遺書

 正直に言おうか。君に懺悔したい。したいけど、聞かされても困るだろうから、しない。とにかく、あの時あんなことを言わなければ、君は死んでいなかっただろうから、それについて申し訳ないと思っている。

 それともこれは僕の思い上がりで、僕の言動なんて君にさほどの影響は与えてなくて、君が死んだのは僕以外の何かが原因だったのかもしれないし、そうだったらどんなによかったのにとも思う。でも、君が死んでしまったんだからもうこれはわからないし、わかることはこれからもない。

 自己分析、そう君は言ったね。ネットや雑誌に転がっている簡単な方法で自分のことが本当にわかるとしたら、どんなにいいだろうか。結局あんなものはまがい物にすぎないとか、自己分析のやりすぎは鬱につながる可能性があると言われているとか、そういう言葉をかけるべきだったんだと思う。もう遅いか。

 四つの窓がどうとか、他人から見た自分ではわかってない部分とか、とにかくそんな理屈で、君が自分の印象を教えてくれと言った時に、僕は軽率に言ってしまったわけだ。

「目標に向かって実直に努力できる真面目な人間」

 一言一句覚えている。そして、君が死んだのは八月の三十一日だった。なるほど「学生」的な「夏休み」モラトリアムが終わったということだったのかもしれない。君はそこから先しゃかいじんになれなかった。なるほど。

 「もう努力できません」と書きつつも、遺書を書く努力はしたあたりが実に君らしい。

 僕がどうして君の遺書を読んでいるのかって?さあどうしてだろうか。とにかく読んだのは事実だから致し方ない。

 さて、遺書でこれだけ、友人一人に対して枠を割いたのだから、家族についてはもっと割かなくては嘘だろう。

 親愛なる母上、こうして自殺に至ること、まことに申し訳なく存じます。

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