失踪

カーテンから差し込む光で目が覚めた。

6時15分ーもうそんな時間か。

ベッドからゆっくりと起き上がり、

くしゃくしゃの髪を櫛(くし)で梳(と)かす。



今日の朝ごはんは何かな。

味噌汁がほしいな。

そんな他愛もないことを考えながら、

1階のリビングルームへと階段を降りた。



「あれ?」



私は思わず声を出した。

父がいないのである。

いつもなら、すでに朝ごはんを作ってくれてる時間なのだが。


しかしさほど気には止めなかった。

きっと急な仕事で、早めに家を出たのだろう。

私はそう思い、適当に朝ごはんを済ませてから

そのまま家を出た。



外へ出ると、清々しいほどの快晴だった。

授業じゃなくて、ピクニックにでも行きたいほどだ。

いつもの曲がり角。そこには夏菜子が立っている。



「おっはよー!」



昨日の夜どうだったのかが

気になって仕方がないであろう

キラキラとした目で夏菜子があいさつをしてきた。

さっそく夏菜子は聞いてきた。



「昨日はどうだったのー?お話できた?」

「まぁね。なんか研究してるんだってさ。」

「研究って、何の研究?」

夏菜子の目が好奇心で輝いている。



すると、後ろから声がした。



「宇宙が何とかって言ってたんじゃねーの?」



この声は、和信だ。

そういえば和信の父も同じ職場だったのを忘れていた。

夏菜子が恥ずかしそうに

私の後ろに隠れる。



「そう!なんかすごく大事なことだって。

でも、あんまり詳しくは教えてくれなかった。

和信は何か聞いたことある?」


「いや。俺の親父も似たようなもんさ。

お前の親父が研究の中心だったらしいけど。」


「そっかー。なーんか、気になるね。」


そうこう話している内に、学校に着いた。

いつも通り授業に出て、いつも通り部活に出る。

いつもの日常がまた始まるだけだ。

そう、思っていた。


そして、3限目の歴史の授業をしている時に

担任の吉村先生が突然教室に入ってきた。



「斎藤和愛さんはいますか?」



突然呼び出された。


ーなんだろうか。


内心ドキドキしながら先生に着いて行く。

すると、職員室ではなく、別に個室へと呼び出されたのだ。

そして私はその個室に入った時、息を飲んだ。




ー警察だ。

3人いる。




険しい顔をしていた。


「あの、、、、どうかしましたか?」


明らかに空気を読んでない質問なのはわかっていたが、

聞かずにはいられなかった。



「今朝、お父さんには会ってないかい?」

「いえ、会っていません。」



私は静かに答えた。


「朝6:15に起きた時にすでにいなかったので、

急な仕事で先に家を出たのだと思いました。」


「そうですか、、、、、。」


「あの、、、、父に何かあったんですか?」



私はおそるおそる質問した。



「あなたのお父さんは、職場にも来ていないそうなんだ。」


いかつい顔をした警察官が答えた。



「既に家も捜索をさせてもらったが、

財布や鞄もそのままだし、

争ったような形跡も全くなかった。

何も持たずに出て行ったとも考えにくい。」


「何か事件に、巻き込まれた可能性があるということでしょうか、、、。」



私は震える頬をこらえて必死に聞いた。



「、、、可能性は充分にあります。」



それを聞いた途端、目の前が真っ白になった。



「そんな、、、、、、。」



私にとって血は繋がっていなくても、大切な家族だった。

いて当たり前だと思っていた。

なのに、どうして、、、、、、。


すると、個室にもう1人男性が入って来た。


「良則(よしのり)さん、、、!」


和信のお父さんだ。


「和愛ちゃん。純さんのことは一旦警察の人達に任せよう。

見つかるまでは、私達の家に泊まって行きなさい。

純さんには本当にお世話になったからね。」


「ありがとうございます、、、、。」



心が、空っぽになった。

父はどこに行ってしまったのか。

生きているのか。死んでいるのか。

こんなに辛い気持ちになるのは初めてだった。


父は何か苦しんでたのかな。

こんなことなら、盗聴器をしかけてでも

父の独り言を聞いておけばよかった。

そしたら、もしかしたら防げたかもしれないのに。


後悔の念が一気に私の心を支配した。



部活終わり、いつものように夏菜子と一緒に帰った。



家に着くと、

自分の部屋に入り、

必要なものを鞄に詰めんだ。


涙が頬を伝い、首へと流れ落ちた。

しばらくは、この家には帰らないのかもしれない。



「お父さん、帰って来てね、、、、。」



私はそう静かに祈った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る