空間
「それで、そのネイってのが純さんのことを知ってるのか。」
「はい。ネイはすごく寂しそうにしてました。
普段から仲良くしてたんじゃないかな。」
「なるほど、、、、、、。」
あの週末以来、私と和信は部活を退部し、
学校が終わった後は研究所通いとなった。
和信があれほど没頭していたサッカーを辞めたのには本当に驚いた。
私の父のためにそこまで、、、。
本当は辞めてほしくなかったけど、
その傍らで少し喜んでいる自分に
いささか嫌悪感が増した。
「あの、質問していいですか?」
そう切り出したのは、和信だ。
「どうぞ。」
そう答えたのはこの研究所のメンバーの1人の緒方(おがた) 晶(あきら)だ。
顎あたりまで伸ばした髪はウェーブがかかり、
茶髪に染められている。今年で40歳になる。
和信は続けた。
「魂生命体のことは、なんで他言無用なんですか?」
「ははは、なるほど。そう来たか。」
今度は別のメンバーの
山本 博貴(ひろたか)が笑った。
黒髪と爽やかな笑顔の25歳だ。
「君達も知ってのとおり、
魂生命体は強大なエネルギーの塊だ。
今は戦争が勃発し始めてる世界。
お国さんも利用できる力は利用したいのが本音だろう。
要するに、他国へ隠したいんだ。
SNSの時代だ。一般市民が知れば、すぐ世界に広まる。」
晶さんが少し険しい顔で答える。
「まぁだから国から補助が出てるんだよね俺ら。ははは!」
博貴さんが楽しそうに笑って見せた。
「お前はいつも楽しそうだなぁ、、、。」
そう言ったのは今年45歳になる良則さんだ。
「おじさんにもその若さを分けてもらえんかね、、」
博貴さんはさらに笑って見せた。
そうこう話しているうちに、和信が声を出した。
「ネイはなんで、和愛にだけ見えるんですかね。
いや、和愛は触ることさえできた。
俺達は見えないし触ることもできない。
何が違うんでしょうか。」
「そこなんだ。」
良則さんが答えた。
「俺もずっとそれは不思議だった。
純さんも同じように、会話をしてただろうし
触れたりもしていたはずだ。」
確かに。
和信や良則さんの言うとおりだ。
私にも不思議でならない。
「お前達、空間ってのを意識したことがあるか?」
そう言ったのは博貴さんだ。
「空間って?」
私と和信が同時に聞いた。
「まぁ俺にもよくわからないんだけどな、ははは!」
そう笑いながらも博貴さんは話を続けた。
「まぁ要するに、異空間ってのが存在する可能性だ。
異空間って言っちゃうとなんだかファンタジーな聞こえになっちゃうけどな、はは!」
博貴さんはさらに続けた。
「純さんはこの異空間説にかなりの力を注いでた。
俺はそれを間近で見てたから、異空間ってのはありえると思うんだ。」
「要するにな、、、。」
博貴さんがホワイトボードに絵を描き始めた。
「このAって空間に俺らがいるとしよう。」
さらに描き進める。
「そしてネイがこのBっていう空間にいるとしてだ。」
キュッキュッと水性ペンが音をたてる。
「普通の人は、このAという空間の中にいる物しか見えないし、
触れることも聞くこともできない。
まぁ当たり前だよな。
トイレに入ってドア閉めたら外のやつなんか見えやしないからな。
それと同じことだ。単純だろ?」
誰かが鼻で笑ったのが聞こえた。
「ところがだ。」
博貴さんが続ける。
「純さんや和愛ちゃんは、何かの力なのか体質なのかは分からないが、
Aの空間にいながらなぜかBの空間の情報を得ることができる。
どういう仕組みなのかはさっぱり分からないけどね。
まぁそれが俺とそして純さんの仮定だ。」
「トイレの下りはいらなかったな。」
晶さんがボソッとつぶやいた。
「いぃーじゃないですかぁ、分かりやすいでしょ?」
「、、、、。」
なぜか全員が黙り、奇妙な空気が流れた。
「てことは、和愛の親父さんは別の空間に飛ばされちゃったとか?」
和信が言った。
「そう!俺が言いたかったのはそれ!」
博貴さんが嬉しそうに笑う。
「だと仮定するなら、どうやって探すんだ?」
良則さんがすかさず言った。
「そりゃぁ、そのネイってやつに力を借りるしかないでしょ。」
晶さんが答えた。
「でもそれで仮に異空間に行けたとして、
それは和愛ちゃん1人だけの冒険になっちゃうよね。
帰ってこられるかもわからないのに。それでいいの?」
ずっと黙っていたメンバーの1人の中山 恵(めぐみ】が言った。
「そもそも異空間って、どこにあるかって仮定はあるの?」
「俺的には宇宙の外っ側ってことだと思うな。」
博貴さんが少し真剣な顔つきで言った。
「それに、まだ和愛ちゃんしか行けないという確証もないだろう。」
良則さんが言った。
私は大きな不安があったが、
父を取り戻すためなら異空間だろうとどこでも行ってやろうと思った。
「、、、俺も一緒に行くよ。
もし行けたらの話だけど。」
そう言ったのは和信だ。
また心臓の鼓動が大きくなった。
「和信、、、。」
私は一旦下を向いてから顔を上げて言った。
「もし次にネイが来たときには、話してみようと思います。どこまで現実にできるかはわからないけど。」
「あぁ。俺達、私達も着いていけるなら行くよ!」
皆が声を揃えて言ってくれた。
なんだか身体から力が湧いてくるようだ。
ーそしてそれから1週間が経った時だった。
ネイが現れたのだ。
それも授業中にだ。
今度は遠くの空中からまっすぐこちらを見ている。
私は突然席を立ち、教室の外へと走った。
「ちょっと!どこ行くの!」
すでに遠退いた数学の多田先生の声がしたが振り向かなかった。
すると別の教室からも声がした。
「こら!待たんかー!」
そう言われながら出てきたのは和信だ。
私達は2人で先生達を振り切り、
走り続けた。
「多田先生が叫んでるの聞こえて、絶対お前だと思ったよ。」
和信がクスクス笑いながら言った。
「意外と勘がいいのね!」
走りながら私は答えた。
「ネイがいるの!だから着いてきて!」
「あぁ。わかった!」
私達は走り続けた。
ーそして私はあることに気がついた。
後ろに夏菜子がいたのだ。
「2人してどこへ行くの!」
私と和信は顔を合わせた。
「おいおいこりゃめんどくさいことになったな。」
和信はそう言ってため息をついた。
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