第5話
「ただいま、帰りました」
「おかえりにゃ……って、なに抱えてるにゃ?」
家につくと、猫ちゃんがお出迎えしてくれました。拾ってあげてからというもの、毎日かかさず、見送りと出迎えをしてくれます。
ここに、主従関係が確立されました。
「今、にゃーの立場が悪くなった気がするにゃ」
「気のせいでしょう。それより、お客さんですからね、大人しくしていてください」
「にゃ、お友達かにゃ? どこにもいないにゃ!」
「違いますよ。というか、人を家にあげたくありません。この子ですよ」
と、わたしの胸で大人しくしているカラスさんを見せます。一応、ぬれていたのでタオルにくるんであげていました。
カラスさんも視界が開けたようで、猫ちゃんと目が合います。
「……」
「……」
両者にらみ合いが始まります。
「ぎにゃぁーー!!」
猫ちゃん牙をむき、しっぽが逆立っています。
「カーー!!」
カラスさん翼を広げ、威嚇しています。
猫とカラスは仲が悪いって言いますけど、本当だったんですね。連れて帰ってきた甲斐があります。面白いですねぇ。
見てる分には。
「て、てめぇ、まさか、猫のエサにするためにさらったのか! のぞむところだ! カカってこいやぁ!」
「にゃん。カラスなんて、美味しくないにゃ! そうだにゃ、狩るくらいしか、楽しみがないにゃ!」
おっと、一触即発ですかね。
「ちょっと、わたしの家でそんな血生臭いこと繰り広げるようなら追い出しますからね?」
さすがに、そんな光景を直に見たくありません。
「なんで、こんなの家にいれるにゃ!?」
猫ちゃんが食ってかかります。
「え? だって面白いでしょう?」
「迷惑な話だにゃ!」
「まったくだ!」
にひきが、憤りをあらわにします。
なんだ、気が合うじゃないですか。
「まぁまぁ、落ち着いてくださいよ。それより、カラスさん、手当てしてあげる約束でしたからね。パパッと終わらせちゃいますよ。わたし、お風呂はいりたいんで」
「とことん、自分の都合しか考えねぇやつだな……」
なんだか、最近の畜生はいちいち、小言が多いですね、と動物社会の情事を憂いながらカラスさんの面倒を見てあげます。
「ふぅ、こんなもんですかね。あまり、不慣れで自信ないんですけど。どうです? 痛くないですか?」
羽をケガしていたので包帯をまいてあげました。
ぐるぐるとまいただけのお手軽さ。
「あぁ、しめつけられてる感じが強すぎる気もするが……。礼は言っとく、ありがとよ」
「いえいえ、まあ、カラスの恩返しに期待ですね」
「勝手に連れ去ったくせに、よくもまあ……」
「でも、カラスの恩ってあんまり、いい見返りなさそうですよね。ヒカリモノ貰っても嬉しくなんかありませんし」
カラスが光るものを好むのって有名ですし、くれるとしたらビー玉とかせいぜい五百円玉くらいでしょう。……いや、五百円玉は普通に嬉しいですね。
「カッ、おれは嫌いだね。あんなので着飾っても仕方がねぇ。この黒い魂がおれの胸をたぎらせる限りカラスとしての信念、誇り、生き様を保つことができるのさ!!」
つまり、習性というか本能に逆らってるだけですよね、それ。
「そうですか、すごいですねー。じゃあ、わたし、お風呂行ってきますね?」
「少しは興味もてよ!! あれ、置いていくのか!? この猫野郎と同じ空間に!? 飛べないんだぞ、おれ! やられる、やられるぞ、これ!?」
「ニャッハッハー、地に堕ちた鳥風情など、この双爪にかかれば狗尾草を扱うよりも容易いにゃ!!」
「く、くそぉ、負けてたまるかー!!」
また喧嘩ですか。
わたしとしては、猫ちゃんのキャラがどこへむかうのか心配です。
ちなみに、狗尾草は猫じゃらしのことですね。前々から思ってたんですけど、どこからこんな知識を得てくるんでしょうね。
「さっきも言いましたけど、ほどほどにしてくださいよ? 家のなか散らかしたりしたら怒りますからね?」
「ニャー!!」
「カー!!」
まるで聞いていませんね。
もう、放っておきましょうか。忠告はしておいたんですし、流血沙汰にはならないでしょう。では、いざ入浴。お風呂場へ直行します。
え? カラスさんはいれてあげないのかって? それはちょっと……。猫ちゃんならまだしも、鳥類と入浴は抵抗を感じます。
いるんですかね? そんな人。いたら、いたでかまいませんけど。
なので、カラスさんには手当ての後、新聞紙とタオルケットで用意した簡易寝床で休んでもらってます。本人いわくまだ当分飛べないらしいので。
リビングから騒がしい声が聞こえてきます。悲鳴でしょうか。わたしは助けませんからね。カラスさんも身の危険くらいは自分で守っていただかないとね?
ま、苦労してくださいな、カラスだけに。
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