Second 2番目の生命

PoliteFlower

会話

「行ってきまーす!」

そう言ってドアを勢いよく開け、高校に向けて出発した。


斎藤 和愛(わかな)17歳。


両親には養子として拾われた。

母が子宮に病気を患っていたからだ。

私は出生後、公園に捨てられていたらしい。



その後母の明日香は子宮ガンで

長い闘病を経て5年前に亡くなった。

その日からは父の純(じゅん)と2人暮らしをしている。



いつもどんな時も私の背中を押してくれる父。

毎日とても幸せだった。




そんな最愛の父が、最近になっておかしくなり始めた。

時々部屋で誰かと言い争っているかのようだ。

しかし、相手の声がない。


最初は電話で話しているのだと思った。



しかし、また誰かとケンカするかのように

話している父をこっそりのぞくと、

完全に1人で喋っている。



妙な心配が私にまとわりついた。

その心配は日に日に膨らみ、

自然と私は本屋に足を運ぶようになった。

精神的なストレスに関する本を読み漁っては、

あぁでもない、こうでもないと

余計なことばかり考えていた。




お父さん、病気なのかな。。。。?




「。。。。い!。。おい!斎藤!」


突然呼ばれてぎょっとした。国語の担当の、津田先生だ。

どうやら私はまたぼーっとしていたらしい。

また父のことばかり考えていた。



すると、突然声がした。



「お前さー。最近いつも何考えてんの?」



隣の席から話しかけてきたのは、

近所に住んでいる幼馴染の#社(やしろ) 和信(かずのぶ)だ。

黒髪短髪のどこにでもいそうな男。

サッカーをしてるのに肌が焼けないのが最近の悩み。

ちっさ!



彼の父と私の父は同じ職場で働いており、

その関係で互いの家族同士よく食事をした。

彼の顔は先生の方を向いていたが

目だけがこちらをちらりと覗き込んでいた。



「何か悩んでるのか?」



突然真面目な顔で聞いてきた。

本当に心配してくれているようだった。

一応悩んでいるけど、、、。

でも、父親が1人で喋ってるなんて、

恥ずかしくて言えない。

そしてとっさに答えてしまった。



「別に。朝ごはん抜いてきたからエネルギー不足だよ。」

「ふーん。あっそ。」



素っ気ない返事が返ってきた。

勢いでついてしまった嘘だ。

バレてるかもしれない。


そのまま授業が終わり、彼は部活へと急いだ。

彼は小学生の時からサッカーが大好きで、

ずっと打ち込んできた。

部活へと急ぐ彼の足は力強かったが、

私に向けたその背中は

なんとなく寂しく見えたような気がした。


私は合唱部に所属していた。

とにかく歌が大好きだった。

小さい頃はよく歌手になりたいと思っていた。

それを父に話すたびに、

父は苦笑いしながらも否定することはなかった。

本当に優しい父親だ。



午後7時の、部活終わり。

クラスも部活も同じの親友の

辰巳(たつみ) 夏菜子(かなこ)と一緒に家に帰った。


夏菜子とは高校で知り合った。

ほんのりと色づいた茶髪の髪と白い肌が

上品さを漂わせる綺麗な女の子である。

入学した時からモテモテで、

隣を歩くのがなぜか恥ずかしかった記憶がある。



「和愛ちゃん、最近元気がないよ。何かあったの?」



和信に続き、夏菜子も聞いてきた。

部活のせいか、声がかすかにかすれている。


親友の夏菜子だけは隠し事はしたくない。

私は迷うことなく話始めた。



「実はさ、最近お父さんが変でさ。

なんか1人で喋ってるっていうか。」


「何かストレスが溜まってるんじゃない?

和愛ちゃんのお父さんもお仕事とか忙しいだろうし。」


「私、あんまりお父さんの仕事知らないんだよねー。」


「それだよ!お仕事の話、聞いてあげたらいいじゃん!

娘に聞いてもらえたら、絶対嬉しいよ!」



夏菜子は前のめりになって半ば興奮気味に言った。


「そ、そうかな?」


話を聞くーか。

なんだか照れくさい気持ちにもなった。

今考えれば、父は私に仕事の話をしてきたことはなかったし、

私から尋ねたこともなかった。

これは父をもっと知るいいチャンスかもしれない。


夏菜子と別れてから、家までいつものように歩いた。



すでに午後8時過ぎだ。

辺りは街灯のおかげでほんのりと明るい。


街灯にはまるで行き先を失ってしまったかのように、

小さな虫がくるくると飛び回っていた。


家に帰って鍵を開けて中へ入る。

リビングルームへつながるドアの隙間から光が溢れていた。

今日は帰ってくるのが早かったようだ。

泊まりがけで帰ってこないことさえある。



「お父さんただいま。」

「あぁ、おかえり。」



いつもの優しい笑顔が、私を迎えてくれた。

父が作り置きしくれていたカレーライスに手を伸ばす。

聞くなら、今しかない。



「ねえお父さん。」



唐突だったかもしれないが、父に話しかけた。



「なんだい?」



父は特に不思議そうな顔を浮かべることもなく、

こちらを向いてにこっと笑った。



「お父さんって、どんな仕事してるの?

今まであんまり聞いたことないからさ。」



すると、父は少し驚いた表情をした。

まさか聞かれるとは思っていなかったようだ。


「うーん、そうだねぇ、、、」


父は少しの間考えてから答えた。



「一言で言うと、研究だね。

まだ、誰も知らないことを研究しているんだよ。」

「誰も知らないこと?」

「あぁ、そうさ。とても重要なことなんだ。」



私はとっさに聞いた。


「それは、お父さんが時々1人で喋っているのと

何か関係してるの?」


すると父は飲んでいたホットミルクを吹き出しそうになった。

かなり恥ずかしそうだ。



「和愛、内容は聞いてたのか?」

「うぅん、聞いてないよ。」

「そうか、、、。」



安心したのか、父はゆっくりと呼吸を整えた。

そして私に尋ねてきた。




「和愛。宇宙はどうやってできたと思う?」




宇宙がどうやってできたか?

考えたこともなかった。

せいぜい地球の丸さを不思議に思ったことがある程度だ。



すると父はホットミルクを飲み終えて

マグカップをシンクに入れると、

何も言わずにそのまま寝室へと入って行った。



「おやすみ!お父さん!」



私がそう言うと、父は振り返り、にこりとした。


「あぁ、おやすみ。

和愛。」

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