魂生命体

私達は、息を飲んでスクリーンを見つめた。

スクリーンから低い男性の声が流れた。



ー父の声だ。



宇宙や街の風景とともに、

父の声が流れる。




「魂生命体は、この宇宙や星々を作ったとされる

非常に強大なエネルギーの塊だと考えられています。」


「しかしそれほどの強大なエネルギーを持っているにも関わらず、

普段の生活の中では音沙汰もありません。」


「彼らは知的生命体であり、私達人間のように

慈悲や哀れみの感情を持っています。」


「同時に怒りに触れてしまえば

全てを破壊してしまうでしょう。」




約15分間私達はスクリーンをただ黙って見つめていた。


手がかりどころか、ますます頭は混乱しそうだ。

目を横にやると、和信も頭を抱えていた。

あまりにも話がぶっ飛んでいて、

信じろと言われても無理がある。



「これがお父さん達が研究してたことなの?」



良則さんは息を大きく吸い込んで答えた。


「そうさ。俺は今回の純さんの失踪は、

魂生命体が関連してるんじゃないかと思うんだ。」



「和愛ちゃん、純さんはここ最近変わったことはあったのかな?」



私は迷わず話した。

「そういえば、よく1人で喋ってたと、、、。

というより、ケンカしてました。

もしかしたらその魂、、生命体と喋ってたのかな。」



すると良則さんが答えた。



「研究所ではそんなことはなかったんだけどな、、。

話し相手はきっとそうだろうな。

だが純さんは俺達には何も話してくれなかった。

何かを抱え、悩んでいたのかもしれない。」



良則さんは少し寂しそうな顔をした。



「ちなみこの研究は、国からの補助つきなんだ。」




「えぇーーー!!」




また私と和信の声が重なった。



「国がらみでなんか隠してたんじゃねーの。」


和信がさらに続けた。


良則さんは少し考えて声を出した。


「国にとっても、魂生命体は興味深いものだからね。

とにかくだ。俺は純さんがきっと無事だと信じてる。

警察の力だけに頼らず、俺達も一緒に探そう。

和愛ちゃん、和信。お前達も俺からしたら家族みたいなもんだ。

一緒に力を合わせよう。

いや、どうか力を貸してくれ。

そして、何もしてやれなかった無力な俺を

許してくれ。」



良則さんは深々と頭を下げた。

頭を下げるべきは私だ。

私だって父のために何かしたい。

1日も早く父に会いたい。

あの、にこっとした笑顔をまた見たい。



「後、これは他言無用で頼む。」



良則さんは念をおすように言った。


こうして私達は情報を集めて回ることとなったのだ。

私達は研究所から家へ車で帰り、

そこで解散した。



「ねぇ和信。」



私は気がついたら彼に話しかけていた。


「何?」


相変わらず目だけがこちらを見ている。


「ちょっと公園行かない?

