雨のち雨

アイランド

第1話

 雨が、ぽつぽつと寂しげな音をたてて傘を打つ。雨は好きです。ひとりの世界に浸ることができるから。終わってしまった世界にわたしだけ、取り残された気分を味わえます。

 普段からこんな暗いことを考えてる訳じゃありません。それなりな、人間を演じてはいるんですけれど。かえって、気が滅入ります。

 だから、雨が降る日は、ひとりで、帰宅するようにしています。なぜなら、普段、見ることができない日常がそこにはあるから。

 

 学校からの帰り道。わたし以外に帰宅につく生徒はいません。それは、そうでしょう。

わざわざ、図書館で時間を潰してまで、ひとりで残っているんですから。

 部活にも委員会にも入っていない身としては、こんな時間まで残ることなんて滅多にありません。ちなみに、今日は部活はないようです。あっても、なくても、時間が被るようなうっかりミスはしませんけどね。


 だから、今もひとりでいるわけです。


「ふぅ……。落ち着きますねぇ」


 一つ、息を落とします。


「どしゃ降りでもない、ちょうどいい塩梅の雨。ベストコンディションです。フフフ……」


 はたから、見れば、ひとりでぶつくさ、言ってる怪しい子ですね。

 とても、他人には見せられません。誰もいないことは確認済ですからね。


 さてさて、そろそろ出会う頃合いでしょうか……。


「……にゃあ」


 雨音に紛れて微かに小さな声が聞こえてきます。


 ーー猫でしょうか?


 もう少し進んでみます。


「どこでーすかー。猫ちゃーん」


「にゃあ!」


 今度ははっきりと聞こえます。しかも、割りと近くから。


「おっと、そこですか」


 電柱の影に隠れていました。

 危ない、見落としてしまうところでした。

 お決まりなんでしょう。今時、段ボール箱のなかにうずくまっています。アメショかな? 白と黒のまだら模様です。


「にゃぁ……」


 こちらを見上げてきます。寒そうです。


「そういうときは、律儀に箱の中で待っていても仕方ありませんよ? あ、傘は貸せませんからね? わたしが濡れてしまいますから」


 なに、猫に話しかけてんだ、と思うかもしれません。でも、大丈夫です。彼らにはきちんと伝わるのですから。


「うるさいにゃ! こうしてた方が同情を買えるんだにゃ! あと、傘くらい置いてけにゃ!?」


 ほうら、伝わった。

 あ、猫語を日本語に翻訳したわけじゃないですよ? わたしにも、きちんと聞こえてますからね?


 さて、ここから、わたしの、お楽しみの時間です。


 そう、これは、雨の日にだけ起こる不思議な話。




 





 

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