第16話 サイボーグ艦

「さて夕日乃?そろそろ操艦深度レベルBで私の体をお任せしますので、今日はこれから使用できる装備の説明をしますね」

「うん、判った。雪ちゃんの体、いっぱいいじり回す」

 白雪と膝を突き合わす様に操縦席シートを後ろ向きにちょこんと座り、同い年のはずなのに遥かに発育の良い膨らみに向け、両手の指をワキワキと動かす発育の芳しくない少女。

「おっお手柔らかに……でっでは、おさらいも兼ねてこの宇宙戦艦白雪各部も合わせ説明しましょう」

「おう!」

 艦橋内部、全天モニターが消え真っ暗になると、映画館のように大きなスクリーンが現れた。そして各部点検の時よりもずっと大きく表示された宇宙戦艦白雪の精密な3D立体映像が表示され、まるで学校の授業のように説明が始まった。


【艦 名】 宇宙戦艦白雪(B型)

【形式名】 クラリア白 CCW-006B 半有機宇宙戦艦(サイボーグ艦)

【サイズ】 レムトロン級 全長333m全幅180m 

【主 機】 艦首ハイペリオンドライブ×1基(シャフト深度非公開) 

      艦尾ハイペリオンドライブ×3基(シャフト深度非公開)

【攻撃兵装】大口径プラズマ荷電粒子ビーム砲×5基(内2基アーム部装備) 

      荷電粒子ビーム砲×6基 レーザーバルカン砲×8基 

      光子魚雷発射口×1基 艦首ミサイル・魚雷発射管×4基 

      後部ミサイル発射管×2基 

【防御兵装】エネルギーシールド(最大展開数16)エネルギースクリーン

【特殊兵装】アクティブアーム×二椀 艦首プラズマビーム衝角 

【秘匿兵装】ガトリングハイペリオン砲×1基 他

【備 考】 クラリア博士の技術を結集したコスト度外視の実験艦。


【ハイペリオンドライブ】

 仮説はいくつかあるが原理未解明のエネルギー発生機関。

 深淵機関とも呼ばれ、別の世界やこの宇宙の未来からエネルギーを奪っていると真剣に唱える学者もいる謎の機関だ。

 光子エネルギーを発生するので、フォトンエンジン、フォトンリアクターとも呼ばれる。

 現在ドライブはワンサイズのみ運用がされている。大型化すると何故か効率が悪くなるのだ。費用対効果の結果、現在のサイズに落ち着く。

 つまり大型艦だから大型のドライブを使うのではなく、艦のサイズに見合うドライブ数を揃えるという事だ。

 使えるから利用するという危険な機関だが恩恵が大きい。主に高出力の必要な戦闘艦や一部の豪華客船に使用し、他の船舶は、核リアクターや重力子エンジンを使用するのが一般的だ。

 全ての艦船に普及しないもう一つの理由として、このドライブユニットはヴェリオクリスタルとヴェリオメタルという希少鉱物で製造するので非常に高価なのだ。

 現在も鉱床のある星を巡って争いが絶えないのが現状で、供給の不安定化も価格高騰に繋がっている。

 このエンジンを狙った海賊行為も横行する。このユニットは粒子ビーム程度では破壊できないので艦を撃沈し奪う場合もあるのだ。

 エンジンの全長は約80mあり、外部に露出する推進機に相当する円錐型の構造体が内30m程。外殻をヴェリオメタル、シャフトをヴェリオクリスタルで製造する。

 使用するシャフトの長さは戦艦用で平均200m程。80mの本体に200mのシャフトが真っすぐ入ってゆく。これが深淵機関と呼ばれる所以である。

 シャフトが長くなる程に製造難易度も上がりコストも格段に上がる。

 そしてここでも費用対効果の問題に突き当たる。

 故に200m前後が最もパワーとコストのバランスが良い。

 戦闘艦以外であれば50m程度で十分な性能を発揮する。

 これは噂だが特別なクラリア艦には、このシャフトが1000mも挿入されているという。

 このエンジンで最も重要なシャフトの原料であるヴェリオクリスタルは、エネルギーを内包する結晶体で、高純度の結晶は宝石としても流通している。

 外殻に使用するヴェリオメタルと同じ場所から産出し、推定5億年以上ブラックホールや次元断層の影響下にあった惑星に鉱床が産まれると言われている。

 希少故に代替物質の研究が盛んに行われているが難航してるようだ。

 皆が期待を寄せるクラリア博士は、残念ながらこの件には全く興味が無いらしい。

 余談だが、ハイペリオンドライブが開発される以前、主に重力子エンジンが主機だった時代。

 それに使用する希少鉱物ドーラテクトの大鉱床を持つ星系国家が輸出制限を盾に高圧的な外交を繰り広げた。しかし、代替技術を開発され一気に国力衰退を招き、嘲笑を買ったという。

【ハイペリオン砲】

 折角なのでハイペリオン繋がりでこの兵器の説明もしておこう。

 ハイペリオン砲とは、またの名を光子砲、原子破壊砲と呼ばれる超兵器である。ハイペリオンドライブが発生させる超高密度な光子エネルギーを圧縮し放射する宇宙戦艦の最も強力な兵器だ。ただし拡散する特性を持つ為に遠距離攻撃には向かない。強力だが有効射程は4万km程度と非常に短いのが欠点とも言える。使用後のパワーダウンも大きい。

【荷電粒子砲】

 これは以前にも説明したが、重金属粒子や重イオンを加速させ放出する宇宙戦艦の主力兵器。加速させる物質によってビームの色が変わる。更にプラズマを纏わせ威力を上げたものを主砲として装備する艦が増えている。白雪の場合、プラズマビームが紫系、通常ビームが緑系の発光を示す。