ほら、近くの。あそこ湖がきれいだから。

ちょっと気持ちを落ち着けたいの。」



1人で行けよって言われるかな、、と

内心ちょっと不安があった。


「別にいいよ。」


よかった。顔は嬉しそうじゃないけどまぁいいか。



「ありがとう。」



そう言って私達は近くの公園へと足を運んだ。

初夏の少し強めの日差しが照りつける。

私達は日陰のベンチへ座った。


週末だからか、家族連れが辺りを行き交っていた。


お互い黙っていた。

私は頭の中で、魂生命体について分かったことを整理していた。

多分和信も同じ事をしているだろう。




・魂生命体は宇宙を作り星々を作ったと言われていること。

その目的は分かっていないこと。


・知的生命体であること。


・魂と言われる由来は、

1つ1つの細胞が極めて小さく

形を成していることができないため

魂のように見えているから。


・私達や動物のこと「魂生命体」に反して「肉体生命体」と呼んでいること。


・魂生命体が見える人と見えない人が存在していること。

ただし見える人はごく少数であること。


・魂生命体の寿命や詳しい身体の仕組みは分かっていないこと。


・魂生命体がなぜ父にだけ見えて

なぜ父だけコミュニケーションが可能だったのかが不明であること。


・どのくらいの数が存在しているのか不明であること。




謎は多い。

全てノートにメモしてあったので、

それを何度も読み返した。


考えてもわからない。

だけどもし父がこの魂生命体達の何かに

巻き込まれたのだとしたら、

警察が見つけられないのも無理はない。







ーどのくらいノートを見ていただろう。

ちょっと疲れたな。


隣を見ると、和信はうとうととしていた。

普段なら部活をしてるだろう。

わざわざ私達は休んできたのだ。




しかし、本当に疲れた。

こんなに頭を使うのは久しぶりだ。

少し、眠ろうかな。

でももう少しだけ、湖を眺めていたいな。



そう思ってふと湖の方向を見た。

透き通っていて、雲が湖に反射していた。



「きれいだなぁ、、、、。」



だんだんうとうととしてきた。

遠退いてゆく意識の中、目を閉じかかけた時だった。



湖の上に何かが立っているのが見えた。



私は慌ててもう一度目を見開いた。

そして必死に目を凝らす。

あれは一体、、、、?


ぼやけていた何かがくっきりと姿を現す。




ー梟(ふくろう)だ。





頭から足の先まで真っ白。まさに純白だ。

目はエメラルドグリーン。


そんなことよりもなぜ湖の上に立っていられるのか。

しかも、かなり大きい。

2メートルは越えてるのではないだろうか。


ゆっくりとこちらへ向かってくる。

湖上に波紋はない。

誰も湖を振り返らない。



まさか、他の人には見えていないー?

ゆっくり、ゆっくり。

1歩ずつ、1歩ずつ。

少しずつこちらへと歩んでくる。


そしてついに、梟は私の目の前まで来た。


人々はすり抜けていく。

誰にも見えていない。


私は今幻覚を見ているのか。

夢なのか、現実なのか。

よくわからなくなってきた。


梟は地面にしゃがみ、頭を下げてきた。

ゆっくりと、深く。

なんと壮大な姿なのだろう。

なぜか心が引き込まれていくようだった。


隣を見ると、和信は寝ている。

なぜか起こしたいと思わなかった。


梟が何かを言ったような気がした。

耳を凝らす。

いや、耳を凝らしても聞こえない。

心を集中する。感覚を研ぎ澄ませる。



ー名前だ。

この梟の名前はネイと言うのだ。

はっきりと言葉は聞こえなかったが、なぜかそれだけはわかった。


ネイはこちらをまっすぐ見た。

とても悲しそうな目をしている。

どうやらネイも父を探しているようだ。

なんとなくそう思った。



「寂しいの?」



私は気がついたら話しかけていた。

まるで時が止まったかのようだ。

ネイにそっと触れた。

少し暖かい。


するとネイは目を閉じ、安心したかのように

そのまま煙のように空気に溶け込んで消えていった。


ちらりと和信を覗くと、彼は起きていた。

私は、和信に言った。



「今の、見た?」



すると和信は答えた。


「お前が1人で何かに話しかけてるのを見た。

俺にはその相手は見えなかったな。」


私は赤面した。

はたから見れば私は1人で喋っていたのだ。


だけど和信はすぐに続けた。



「別に恥ずかしいことじゃねーだろ。

お前には見えてて、俺には見えてなかった。

ただそれだけのことだ。」



少し寂しげにも見えた。


「多分、、、魂生命体だったんだと思う。

ネイっていう名前だった。

ネイもお父さんを探してるみたいなの。」


「そっか。」


和信は木にもたれ掛かり、上を向いて言った。。


「俺には、何ができんのかな、、、」



私はとっさに答えた。


「一緒に闘うことだよ。

私のこんな話信じられるのは和信だけじゃない。」

「まぁそうだな。」



和信は少しにこっとした。

彼自身思うことは多くあるようだ。

でも、見ることさえできない。

どんなにもどかしい思いでいるのだろう。



また心臓の鼓動が聞こえる。

暑い。あの時と同じ感覚。

私、どうしちゃったんだろう、、。



ネイはきっとまた来てくれる。

なぜか確信できた。



ネイはきっと大きな手がかりだ。



私はそう思うと立ち上がった。

きっと何かがつかめるはず。


お父さん、待っててね、、、、、!

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