第8話 宇宙戦艦白雪
白雪に寄り添い座る夕日乃。
ずっと白雪一人が寂しく座っていた艦橋のシート。
いつの間にかその半分は夕日乃の定位置になっていた。
ちょっぴりだけシートが狭くなった気がする。
私達は日々すこかやに成長してゆく愛すべき幼女なのだ。
このシート、殆どカスタマイズ出来ないんですよねぇ。とても不便。
先週末、ハイパードライブモーターを新型に換装したので、そのテストを兼ね土星までハイパードライブ航行をしてみた。
ハイパードライブとは超空間航法。よく知られた呼び方にワープがある。
他にジャンプや次元跳躍とも呼ばれており、光の数千倍で移動する事が可能だ。
その帰路、木星と火星の間に位置する小惑星集中軌道帯。
アステロイドベルトを航行した際、夕日乃の様子に驚愕した。
大小様々な岩塊が浮かぶ小惑星帯の中を航行中、彼女が指先を右へ左へ、上へ下へとひょいひょいと動かすのだ。
何をしてるのかと思いきや、なんとこれから進む軌道の先を的確に指していたのだ。しかも見えないはずの大きな岩塊の向こうまでも!
私は宙域をスキャニングしているから、浮遊する物体の位置や動きを正確にモニターしている。
だが夕日乃は目の前の光景が映るモニターしか見ていない。
モニターにいくつか表示も出るが銀河ユニオン共通語を読めるはずもなし。
「夕日乃?浮いてる岩の場所が解るのですか?」
「なんとなく。あ、大きい穴の石がもうすぐあるよ」
数秒後、ドーナツ状の巨大な岩塊が現れ、そこを慎重に通り抜ける。
穴の直径は190m程、こちらは幅180mで 艦翼ギリギリ。
以前、男児の投げるボールを紙一重でかわしていた。
あのボール躱しもこの子の持つ能力の一端なのだろうか。
この子は、空間認識能力が非常に高いレベルにあると思われる。
おそら超感覚スキル保有者――オーバーウェイカーだ。
オーバーウェイカーとは誰もが持つ感覚の一部が突出した者を指す総称だ。
俗にエスパーと呼ばれる超能力者のように物理干渉能力などの派手なものは少ないが、とても希少な存在である。だがこの鱗片を見せる地球人は意外と多い。
クラリア白の生みの親のクラリア博士もその一人であり、深淵の探求者と呼ばれる唯一無二のオーバーウェイカーだ。
私の知人縁者にも数名存在し、いずれ地球にやって来るので、その時に紹介しよう。ただし少々……いや、なんでもないです。
ちなみにオーバーウェイカーと呼ばれる人々の持つ能力をオーバースキルと呼ぶ。
彼女を育て導こう――
私は遠くない将来、この最愛の存在の元から去る事になるだろう。
この能力は彼女自身を守り、羽ばたく大きな翼になってくれるはず。
そして出来る限り秘匿しよう。何者かに彼女を奪われないように。
例えそれが博士であっても、だ。
現在、火星近域を航行中――遠くに赤い星が見える。
先程から夕日乃がじぃ~っと一点を凝視している。
私のレーダーには何の反応もない……なんだろう。
聞いても判らないと言うばかり。
実際にその宙域をスキャニングしても特に変わったものは無かった。
そのうち見るのをやめてシートの周りをくるくる歩き、再び座る。
「ねぇ雪ちゃん?ずっと気になってたこと、あるの」
「なんでしょう」
「雪ちゃんは、どうやってこのせんかん?うごかしてるの?ここイスだけでハンドルないよ?」
とうとう来たか、その質問が……
「夕日乃はどうやって私が操縦してると思う?」
「わからないから、聞いてるんでしょ!」
幼女に叱られた。
「じゃっじゃあちょっと長くて、難しいかもしれませんけど、お話しするので聞いてくださいね」
「はいっ」
実に良いお返事だ。
「日曜朝にテレビ放送してる宇宙係長タナカーンGXを知ってますか?」
「ふたりでプリクラスーパー5の前にやってる」
「宇宙ブラック企業に機械の体に改造されて、24時間働ける戦士になったタナカさんがザンギョーン帝国と戦う物語で、男の子に人気ですよね」
「うん、しってる」
「タナカさんは頭以外が機械ですが、もしも頭以外がお船だったらと想像してみましょう」
「んんっ?体がお船?」
ちょっと難しいかな?
「つまり、この宇宙戦艦は、改造された私の体なんです」
「えっ?えええーっ?雪ちゃんブラックきぎょうに、かいぞうされたの?でも雪ちゃん、ここにいるよ?」
白雪の頭から、頬、胸、腕、尻、足をペタペタ必死で触り、機械じゃない事を必死に確認する夕日乃。
「大丈夫、この私は改造されてないから安心してね。ブラック企業は関係ありませんけどね……」(ブラック……ある意味そうかも)
「どうゆうこと?」
「体が戦艦だと、こんな風に夕日乃とぎゅっとしたり、ちゅっとしたり出来ません。だから人間の体を作ったんです」
うわー納得してない顔だ。この辺を幼女に伝えるのが難しそうだわ。
「つまりこの戦艦を動かす戦艦姿の私と、夕日乃を抱っこする私。この二人を合わせて星宮白雪、どちらも私なんですよ」
突然幼女がぺったりとうつ伏せになり、手を広げ床面に張り付いた。
「夕日乃?何をしてるの?」
「せんかんの雪ちゃんをだっこしてあげてるの」
戦艦と人間の意識は同調し同一人物化しているので、疎外感も無いのですが、この夕日乃には色々辛抱堪らなくなりまして……
思わず、ちょっと、やらかしちゃいました。
「おっおっ大人の雪ちゃんがいるっ!」
そう、眠らせておいた以前使っていた体を起動させてしまいました。
私はの艦と他に二人までの合計三人分、自分の体を操作できるのです。
これは結構レアな私の持つオーバースキルですよ。
システム補助で普通の人も二人分ぐらいは、すぐ出来る微妙スキルですけどね。
「は~いっ大人雪ちゃんですよ!はあぁ~んっこっちの体でも夕日乃を抱いてみたかったのですよ~わっほ~い!」
「むぐっおっぱい、くるしい……ゆっ雪ちゃん助けて」
必死に手をこちらに伸ばし小さい白雪に助けを求めるも――
「「ごめん夕日乃、両方とも中の人同じだから」」
大小白雪と戦艦(艦内スピーカー使用)で私は一人なんですよ~という事を伝える為、ワイワイと大騒ぎしてしまいました。
まずは判りやすく、夕日乃と小さい私しか知らないであろう事を質問してもらい、大きい白雪と戦艦が言い当てるというクイズ形式。
三人に見えて、実は中の人は一緒ですよ~って所を判ってもらえれば大成功です。
「いつもの雪ちゃんも、おっぱいの雪ちゃんも、せんかんの雪ちゃんも、ぜんぶ雪ちゃん!」
どうやら判ってもらえた。
「じゃあ、せんかんの名前も雪ちゃんだね。うちゅうせんかん白雪だね!」
「「「……宇宙戦艦白雪!」」」
ガツンと頭を打たれたような衝撃を受けた。
すでに私には名前があったというのに、その事実に気付いてなかったとは。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます