出会い

鳥の鳴き声が、耳に入ってきた。

目が覚めると、私は思わず声を上げた。


「きゃっ、、、、!」


いつのまにか、和信の膝の上で寝ていたのだ。


和信が私の叫び声に驚いて目を覚ました。


「何だよ、びっくりするじゃないか。」


何も知らない和信はきょとんとした顔をしている。


「な、なんでもないよ、、、。」


顔に当たった変な感触が忘れられそうにない。

あれって、和信の、、、。


私は顔を横に振って、平静を装った。


「と、とにかく行こう!」


そう言って和信の手を引っ張った。


「おいおい、せめて水くらい飲んでから行こうぜ。」


そう言って川の水を飲み始めた。



そして魚を捕まえて朝ごはんを食べてから出発した。

和信の腕をずっと握ったまま歩いた。



しばらく歩き続けると、目の前に背の小さい女性が現れた。

両サイドともピョンっと跳ねた黒髪が可愛らしい人だ。

深海のような、濃く深い藍色の目がこちらを見ている。


「あ、あの、、、、。」


和信が話しかけると、女性がかぶせるようにして声を出した。


「あなた達、どこから来たの?」


私はとっさに答えた。


「えっと、東京から、、、、。」


するの女性はポカンとしていた。


「トウキョウ、、、、?どこそれ?

聞いたことないな。」


東京を知らない!?

首都なのに。この人は何を言っているんだろう。


「えっと、日本にある東京なんですけど、、、

ご存じないですか?」


女性は少し上を向いてから答えた。

穏やかな表情をしている。


「おかしいな。私も日本に住んでるんだけど。

そんなとこ知らない。」


私達はしばらく黙っていた。


何がなんだかわからない。

この人の言っている意味がさっぱりわからない。


すると女性が声を出した。


「私、夏江。あなた達の名前は?」


「社 和信です。」

「斎藤 和愛です。」


私達は交互に答えた。


すると夏江さんが驚いた表情をした。


「まさかとは思ったけど、やっぱりそうなんだな。」


夏江さんは何かを確信したかのような顔をして言った。


「遭難してるんでしょ。国に案内するよ。」


そう言うと彼女は口笛を鳴らした。


するとしばらくして、ものすごく大きな鳥がやってきた。


ー鷲だ。

あまりの大きさに、身体が強ばって動かない。


鳥の背中にはきちんと人が乗れるよう座席のようなものがある。

落ちないようベルトも締められるようになっている。


「それ、2人乗りだから。フライト楽しんで。」


夏江さんがにこにことしている。


「あと、ゴーグルつけて。

ものすごいスピードだから。

まばたきがスピードに追いつかないからね。

目に小石とかが入ったら失明確定。」


夏江さんは怖いことをさらりと言ってのける。


「私はこの子に乗ってくから。」


そう言って別の鷲に乗って一足先に飛んでいった。


私達と和信も、鷲の背中に乗ってベルトを締め、ゴーグルを装着した。


すると鷲は助走なのか、走り始めた。

上下の揺れがひどく、乗り心地はあまりよくない。


そして数百メートル走ったところで翼を広げ、飛び立った。


木々ががみるみる小さくなっていく。


そして、寒い。

ものすごい風圧で、身体が潰れそうだ。

私は和信の腰に手を回してしがみついた。

和信から伝わる体温が、全身を駆け巡る。


鷲は雲を避けながら飛んでいる。


そして、5分ほど経ってから急降下を始めた。


「うわーーーーー!」


ジェットコースターどころではない。

重力がもろに身体に伝わる。


大きな門の前で鷲が羽を羽ばたかせ着地した。


鷲は直後にすぐ飛び去っていった。


私は、座席から降りた途端、崩れ落ちた。

足がガクガクとする。

和信が手を差し伸べてくれた。

和信の手を握って立ち上がる。


「おぉーお熱いねー。」


そう言って門の向こうから長身の女性が現れた。

目は夏江さんと同じ深い藍色だ。

190センチくらいはあるだろうか。

長い黒髪にはわずかにウェーブが入っている。


「鈴(りん)よ。よろしくね。和信君に和愛ちゃん。」


すっと握手の手を差し出してきた。


握手を交わしたあと、さっそく案内をされた。

古そうな家々が立ち並ぶ道沿いを歩いていった。


「あなた達、ひとつ覚えておいた方がいいことがあるわ。」


鈴さんがにこにことしながら言った。


「ここでは苗字は名乗らない。

それが常識なの。次からは気を付けるのよー。」



なんで苗字を名乗らないんだろう?

そう思いながらも返事をした。


「分かりました!」


そしてしばらく歩いていくと、また鷲がいた。

「このお友達とちょっと中心部まで行くからね。」


鈴さんはとても笑顔だ。

私の顔が真っ青になっているのを知っていての笑顔だろう。


再び空へと投げ出されていく。




しばらく飛んだ後、やっと着地した。


「あなた達の言う東京はしらないけど、ここが私達の国、日本の中心部。神坂(かみのさか)よ。

ようこそ。」


そう言って鈴さんは私達を迎えてくれた。

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