明かり

「とにかく前に進もう。」


そう切り出したのは和信だ。

ここがどこかわからない以上、

じっとしていてもしかたがない。

ネイも見当たらない。


でもひとつよかったのは、

少なくとも人がどこかに

住んでいるということがわかったということだ。


いや、人なのかどうかはわからないかー。


私達を人間と呼んでいたあたり、

人ではないのかもしれない。


ま、魔人とか、、、。

いや、そんなわけないかな、、、。



あれこれと考えていると、和信がすでに足を進めていた。


大きな木々が並ぶその隙間を歩いていく。


鳥の鳴き声がしきりに聞こえてくる。

気温は涼しく、少しひんやりとしているくらいだ。


黙ってひたすら歩き続けた。







ーー何時間歩いたのだろうか。



喉も渇いてきたし、お腹もすいた。

少しずつ木の数が少なくなり、

開けた場所に出始めた気がした。


しかし、何時間か前に遭遇して以来、

一向に人の気配はない。



「ちょっと休憩する?」



和信が話しかけてきた。


「うん。」


私達は近くにあった大きな木にもたれかかった。

喉の渇きと空腹が限界に近づいていた。



「このままだとまじで飢えちまう。

ちょっと休憩したらまた歩こう。

とにかく、何か見つけないとな。」


めずらしく和信がよく喋る。

彼もそれだけ限界に近いのかもしれない。



10分ほど経って、私達は再び歩き始めた。


足がパンパンだ。

こんなに長時間歩いたのは初めてだ。


正直辛かった。

ネイは一体私達に何をしたのだろうか。



もう、どのくらい歩いたか分からない。

日が暮れ始め、辺りは少しずつ暗くなり始めた。



すると、ようやく目の前に小さな川が見えてきたのだ。


私達は手で水を掬い上げ、喉の渇きを潤した。

しかし当然ながら、空腹はおさまらない。



すると和信が少し先の尖った木の枝を拾ってきた。



「とりあえず、魚でも取って食べよう。」



まさかのサバイバルだ。

しかしお腹はすいた。

選択肢はない。



和信がズボンの裾をめくり、川に入る。

バシャバシャと音をたてながら、魚を追っていた。


私は木の枝を集めて火をたけるよう準備を進めた。



するとすぐに、和信が魚を捕まえたようだった。


「これ。多分鮭なんじゃないかな。」


そう言いながら大きな魚を持ってきた。

もはや鮭かどうかはどうでもよかった。



まるで原始人のごとく、

私達は石と石をぶつけたり、

木の枝を回して擦ったりしてなんとか火をつけた。

まさかこんなことをする日が来ようとは。



そして魚を焼いて食べた。

こんなに命に感謝したのは初めてだった。

あぁ、私達は他の生き物の命を頂いて食べていたんだ。

そんな思いが頭の中をを流れた。


いつもならポン酢やタルタルソースをつけただろう。

でも、今はそんなものはない。

でも、ものすごくおいしかった。

食事って、素晴らしい。


これからどうなるのか、不安で押し潰されそうだったけど、

和信がそばにいてくれるだけで安心できた。




それから間もなく、辺りは暗闇に包まれた。

気温は下がり、かなり寒い。

身体が小刻みに震える。



すると、急に温かくなった。

和信が片手を背中に回して身を寄せてきてくれた。


「寒いな。」


和信の声が、かすかに震えていたのが分かった。





「和信、ひとつ聞いていい?」

「何?」






「ー好きな人とか、いる?」






自分でもなぜ聞いたのか分からなかった。

寒さで頭がおかしくなったのかな。

いや、きっと知りたかった。

純粋に、和信が誰かを好きでいるのかを。



少しの間、沈黙が続いた。


そして和信は静かに答えた。






「うん、いるよ。」






ー誰?って聞きたい。

でも、怖くて声が出ない。

もし、違う人だったら?

私もう、辛くて今を乗り越えられないかもしれない。






「いつからなのか分からないんだ。」






和信が間をあけて言った。






「俺、、、、、

和愛が好きなんだよ。

はは、こんなとこで告白されても困るよな、、。」







心臓が破裂しそうだった。

こんなにドキドキなんてしたことがない。







「私もね、好きだよ、、。」








思いを伝えられた。

まさかこんなところで彼とこんな話をするなんて。



すると、和信が唐突に聞いてきた。



「、、キス、してもいい?」



あまりにも突然すぎて、飛び上がりそうになった。

そもそも、質問してからするものじゃないでしょー!

と、言いつつ本当は嬉しかった。



「いいよ。」



かすかな月明かりに照らされた和信の顔が近づいてくる。

彼が右手を私の顔に添えた。


彼の顔がこんなに美しく見えたことなんてあったかな。

彼の唇が私の唇と重なり合う。

彼の呼吸が私の顔を優しく撫でた。



さっきまでの寒さを忘れるほど

全身が熱くなった。

すると今度は両手で私を抱きしめてくれた。




ー暖かい。大丈夫。きっと乗り越えられる。




そういう思いになれた。




なんだかすごく恥ずかしくて、

思わず照れ笑いをした。


唇と唇がふれ合う。

ただそれだけなのに、すごく幸せな気持ちになった。


私は和信と身を寄せ合ったまま、眠りについた。








ーそれからしばらくして、目が覚めた。

まだ真っ暗だ。

和信は寝ている。



ふと遠くを見ると、私は思わず目を見開いた。

なぜ、ずっと気がつかなかったのだろう。


遠くの方に、明かりがポツポツとあったのだ。

いや、さほど遠くはない。

歩いて行けそうな距離だ。



「和信、起きて。」



和信を少しの揺すると彼が目を覚ました。



「うーん、何だよ、、、」

「明かりが遠くに見えるの。

ほら、見て。」



和信はあくびをしながら

私の指差す方を見た。



「ほんとだな。なんで気がつかなかったんだ俺ら。」

「朝がきたらとりあえずあそこに向かって歩こうよ!」

「あぁ、そうだな。」



そして私達は深い、深い眠りへついたー。

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