第10話 魔物殺しと報奨

リンゴを食べたおおかみはなぜか動かなくなった。


犬にチョコレートをあげてはダメなのと同じなのかな?


ちょっと効果があり過ぎな気がするけど……


まぁ、張飛ちょうひを助けることができたのなら何でも良いや。


それにしても、血が止まらないな……


張飛にかかえられながらぼんやりと考える。


「アロしっかりしろ!」


魔法使い風の人がなにやら魔法と唱えて杖を振り下ろすと、白い湯気ゆげが僕の体を通り抜ける。


もしかして、回復魔法? これで助かるかもと期待したけど血は止まらない。


集まっている兵士や奴隷が絶望的な顔をしているから死んじゃうのかな?


ああ、なんか寒くなってきた。


「熱!!」


関羽かんうが真っ赤に熱したスコップを持ってきて傷口に押し当てた。


肉の焼けるジュージューという音と良いにおいが立ち込める。


僕を助けるためなんだろうけど、ひどいよ関羽―――




次の日の明け方、奴隷管理人に無理やり起こされた。


関羽に傷口を力ずくでふさがれたショックで意識を無くしていたようだ。


傷口はひどく痛むし、熱も出ているのか意識がフワフワする。


「tatyuo」


これは「立て」だったかな?


立とうとしたけど足に力が入らない。


倒れると思った瞬間、関羽と張飛が両側から支えてくれた。


「ありがとう」


本当に有難ありがたい。


関羽と張飛と出会っていなかったら、とっくに死んでたんじゃないかな?


ちょっと、らえられたエイリアンのように運ばれているのは気になるけど……


管理人に連れられてテントの中に入った。


あ、これ、いつも僕が運んでるテントだ。


中に入ると強そうな全身鎧ぜんしんよろい騎士きし6人が両脇りょうわきにならんでいる。


真ん中に豪華ごうかな机があって、少し神経質しんけいしつそうなおじさんが座っている。


「thobo stiro」


ええっと、進めって意味だったかな? 


フラフラするから、かなり力をめないと進めない。


必死に進むと奴隷紋の効果で頭が痛くなってきた。


あれ? もしかして進めって意味じゃなかった?


振り返ると関羽と張飛は片膝かたひざを地面に付けている。


あわてて同じようにひざまずく。


一人だけ前に出るような恰好かっこうになっちゃった。


神経質そうなおじさんが引きった顔をしているけど、すぐに下を向いて見ないことにする。


「bei obka ldlaep? jjfoek. fkakof, klete mklste tyoerokee saleiro haiy bromoro mi doroyra」


長文を早口で言われると何を言っているのかさっぱりわからないよ。


「saa, sogi hie na buroo cano doroyra」


だまっていると奴隷管理人が口を挟んだ。


助け船だと良いんだけど…… あれ? おじさんが絶望したような顔をしてる。


「hwat obka ldlaep wi na buroo ―――」


ひゃ~ なんかにらまれているんだけど―――


とりあえず、愛想笑あいそわらいいをしておく。


傷が痛くて上手く笑えてるか解らないけど………


「っ!」


着ているボロ布に血が広がった、無理したから傷口が開いたかな?


そういえば施設しせつに入っている戦争帰りのひいおじいさんが、傷口を焼いて止血をすると、焼いたところの細胞が壊死えしして、くさってひどい匂いになる。


そこにはえが卵を産むと蛆虫うじむしが湧いて… って怖い話をしていたような……


まさか湧いてないよね!?


ビリッ 「あ!」


慌ててボロ布を引っ張ったらやぶれた。


左肩から腹の上くらいまでの大きな傷とそれを焼いたスコップ型の火傷痕やけどあと、深く爪が刺さった肩口から血がしたたり落ちているだけで蛆虫は大丈夫みたい。


ゴクリとつばをのむ音がしたので顔を上げると、みんなが僕を見ていた。


上半身がほぼ裸なので恥ずかしい。


「…… ku saleiro haiy bromoro mi doroyra en re gorogo ryoko」


僕を見て神経質そうなおじさんがあきらめたような声を出すと、奴隷管理人が鼻息荒はないきあらくじりじりと近づいてくる。


そ、その熱せられたさじで何するつもり!?


