第4話

「失礼しました...」


 一礼、そして、あいさつ。

 か細い声だったと思います。

 この際、伝わったかどうかは気にしません。


 ピシャッと無作法にドアを閉め、ろうかへ。

 職員室からの帰還です。

 

 なんの用かというと、今日は日直だったので、ちょっとした雑務を押し付けられていたわたし。やっと、仕事をやり終えたので報告のために、職員室に訪れていました。日直は原則としてふたりいるんですが、はい、文字通り押し付けられました。


 報告終了、責務全う、帰りましょう、とはいきませんでした。


 わたしの担任は話がとにかく長いことで有名で、昔の自分の武勇伝だか、自慢話を延々と垂れ流してくる音害です。運の悪いことに、今日はなにかいいことでもあったんですかね? 聞いてもいないのに、嬉々として語りだしましたよ。

 それから、興味もない話を聞かせれて、合間に相槌を打っていただけのわたし。

 それだけで疲労困憊です。猫ちゃんの気持ちがほんのちょっぴりわかります。


「ふぅ、苦手です。あの教師」


 まず、教師との距離感がつかめません。

 親でもないし、友達でもない。

 他人、とも一概に言えません。

 なんなんですかね? あの人たち。

 よく、みなさん、悩みとか相談できますよね。あんまり、個人的なこととか教えたくないんですけど。教えるほどの信用を得ていないし、信頼も築けていないというのに。


 薄暗く静まりかえったろうかに、ひとり、そんなことを考えています。

 ただただ、暗いやつでした。


 黙って突っ立っていると、運動部でしょうか。渡り廊下の辺りから、かけ声がかすかに、聞こえてきます。


「あぁ、今日グラウンド使えませんでしたね」


 今日は待望の雨の日です。

 運動部のみなさんにとっては、生憎ですかね。さりとて、お疲れさまです、どうぞ、ごゆっくり、青春していてくださいな。



 憂鬱だった気分から一転して、雨のなかへとびだすようにして帰宅路につきます。


 そして、校門を出てすぐのことです。


 おやおや?


 道のど真ん中にポンとなにか落ちてますね。ともすれば、ゴミのように見える黒いかたまり、それなりに大きいです。うごめいているということは、生きてるんですかね。


 ゴミと黒いで連想されるのってなんだと思います? あ、ゴキブリじゃないですよ?


 そっと、近づいてみます。

 こちらにはまだ気づいていないよう。


「カカッ……、俺としたことが、なんて様だ……」


 そんなことを言っています。観察してみると、どうやら、ケガをしているようですね。


「そんなとこにいたら、駆除されちゃいますよ? あなたたち、町内で迷惑がられてますし」


 後ろから声をかけてみます。


「カッ!? ビックリさせんな! てか、カラスに話しかけてんじゃねぇよ!?」


 ピンポーン。やっぱりカラスでした。


「ケガしてるんでしよう? 軽い手当てならしてあげられますけど?」


「ふん。人間の助けなんざ借りたら、カラスの名がなくってもんよ」


「さっき、ないてたでしょうに」


「いや、そういう意味じゃ……」


「とりあえず、持って帰りますね?」


「カー……」


 力なく泣く泣く鳴くカラスさん。

 うーん、言いにくいですね。


 とりあえず面白くなりそうなので、家に連れて帰ってあげましょう。



 





 

 







 

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