第2話

 家です。はい、帰ってきました。


「ふにゃあ、意外と中々広い家にゃね」


 はい、連れて帰ってきました。決して、可哀想とかじゃないです。楽しそうでしょ?


 今は、玄関に待機してもらってます。

 あんなに雨に打たれていたずぶ濡れの猫、家にあげたくありません。


「そうですか? 普通によくあるマンションですけどね」


 平凡なマンションの一角、狭くはないですけど、まぁ、猫目線だと、広いんですかね?


「んにゃ、広いと思うにゃー。前に住んでたボロアパートにゃんて……うぅ、思い出しただけで……」


「それは、大変でしたねぇ。あ、とりあえず、お風呂入ってくれません? 汚いんで」


「……もう少し思い出に浸らせてほしいにゃ」


 知ったこっちゃありません。



 場面は一転してーー、


「猫は基本的にお風呂が嫌いって聞きますけど」


「にゃーは、きれい好きにゃのにゃー」


 にゃー、にゃー、と聞き取りにくいです。


 はい、お風呂にいれてあげています。

 ついでに、わたしもはいります。少し濡れちゃったんで。


「にゃぁー……、生き返るにゃー……」


 猫ちゃん、湯船に浸かりながら、まったりしています。

 わたしが、支えてあげてるんですけどね。手を離したい衝動にかられます。


「猫ちゃんは、捨て猫なんですか?」


「そうにゃ、さっきも言ったけど、ボロいアパートに住んでたにゃ! あんなの、屋根があるだけの家にゃ! よく人間が住めたもんだにゃ!」


 前の飼い主さんも、酷い言われようです。


「なんで、捨てられたんですか?」


「にゃんだったかな。誰かに追われてる風だったにゃ……。家にもいっぱい来たにゃ。そんなことが続いた日にゃ、飼い主さんが、ーー俺にはお前を幸せにはできない、金持ちにでも拾ってもらいな。って」


 なるほど、世の中苦労人が絶えません。


「猫ちゃんも苦労したんですねぇ」


「そうにゃ! でも、これでやっと住居確保にゃ!」


 おや?


「誰も飼うなんて言ってませんよ?」


「にゃんですと!?」


 図々しい猫ちゃんですね。


「わたしが、わたしのために連れ帰ったにすぎませんからね。お風呂を貸してあげただけ感謝してほしいものです」


「見て見ぬふりして通りすぎる人間より、たちが悪いにゃ」


 猫の癖に生意気ですねぇ


「そうにゃー……、こういう場面はあれにゃ。お母さんが出てきて、元の場所に戻してきなさいって、言う場面だしにゃー……」


「親なら滅多に帰ってきませんよ? 

今じゃ、実質独り暮らしみたいなもんです」


「にゃにゃ? 複雑な家庭? 聞いちゃダメにゃやつ?」


 さっきから、人間臭い猫ですね。そんな心配より、自分の心配しなさいな。


「違いますよ。両親ともに単身赴任……違いますね、両親赴任のようなものです」


「聞いたことない単語にゃ」


「というわけで、ひとりの時間をエンジョイしてるわけです」


「なら、飼ってくれてもいいにゃ!」


 しつこい猫ちゃんです。


「そうですね、家にいてもいいですけど、餌くらいは、自分でなんとかしてください。ベランダ開けておきますし」


「冷たいにゃぁ……。そんにゃので友達いるのかにゃ?」


「いるように見えます?」


「いにゃさそうにゃ」


 言っておいてなんですけど、失礼な猫ちゃんです。


「まぁ、いないわけじゃありません。多くはないですけどね」


「ニャフッ…、物好きな友達もいたもんだにゃ」


「捨てちゃいますよ?」


 そんな吐き捨てるような言い方で、小馬鹿にした態度をとる猫ちゃんに多少の苛立ちを見せるとーー、


「そろそろお風呂から上がりたいにゃ」


 脅しが効いたんでしょうか。手から離れて湯船を飛び出します。

 長湯してしまったのか、湯中りしそうです。では、そろそろ出ましょうかね。







 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る