第7話 黄緑団子

奴隷にも食事が出る。


食べないと死んでしまうので出てくれないと困る。


朝と夕方に大きな寸胴鍋ずんどうなべで皆の分を作るのだが、なぜか僕の役目になった。


作り方は簡単。


一つがピンポン玉ぐらいの巨大えんどう豆を皮ごとすりつぶす。


それをこぶし大に丸めて、水の入った寸胴鍋に投入する。


寸胴鍋を火にかけながら、パクチーのような香草を入れて、煮立ったら完成。


とっても簡単だ、僕にでもできる。


それを大きな葉っぱで作った器に2個づつ入れて、一列に並んだ奴隷達に配っていく。


全員に配り終わって、残った2個を食べようとしたら横から殴られて食べられてしまった。


この世界は弱肉強食。


油断していた自分が悪いと思えるくらいにはこの世界に慣れた。


日本にいたときのように甘い考えでいると何も手に入らない。


とりあえず、僕の食事を盗ったやつの顔は覚える。


食べ物のうらみは怖いと知らせてやる!


まぁ、恨んでも盗られた物は返ってこないので、森の中へ入って食べれそうなものを探す。


雑草って食べられたかな?


適当に千切って食べてみた。


苦い! とても食べられない……


何か食べられそうなものは――― キノコは毒が怖いし――― 虫はちょっと抵抗がある。


明日も食べられなければ選択肢に入りそうだけど……


茶色い液が流れている樹木があった。


樹液だったら美味しいかもしれない。


指で少しすくって舐めると濃厚なメイプルシロップの味がした。


大正解! 結構量も取れたのでその日は満足するまでメイプルシロップを楽しんだ。




次の日の夜も巨大えんどう豆を使った黄緑色きみどりいろの団子を作る。


これしかメニューはないのかな?


正規兵の方を見ると、黄緑団子きみだんごと豚汁のような肉と野菜のスープをもらっている。


黄緑団子は日本のお米のようなものかもしれない。


今日こそは食べてみたい。


樹液は美味しいけど腹持はらもちは良くない。


虫じゃないんだから人間らしい食事をしないと。


そう決意すると盗られないように、掬ったその手で素早く黄緑団子を口に入れる。


「うぐっ!」


一瞬意識が途切れた……


黄緑団子を口に入れた瞬間に広がる青臭さ、んだら皮の繊維質と果肉のドロッとした噛み応えが不快な食感を与え、苦味とえぐ味がダブルで襲ってくる。


それをこらえ無理やり飲み込むと、黄緑団子が吸ったドブのような匂いの水分が食道から上がってくる……


い、いくらお腹が空いてても、これは無理!!


あまりに気持ちが悪いので急いで森に行って樹液を飲む。


「生き返った……」


樹液の甘味でなんとか不快な匂いと味を抑え込んだ。


あんなに不味いものでも、吐き出さないくらいにえているのが悲しいところだ。


「これからどうしようかな……」


これは黄緑団子は食べずに森にあるもので飢えをしのいだほうが良いかもしれない。


とは言え樹液だけでは体がもたない。


ここは危険を冒してでも色々と食べてみる必要があるかもしれない。




黄緑団子を食べなくなって以来、色々な物を食べた。


初めて食べるものは少量にして色々と試す。


木の葉に木の実にキノコ、雑草類も手当たり次第。


出てきた蛇やカエルも火にかけて食べてみた。


雑草や木の葉は苦味があり、まったく食べられなかった。


しかし、意外にもキノコはだいたい食べられるようだった。


特に黒や黄のマーブル色をした毒々しいキノコが一番美味しかった。


木の実もだいたい美味しく食べることが出来る。


街で盗んでしまったリンゴを見つけたときは小躍こおどりした。


食るとやっぱり美味しい! これが一番かもしれない。


たくさんっているのに鳥に一つも食べられていなかったので、お腹がいっぱいになるまで食べることができた。


蛇やカエルは鶏肉みたいな味で腹持ちも良かったので見つけたときは率先そっせんして食べた。


この一週間ほどですっかり原始人のような食生活になったと思う。


僕は意外にたくましいのかもしれない。




◇◆◇◆◇◆


あ・た・しは泣く子も黙る奴隷管理人よ。


そこ、おねぇだったか、なんて言わない。


まあ、いいわ、今のあたしは機嫌きげんが良いから許してあげる。


なんと言っても戦争のおかげで私の大好きな獲物えものちゃんが沢山いるもの、機嫌も良くなるわ。


特にお気に入りが可愛い奴隷の男の子。


「ほら、早く強化魔法を使いなさい」


優しく言っても言葉が通じていないのが唯一のマイナス点。


これじゃ言葉攻めはできないわね。


まぁ、あたしが『生命力捕縛キャプチャー ライフ』の魔法で生命力を奪って、力に変換してしまったのにお礼をしちゃうなんて――― とっても良い子だわ。


褒美ほうびにいっぱいむちを振るってあげないと。


おびえた顔が最高なの、ゾクゾクしちゃう!


それにしても、この子魔法が使えないのかしら?


普通は10歳くらいの子でも初級魔法は使えるものなんだけど……


防御魔法もかけずに私の鞭を食らったら大抵たいていは気を失うんだけど、この子はどうなっているのかしら。


始めの数日は要領ようりょうが悪いから愛の鞭をあげていたけど、今ではとっても優秀。


小さい体なのにすごく体力と筋肉がついてきて、ちょっとやばいわ。


割と好みの子に育ってるじゃないの。


上手く育てれば、もしかすると大化けするかも。


あたしもこの仕事に就いて10年、奴隷を見る目は確かよ。


鞭で弱らせてしまうのはもったいないわ。


最近は痛そうな顔すらしないから面白くもないし。




……な、なにこの子…… 最近、炊き出しが終わってから居なくなると思ったら。


その木は「人食い樹」、毒の樹液で獣を誘って養分にするのよ……


手に持ってるキノコはほとんど毒キノコじゃない。


特にその黒と黄色のキノコは「魔王殺し」、強い幻覚と麻痺を起こして一生起き上がれなくなるわ。


毒ヘビと毒カエルまで食べるの!?


その毒リンゴは鳥でも警戒して食べないのよ! そんなにムシャムシャ食べないで~


ダメ、この子はあたしの想像以上よ。


あんなに毒性の強い物を食べて平気なんて、もし怒って噛みつかれでもしたら猛毒であたしが死んじゃうんじゃないかしら……


ブルブル、考えただけでも怖いわ。


あの子にはあまり近寄らないほうが良いみたいね……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る