【光子魚雷】

 ハイペリオンドライブの副産物である光子を圧縮し発射する光学兵器。破壊力を持つ塊を射出する事から魚雷と形容されている。

 シールド破壊効果が高く、通常兵器としても非常に優秀だが、放出し過ぎすぎるとハイペリオンドライブの出力低下につながる。

 光子魚雷チャンバーに常時一定量の光子を圧縮貯蔵し使用する。減退速度が早く長距離攻撃には不向きだ。

【ミサイル・魚雷】

 艦上部発射管がミサイル、下部発射管を魚雷として装備する場合が多い。魚雷は水中やエーテル宇宙、ハイパードライブ空間で使用できる特殊ミサイルの総称。

【エネルギーシールド】

 六角形のパネル状にしたエネルギー粒子を艦周囲に展開させる防御システム。大半の攻撃を耐久限度内で防げるが光子魚雷には弱い。

 通常は攻撃に対してオートで展開する。

【エネルギースクリーン】

 シールドと違い艦全体を覆う事の出来る防御兵装。呼称はスクリーン、フィールド、バリアー等。シールドの全体版とも言えるがその分防御力は低い。

 敵艦のスクリーンと干渉させ中和をする事がが可能だが、これを夕日乃は直感的に理解し行っている。


「折角なので近代宇宙戦艦史もお話しましょう」

「え?ちょっとまって、いいよもう!」


【近代銀河宇宙戦艦史】

 1000年ほど前まで、重力子エンジンを主機とした宇宙戦艦開発は大型化の一途をたどっていたという。

 当時の宇宙戦艦は防御力優先でどんどん肥大化し、全長十数kmに及ぶ巨大な物体同士が削り合う、決め手に欠ける押し相撲の様相を呈していた。

 そこに突如現れたハイペリオンドライブ搭載艦は驚愕すべき性能を見せつけ、高い防御力を誇るはずの大型艦を次々に駆逐してゆく。

 重力子エンジン艦や核リアクター艦では、ハイペリオンドライブ搭載の強力な兵装と防御シールド纏い高速航行する艦にまったく対抗出来なかったのだ。

 そして大型艦時代の幕を引いたのが、ハイペリオン砲の登場だ。その絶大な破壊力に抗える者は無く、戦場を一方的な虐殺の場へと変えてしまった。

 都市攻撃に使用すれば、都市はおろか一帯を更地にする程の威力を見せ付け、艦隊で惑星を攻撃すれば死の星を作り上げた。

 この凄まじい破壊力を危惧した銀河ユニオンと銀河帝国は、共に居住惑星に対して使用しないという条文を銀河平和条約に追記し、長き休戦期間に入る。

 ハイペリオン砲は同砲で相殺するという対応法しかなく、互いの砲をけん制しながらの艦隊戦が行われるようになってゆく。

 相手より砲の数を揃え殲滅するか、均衡が崩れた時点で降伏勧告をするという戦法がその後数百年に渡り続く事になる。

 しかし現在、ハイペリオンドライブの更なる性能向上により、戦闘機を上回る機動力を持つ高速戦艦が戦場を支配しつつあり、ハイペリオン砲に頼った運用は転換期にあると言える。

 そう、どんな強力な砲も当たらなければ問題ないのだ。


「ちなみにハイペリオンドライブの開発者は、私の開発者であるクラリア博士ですよ。あとは~現時点でお話出来そうなのはこの辺りまででしょうか」

「長い、難しい、眠い、あと雪ちゃん」

 露骨に嫌な顔をしてた夕日乃が真面目モードに変わる。

「なっなんでしょう!」

 こういう夕日乃を前にした白雪の心情はいつも正座モードだ。

「凄く重要っぽい事、最初にさらっと言ったでしょ?」

「なっ何の事でしょう!」

「目で水泳しない!雪ちゃんってサイボーグだったの?」

「そこ?小さい頃お話ししましたけど、たしかにアレだとサイボーグって言葉は使ってませんでしたね。はい、私はサイボーグですよ」

 ほっとした。

「雪ちゃん……ところでサイボーグって何?」

 知らんかったんかい!とツッコミ入れたくなるシーンだけど。

 大人でさえそれをきちんと理解出来てる人は少ない内容ですものね。

 ちょっと迷い、手刀を自分の細っこい首筋に当て――

「簡単に説明しますと首から下を改造して機械にしちゃった人の事ですよ」


 黙って私の両腕をぎゅっと掴み、胸に顔を押し当てる夕日乃。

 膨らみの感触を確かめる様に顔でもふもふもふもふ。

 そして不安そうに胸元から私の顔を見上げ問う。

「雪ちゃんの体ロボット?このおっぱい機械?」

「前も同じ事しましたよね。ちゃんと人間ですよ。ほら柔らかいでしょ?」

「うん、ぽよぽよ」

 向かい合ったまま夕日乃を膝の上に跨がらせる。

「例えば体が弱くて寝込んでる子が、機械の体と交換したら元気に走り出せるようなりました。これは良い事?悪い事?」

「その子が望んだなら、いいと思う」

「うん、私もね、望んで宇宙戦艦になったんですよ」           

「……雪ちゃんは幸せ?」

「もちろん幸せですよ、おかげで……夕日乃に出会えましたから!」


 無言で二人。ぎゅううっと抱き合う。

 お腹の音がなるまで、ずっとずっと抱き合っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る