ひとり

弟のために朝食を作り、食べさせる。

6つ年下の弟はやっと11才になったばかりだ。

弟は友達と遊びに家を出た。


あの時、必死に2人を追いかけた。


2人は突然部活を辞めた。週末も遊ばなくなった。


2人が付き合ってるならそれでいい。

けれど、すごく置いていかれたような気がして、どうしようもない虚無感に襲われた。



今までこんなことはなかったのに。

和愛ちゃん、何があったの?

どうして話してくれないの?




テーブルを見ると、

母からの置き手紙があった。


「夏菜子、今日は遅くなるから夕ご飯お願いね。」


そう、紙の切れはしに書かれていた。

涙が流れてきた。



公園まで追いかけたところまでは覚えている。

そこからは、なぜか意識が飛んで思い出せない。







それから一夜があけた。

日曜日の朝。


ドアに新聞がささっている。

いつものように取りだし、1面を見た。

いつもなら気にもとめない記事だが、なんとなく今日は目を通した。

すると、隅の方に小さな記事が載っていた。





【高校生男女が行方不明】





そこには、和信君と和愛ちゃんの名前があった。


しばらく何も考える気が起きなかった。

何もやる気が起こらない。

私はベッドに飛び込んだ。


「、、、わたし、なんだかひとりだな。」


また涙が溢れてくる。


「私も、何かしなくちゃね。」



私は、行動することにした。



私はその日部活を体調不良を理由に休んだ。

月曜日が来たら退部もするつもりだ。







ーインターホンのボタンを押した。


「はーい!」


女性の声が聞こえた。

玄関まで走る足音が聞こえる。


ガチャ。

ドアが開いた。


きれいな女性が出迎えてくれた。



「私、辰巳 夏菜子っていいます。

和信君の、、、友達です。

和信君のお父さんはいますか?」


「まぁ!綺麗な子ね!

夫は今も仕事に出掛けててね。

でも午前中だけだから。すぐ帰ってくると思うわ。

だからどうぞ、中に入って。」


嫌な顔ひとつせず、家に入れてくれた。


「私、社 咲っていうの。よろしくね。」


そう言うと咲さんはホットコーヒーを出してくれた。



「心配かけちゃってごめんね。

私も、夫やあの子達が何してたのかあんまり知らないの。」



「私、知りたいんです。

2人は何をしてたのか。

私も力になりたいです。」


必死に訴えた。

すると咲さんは、にっこりとした。



「じゃあ夫が帰ってきたら、

伝えなさい。彼ならきっと分かってくれるわ。」



和信君のお父さんが帰ってくるまで、私達は色々なことを話した。


「和信君は、すごくいい人ですね。

私、すごく尊敬してます。」


「まぁ。ありがとう。年頃だから、私達には愛想が悪いんだけどね。」


咲さんはふふふ、と笑った。



「あの子は口数は少ないけど、とても優しい子なのよ。

なんて言ったら親バカみたいね私ったら。」


恥ずかしそうな顔を手で隠す咲さん。


「私、和信君のこと、好きだったんですよ。」


私は必死に笑顔を作って言った。


「けど、和信くんは、きっと和愛ちゃんが好きなんだなって。私のことは、どうでもいいんだろうなって。」



すると咲さんは悲しそうな顔をした。



「そうだったのね。確かに和愛ちゃんとは昔から仲がよかったわ。

でもね、だからといってあなたをどうでもいいなんて思わないはずよ。

あの子は誰にだって優しいんだから。

それに、探したいと言ってくれる人がいるなんて、あの子は幸せ者よ。」



そう言って咲さんは私を抱きしめてくれた。



「私も片想いは経験したわ。

辛いわよね。すごくわかるの。

けど、今ある出会いが全てじゃないのよ。」



咲さんが優しい目で私を見た。

なんだか、心が温かくなった。





ガチャ。





「ただいまー!」


低い男の人の声がした。


「おかえりなさい。

お客さんが来てるのよ。」


そう言って咲さんは和信くんのお父さんを部屋に入れた。


「初めまして。辰巳 夏菜子っていいます。」

「社 良則だ。よろしくね。」




私は、2人が消える瞬間後ろにいたことを話した。



「そうなのか!あの公園で一体何が、、、。」


「私、力になりたいんです。あの時、後ろにいたのに。

何もできなかった。手が届かなかった。

すごく悔しいです。

どうか、お願いします。」



私は必死に頭を下げた。



「そうか、、、。和信や和愛ちゃんのとことを心配してくれる人がいるのはとても嬉しいことだ。

このランチを食べ終えたら、研究所に案内しよう。」


「ありがとうございます!!」


私だって何かしたい。

強くなるんだ。前に進むんだ。




そしてその日、私は研究所の横にある大きな鳥居に目を奪われた。

なんだろう。

何かがそこにいるようなー。

そんな感覚がした。

変な胸騒ぎがしたが、さほど気にせず研究室へと足を踏み入れた。

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