらおしまいなんだから。


私達は運命共同体なのよ。


―――オーディン様の居城きょじょうを出る前に二人とも捕まりました。


「――― さて、では馬と帽子の話を聞こうじゃないか」


ウルドがオーディン様の愛馬のたてがみを勝手に薬剤として使っていたことと、私がオーディン様の帽子を魔界に落としたことがバレてしまいました。


私のは急いでひろいに行ったのでセーフのはずです。


なのでお怒りはウルドの方に、愛馬スレイプニールのたてがみ虎刈とらがり状態ですよ。


「鬣はすぐに生えてきます。帽子は魔界の瘴気しょうきが付いてしまったので簡単には直せません。お怒りはスクルドに」


ウルド!!!


結局、ウルドと二人で怒られました。


着替えが必要だったかどうかは神の尊厳そんげんに関わる問題なので報告できません。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る