ジュッ、「熱!!」


こんなのばっかり―――




◇◆◇◆◇◆


私は男爵だんしゃくである。


一応貴族だが最下級なので便利使べんりづかいされる立場にある。


まさか私が予備戦力の責任者にさせられるとは……


子爵様の命令だから断れない、でもやりたくない……


好戦的な国王の下、侵略戦争しんりゃくせんそうが続いているので仕方ないが出来れば精鋭せいえいの多い本体の後方任務が良かった。


こんな老兵士と奴隷の寄せ集めじゃ、いざという時に私の身が守れない。


ただ、騎士爵きししゃくの6名が監視かんし――― いや、私に従軍じゅうぐんしているから逃げる訳にもいかん。


――― いかんと思っていたが、これは逃げても良いだろう。


魔物まものが出た、それもブラッディウルフだ。


そう、あのブラッディウルフ! 精鋭の騎士100人がやられたこともある相手だ。


世界トップクラスなら一人で討伐とうばつできるらしい。


騎士諸君、自信があるならば戦う栄誉えいよさずけよう。


あ、はい、くだらないこと言ってないで早く逃げよう。




山を一つ分逃げた先で伝令魔法が届いた。


何も言わずに6人の騎士と逃げ…… 転進したため伝令兵も困ったことだろう。


全滅はまぬれたのか? え? 倒した!? ブラッディウルフだぞ??


どちらにおられるのか? って、いやその…… ええっと…… そ、それよりも討伐したのは誰だ? うちにそんな強者がいたか? ドワーフ達…… そうか、あの悪名高い北集落のドワーフか…… よし、疲れているだろうから日が昇ったら天幕てんまくに連れて来い。


ああ、お前も疲れているだろうから休め!


ふぅ、なんとか誤魔化ごまかせたか。


しかし、運が向いて来たではないかブラッディウルフを倒せる猛者もさがいたか、それも奴隷ならば手柄を譲渡じょうとさせることが出来る。


魔力を辿たどれば誰が討伐したか分かるが、実は抜け穴がある。


相手の同意が必要だが、ある魔法で魔力の移動をさせてやれば討伐記録を譲渡じょうとすることができる。


これは貴族だけが知る秘密だ。


この魔法で子爵ししゃくも戦績を誤魔化ごまかして出世したと噂されている。


ブラッディウルフ殺しの男爵! 最高にはくが付く。




ええっと、ドワーフが二人となんだこの子供は? え? ブラッディウルフを倒したのはこの子!?


「そこにひかえなさい」


奴隷管理人がひざまずくように言っても、フラフラと進み出て跪く気配がない。


もしかして私達が怖がって逃げたのを知っているのか? ブラッディウルフを倒すほどの者なら子供に見えても只者ただものではないのかもしれない。


何か鬼気迫ききせまる迫力まである。


わ、私達を見下しておるのか!?


「お前がブラッディウルフを倒したのか? 信じられんな。まあいい、奴隷紋を1つ消してやるからさっさと討伐履歴を俺に渡せ」


められる訳にはいかん、強気でいかねば。


「男爵、申し訳ありませんがこいつは袋なしです。譲渡はできません」


な! なんだと~ 魔力袋は心臓の横にある大事な臓器だ、これがないと魔法は使えないどころか回復魔法などの支援魔法を受け入れることもできない。


ごくたまに魔力袋を持たずに生まれる子がいると聞いたことがあるが、簡単な火を起こすことも身体強化魔法も使えないので役立たず、ましてや……


「なぜ、袋なしが、ブラッディウルフを倒せるのだ?」


袋なしの子供がニヤリと笑うと服の前をはだけた。


「うっ!」


肩口から腹の上までに真っ直ぐに伸びるブラッディウルフの爪痕つめあと、そこに回復魔法が効かなかったから付けたであろう傷口を焼いた痕。


今も血がにじんでいるその姿は歴戦れきせんの戦士のすごみが出ている。


あまりの迫力に圧倒されゴクリとのどがなった、こいつはヤバい。


袋なしの子供が顔を上げたので慌てて目をらした。


「……奴隷紋を2つ消してやれ、後、ちゃんとした武器の使用を許す」


う、うん、討伐記録の譲渡は諦めた。


奴隷紋を10箇所焼き消せば解放になるが、今までに達成した者を見たことはない。


ただ、なんとなく、なんとなくだがこの子は達成する予感がした。


それならば多少のおんを売っておくのも良いかもしれない……


奴隷紋を2つ消したのも、武器を許可したのもこの子が怖かったからじゃないぞ!


だから騎士諸君そんな目で見るな、君らも圧倒されていたのは知っている。


そう我々は運命共同体だ!

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