第3話

 ひとりの生活は楽な反面、面倒なことも多々あります。基本、面倒くさがりなわたしです。けれども、独り暮らしをはじめるにあたって、そこには目をつぶらなければいけませんでした。掃除、洗濯、料理と家事に追いやられます。主婦の皆さん大変ですね。やることがたくさんあります。


 はぁ、家政婦でも雇いたいくらいです。さぞかし、楽なんでしょうねぇ。


 ですが、愚痴っても仕方ありません。両親と約束した一つに、家事をきちんとこなすこと、まぁ、当たり前なんですけど。


 それにしたがって、自炊してるわけなんですがーー、


「猫ちゃんのご飯どうしましょうか。さすがに今日くらいは面倒見てあげますよ?」


 わたしの分を作るのは早いですけどね。今日は居候の分もなんとかしてあげないといけません。


「にゃー……、市販のキャットフードでいいんだけどにゃー」


「猫の口から市販とかあんまり聞きたくないですねぇ」


 馴染んでますよね、人間の世界に。

 大半の猫がそうなんですかね?

 なにぶん、しゃべる猫は初めてなもんでして。


「じゃあ、もう適当に作りますね?」 


「ヨロシクたのむにゃー」


 冷蔵庫を開けます。

 ううん、食材、なにかありましたっけ?

 そろそろ買い出しにいかないと行けませんね。

 あ、サーモンの切り身少し残ってますね。……いつのでしょう? 使っちゃいますか、もったいないし。


 そして、しばらくしてーー、


「はい、サーモンのチーズリゾットです」


 小さめのお皿にいれて床に置いてあげます。我ながら美味しそうにできあがりました。


「意外と凝ったのが出てきたにゃ」


「これでも自炊をはじめて結構長いですし」


 ちなみに、わたしはオムライス。チーズを使いきりました。それと、サーモンには手をだしませんでした。


「「いただきます(にゃ)」」


 礼儀は正しい猫ちゃんです。


「でも、独り暮らしにゃんて反対されにゃかったのかにゃ?」


 唐突ですね。

 それと、食べながら話さないでほしいです。残念ながら、マナーはなっていませんでした。


「まぁ、心配はされましたかね。子供をひとり置いていくのに抵抗があったんでしょう」


「当たり前にゃ……」


「わたし、それまであんまり家の手伝いとかしてこなかったですし、そこも、不安の種だったんでしょう」


「とことんダメにゃ」


「家事をきちんとこなすと言っても、渋るんですよね、あの人たち。無駄遣いもひかえるとか、かなりの条件を提示したんですよ?」


「いったい、君いくつにゃ? 子供がプレゼントねだってる場面みたいにゃ」


「ですが、ここでくじけてはいけないと、わたしは反撃の一手を繰り出しました。そう、仕事とわたしどっちを取るの、と」


「チョイスミス!」


「そうしたら、諦めてくれました。お母さんも、お父さんに溺愛でしたし、必然とついていきましたよ」


「そこで諦めるのかにゃ……、変わった家族だにゃあ……」


 わたしもそう思いますよ。けど、愛されてないわけじゃありません、お父さんは仕事に一途、お母さんはお父さんに一途、わたしはわたしに一途なだけなんです。


「わたしは、できるだけひとりでいたいんですよ。孤独が好き、というわけじゃないですけど」


「にゃぁー……」


 世を儚むように鳴く猫ちゃん。


「学校とかそんなのでやっていけてるのかにゃ……?」


「学校では普通にしてますよ。浮かない程度には。ただ、人と関わるのが苦手です。聞きたくもない下らない話聞いたり、愛想笑い浮かべたりするのって、案外疲れるんですよねぇ。しかも、グループの暗黙の了解って言うんですかね? 変な態度をとろうものなら、裏でなにをされるかわかったものじゃありません。だから、友達はちゃんと選んだ方がいいんですよ。ぽこぽこと、増やしても仕方ないんですよ。知ってます? 友達が増えるにつれて敵も増えるんですよ?」


 と、そこまで言い終えてーー、


「闇が深いにゃ!!」


 言われちゃいました。猫ちゃんに人間の闇をつっこまれてしまいました。


「やっぱり、人間は恐ろしいこと考えてるにゃー……」


「こんなの、ほんの一端にしかすぎませんよ? わたしをなめないでください」


「そんなこと堂々と言わないでほしいにゃ」


 わたしの思い猫ちゃんには伝わりませんかね。


「ひとりでいたいくせに、にゃーを連れてきたのは?」


「あくまで、苦手なのは人間だけですし、それに、猫ちゃんなら、なにを話しても問題ありませんからね」


「言われる方の身にもなってほしいにゃ……」


 住みかを貸してあげてる代償とでも思っていただきたいです。


「でも、猫ちゃんは人生楽そうですよね? いや、猫生ですかね? ひなたで寝てるイメージしかありませんし」


「そんなことないにゃ! いろいろやってるにゃ!」


「例えばなんです?」


「ターゲットからいかにして、ぶつを盗めるかにゃ……」


「魚屋でハンティングですか?」


「なぜわかったにゃ!?」


 そりゃあ、ねぇ? 定番でしょうし。


「最近昆布にはまってるにゃ」


「なぜ、そこで昆布?」


 くわえにくいから、チャレンジャー精神くすぶられるにゃ、と猫ちゃんは語ります。

 平和ですね、ほんとに。


「じゃあ、今度煮干しも一緒にもらってきてください。いい出汁が取れそうですし」


 会話も一区切りしたところでーー、


「ごちそうさまにゃ……」


 あら? ずいぶんとやつれてますね。


「大丈夫ですか?」


「にゃー……、さっきの重たい話のせいか、胃が重いにゃー、というか、胃が痛いにゃ……」


 あらら。やっぱり痛んでましたかね。

 悪いことしちゃいましたね。

 熱したらいけると思ったんですが。


「トイレですけど、外でしてくださいね?」


「雨まだ降ってるにゃ!?」


 知りませんってば。どこか探してください。


「とんでもない所に拾われてしまったにゃ……」


 ぶつくさと文句を言いながら、ベランダから出ていく猫ちゃん。

 というか、さっきから語尾にしか「にゃ」をつけなくなりましたね。聞き取りにくかったんでいいですけど。


「さて、ごちそうさまです、と。片付けますかね」


 食べ終わった食器を片付けに立ち上がります。自分で作って自分で洗う。独り暮らしの弊害ですよ、ほんと。


「あ、そうだ、明日の天気予報……」


 テレビでも見ながら、洗い物をすませますか。と、なけなしのやる気をふるいます。


「明日、五月十二日の天気予報です。各地雨雲もなく晴れるでしょう。気温もーー」


 お天気アナが笑顔でお伝えしています。

 なにが楽しいんですかね。

 いえ、仕事なんでしょうけど。


「はぁ、晴れですか、憂鬱ですねぇ」






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