第9話 星宮家

 ぶろろん。

 我が家のちょっとオンボロ車が、車庫入れしている。

 宇都宮の大きなデパートへ買い物に行った、利春と白雪が帰宅したのだ。


「パパは荷物下ろして持っていくから、白雪はそれ持って先に上がってなさい」

「はーいっ」


 どうやら父娘の関係は良好のようだ。


「ママただいまですっ」

「おかえり白雪ちゃん、あの子達眠ってるから静かにね」

「うんっ了っ解!」


 しぃ~っと二人で人差し指を口元に立てる。

 するとパパが買い物荷物を抱え、ドカドカと居間に入ってきた。

 もう一回しぃ~っ!


「二人とも何をそんなに買って来たの?」


 またかという飽きれた表情のママを説得する為、そのブツを掲げ力説する白雪。


「見よっこの勇姿! 500分の1スケールの私っ!」


 それは宇宙船クラリア白のプラモデルであった。

 組み上がると666㎜もあるので箱もとても大きい。

 箱イラストは地球を背景にクラリア白とスペースシャトルの勇姿が描かれており、同スケールのノーチラス号とクリアパーツ製のシールドエフェクトまで付属してる。

 実はこれ、プラモデルメーカーがクラリア白に向け、艦のディティールやギミックを教えて欲しいと新聞広告を出し、それに食いついた白雪が船体情報を提供した事により実現した、過去発売されたどのモデルよりも細部に渡り緻密な公式スケールモデルなのであった。

 流石に商品が完成したら自宅に送ってくれという訳にもいかないので、こうして自腹購入したのである。

 ちなみに誰でも白い宇宙船を扱った商売が出来る様に「オール版権ズフリー」を私は宣言してる。

 ただしそれなりに自重はしろというお触れを関係省庁に出してもらってるので、クレーゾーン商品は要注意。

 もしもの場合は衛星軌道からの大口径プラズマビーム攻撃を覚悟せよ。

 

「ふっ……おなごであるママには、このロマンは理解できぬかもしれぬのう」

「で、あるな(信長風)」

「あなたもおなごでしょう……」


 びみょ~な視線を送りながらお茶の準備をするママ。

 

 テーブルにプラモ作りの道具を並べ、父と娘が仲良く作業開始する。


「うぅわっ、特典に私のミニ写真集付きって何よ……プラモ屋なら私のミニフィギュア付けてよね! 今度乗り付けて文句言ってやる」

「白雪、ここのモールドって武器なの?」


 パパは、パーツがびっちりのランナーから、説明書の順番通りにパチリパチリとニッパーを器用に使い、部品を切り離しては色々と質問してくる。


「はい、レーザーバルカンが内蔵されてます。主に対ミサイル、対戦闘機用の迎撃用の武装ですよ。私が得意とする格闘戦だとあまり使いませんね」

「ほほ~すごいな白雪、ここのビーム砲も強そうだなぁ」

「ふふふ~私はまだ姉妹艦と模擬戦しただけで、実戦は未経験なんですけどね」

「ほう、姉妹がいるのかい?」

「はい、戦艦や空母、一緒に作られた姉妹艦です。バカ強いですよ~いずれ地球にも来ますから、紹介しますね……(頭もバカですけど)」

「それは楽しみだ……え? 何か言った?」


 おやつタイムを挟みながら、テキパキと組み立てられてゆくプラモデルの白雪。


「ああ、なんか……パパ」

「どうした?」

「男性の大きな手で、私の体が触りまくられているっ! ああっ……しかもパパの……すごく……大きいです」

「やっやめて、娘がそんな表現するの! そっそういえばこの艦尾の丸いのって何の装備なんだ?」


 パパは必死で話題を変えたつもりだったが……


「ああっ! そっそこは私の丸くて小さな一番大切な部分……そんなに触られたら私……(本当に大切な部分なんですけどね、いわば艦の急所です)」


 左手を口にやり、曲げた小指の関節を噛みながら艶かしく喘ぐ幼女。


「変な会話するの、やめなっっさいっ!」


 ママ激怒で終了……


「そういえばパパ……こっそり買って、こっそり隠してたの、何?」


 娘の指摘に父はギクリッ!

 そして居間から逃げ出そうとするが、ママが退路を断つ。


「これの事かしら?」

「あああーっ」


 オワタ……とガクリと項垂れるパパを前に、非情なる笑みを浮かべながらママが包みを開けると、一緒に笑っていた白雪の表情が凍りつく。


「な、何これ……私なの?」


 それは6分の1スケール「白い宇宙人さん」キャストオフ機能付きのお色気フィギュアであった。購入には年齢制限がある、かなり危険なブツである。

 この危険物発覚により居間が今、公開処刑の場に変わった。裁判などない。


「店で見掛けてつい……出来心です。すみませんでした! 大人白雪の隠れファンでしたぁ!」


 こうして父の威厳が首に縄を掛けられ、処刑台に立たされると即、刑が執行された……見届人は妻と次女。


「まさかこんな物が出ていたとは、キャストオフ機能って……恐るべしエロの探求者。あははは、さすがエロの伝道師、日本人すごいわ~」


 乾いた笑いで胸のパーツを外しながら、死人に鞭打つ娘と妻。


「これは没収し、私の部屋に飾りましょう。それにしてもパパ? 私とお風呂一緒に入ってるのに、作り物のおっぱいまで見たいの?」

「あなた……やっぱり大きいのが好きなのね、知ってたけど!」

「いや、だって白雪はまだ幼女でペッタンコだろ! 秋は気にしすぎだ! けして小さくないぞ」

「ねぇパパ……まさかと思うけど、以前私が発禁指定したハワイの隠し撮り水着写真集とか、持ってないよね?」


 顔面蒼白でぷるぷる目を泳がせる挙動不審のパパ……

 だが――絶体絶命の父を救うかのように泣き出す夏葉と太陽。

 ママが二人の赤ん坊の元へゆく。

 それはやがて笑い声に変わり、星宮家に穏やかな時が流れるのであった。


 ただしパパは正座。


 

 買い物の時、気になった事がある。

 時々、白雪が精算時にカードを差し出すのだ。

 本来なら娘のお金を使えるものかと思うも……


「いいからいいから~」


 と言うので、その言葉に甘え、何となく使わせてもらう事が度々あった。

 例のプラモデルやその他諸々、特に趣味系の品は娘が支払ってるのだ。

 僕はダメな父親だ……つくづく思う。

 でもちょっと気になったので、恐る恐る訊ねてみたのだ。

 カードの中身を……


「以前、スペースシャトル助けた時にアメリカ大統領から貰ったの。一億ドルあげるから自由に使いなさいって。そうそう、先日うちの口座に三十億円ほど移しましたので、自由に使ってください」


 目が飛び出そうなぐらい驚いたが、娘の金銭感覚もすこしヤバい。そんなにもらったら、僕が確実に身を持ち崩すじゃないか。あの凄まじい部屋の様子も含め、ここは父として娘を諭し導かないと!


「あなた? 自動車のカタログ。こんなにたくさん邪魔なんですけど。うちに買い換える余裕なんて無いでしょう?」


 ドサリと置かれたカタログの山。僕がこっそりディーラー巡りして集めたものだ。

 新車は欲しいけれど、家族も増えたし、将来を考えると難しい。


「パパ、グッドタイミングですよっ! 家族も増えたし新車買いましょ!」

「はい……有り難く……」

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