目覚め始める力

手をつなぎ、街中を歩く。

彼の暖かい手が、私に温もりを与えてくれる。




私、辰巳 夏菜子は、17才にして

25才の博貴さんと付き合い始めた。


和信君と和愛ちゃんがいなくなってしまってから、

空っぽだった私を

食事に誘ってくれたのがきっかけだった。



とても明るくて、

優しい人。

彼がいなかったら、私は本当にだめだったかもしれない。





研究室には毎日通った。

最後の授業が終わると、博貴さんが迎えに来てくれた。


あの鳥居から感じるよくわからない感覚は日に日に増す。

それは研究室へ入っても感じるようにまでなった。



「公園で何があったのかわからないが、

やっぱり別の空間に飛ばされたので

間違いはなさそうだな。」



晶さんが言った。



「だったらもう探しようがないわね、、、。」


恵さんが肩を落として言う。

研究はもはや頭打ちの状態だった。





私は思わず声をあげた。


「あの鳥居のことって、どなたかご存じなのですか?」


ずっと気になっていた。



「いや。俺達は何も知らないよ。

ただ、人によっては何かを感じるようではあるね。

和愛ちゃんも時々立ち止まってはあの鳥居を見ていたからね。

夏菜子も何か感じるのか?」


博貴さんが答える。


「わからないけど、、、

なんかこう、そこに何かがいるような、

そんな感じがするんです。」



研究室内が少しざわついた。


和愛ちゃんも、鳥居から何かを感じていたんだ。

じゃあ私にも、和愛ちゃんのように、

魂生命体とお話したりできるのかな、、、。

もしそれができるなら、異空間に飛ぶことだって

できるかもしれない。






研究の会議が終わり、個々で家路を急ぐ。


私は再び鳥居の前に立った。

身体が浮いてるような

よくわからない感覚がする。



少しずつ鳥居へ近づき、

そっと手で鳥居へ触れるー。



後ろで博貴さんが私を待っていた。

早く行かなくちゃ。

そう思うのに、鳥居に置いた手を、離すことができない。


なんだろう。


すごく、心地よい。

どこかに吸い込まれていくようなー。

私をそっと目を閉じた。



ーーーー。



後ろで今度は博貴さんが叫んでいる。

博貴さん、何を言ってるの?


だんだん意識が遠退いていく。



目を少し開けると、自分が何かに包まれているような感覚がした。

誰なの?

誰が私を包んでいるのーーー?

私はそこで記憶が途切れた。







あれ?ここはどこ?


気がついたら、病院で横になっていた。

白い天井についた照明が、妙に眩しい。

何か、長い、長い夢を見ていたような気がする。


博貴さんがベッドの横で心配そうに

私を見つめていた。



「博貴さん、、、。」



彼の手をぎゅっと握った。

博貴さんは私の頬にキスをしてくれた。



「お前が鳥居に触れたとき、

俺は目を疑ったよ。」



博貴さんが話し始めた。



「ばかでかい鳥が見えたんだ。

真っ白で、羽広げてさ。

俺の方を向いてたんだ。

目が緑でさ、でこにも緑の何かがあった。

頭から後ろに向かって長え髪伸ばしてる感じでさ。

とにかくすげーでかかった。

そして透けてた。」



そう言うと博貴さんが私を力いっぱい抱きしめた。



「お前まで行ってしまうのかと思って、、。

怖かったよ。」



「ごめんね、心配かけちゃった。」


私は博貴さんの背中に手を回して、

抱きしめ返した。


「どこにも行かないよ、、、。」



博貴さんはにこりとして

私の唇に優しくキスをしてくれた。




ーーーその時だった。





「え?何?」




私は博貴さんが喋ったのだと思い、

返事をした。


「え?俺何も言ってないよ?」


博貴さんがきょとんとしている。



「誰?誰なの?」



私は頭を抱え、半ばパニックになった。




ーーージン?ジンっていうの?



私は無意識に集中して、何かに話しかけた。

返事はない。いや、聞こえないだけなのかも。

きっと何かを伝えようとしてる。


ーーセカンド?何ーーーーー?



私はまた気を失ってしまった。

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