第21話 バルキリー、ガウォークに変形

 26日を迎えた。家に帰るまでが遠足なようにステントを抜くまでが手術なのだ。

 漠然とステントを抜くと言われても4W1Hがすべて明確になっていない。


 When(いつ)・・26日。これはいい。

 Where(どこで)・・手術室?診察室のベッド?それ以外?

 Who(誰が)・・手術した先生だよね?

 What(何を)・・ステントを。

 How(どうする)・・ひっこぬく。


 不明確な”どこ”と”誰”によってその規模が予想できる。診察室のベッドで研修医がちょちょいと出来るレベルから手術台で執刀医が助手を従えるレベルまで。キーワードは退院時に先生の言った、「もう一回頑張ってもらいます。」と「麻酔なしです。」

 どう考えても楽じゃないようだ。

 前回同様、聖飢魔IIの歌に勇気を貰いながら病院へ向かった。


 待合室でただ壁のデジタル時計を眺めながら座っている。毎回思うのだが隣の小児科も皮膚科も、その向こうの耳鼻咽喉科も患者はそんなにいないのに、この泌尿器科だけはいつも患者が多い。そして年配が多い。今日はまた若者になれた。


 *「受付番号1791番の方、中待合にお入りください。」


 私の番だ。


(1791番・・・1,7,9,1・・・ 痛・泣・苦・痛)


 だめだ。既にひるんでいる。


 外来の泌尿器科は診察室が3部屋あり、今日はすべての部屋が使用されているが私の担当の先生の名前は無い。ということは引っこ抜くのは診察室ではない。


 *「こちらへお入りください。」


(尿管・・検査・・なんちゃら室?)

 詳しく見れなかったが、そんな部屋に案内された。


 *「こちらでズボンとパンツを脱いで下さい。上はそのままで結構です。(施術する)椅子がこちらにありますので、脱いだらこちらへお願いします。」


 条件反射のように3人いる看護師さんの”歴史観”を確認してしまう。


(やすらぎ2名、もう一人が子供が小学生くらいのミセス層だろうか。)


 ・・割り切れるかどうかの瀬戸際世代だ。


 脱がないことには進まないので、とりあえずはズボンもパンツも脱ぐ。しかし下だけ脱いだ格好でカーテンの外に出て行くのは全裸よりも恥ずかしい。隠しながら出て行くか、貧弱なまま堂々と出て行くべきか、それともをして出て行くべきか葛藤していたところに、カーテンの裾からそっとバスタオルが差し出された。


 椅子は歯医者さんのような椅子だった。


 *「背もたれが後で倒れますから深く掛けて下さい。」


 なんかスタイリッシュな近代的デザインの電動椅子で、アニメのロボットヒーローのコックピットに座っているようだ。


 *「では、椅子が動きます。」


 うぃぃぃん。(背もたれが倒れた。)

 ぐいぃぃん。(お尻の辺りが持ち上がった。)

 ごぉぉぉぉ。(足が持ち上がった。)

 がぁぁぁぁ。(大開脚。)


 椅子は 「超時空要塞マクロス」の”バルキリー”が”ガウォーク”へ変形するようにかっこいいのだが運転手が下半身丸出し。


 *「消毒で拭いてから、麻酔のゼリーを入れていきます。」


 なんだ、麻酔はちゃんとやってくれるのか。先生が言っていたのは前回のような下半身麻酔のようなレベルはないということなのか。


 今回も目の前は小さいカーテンで仕切られているので向こうの様子はわからないが一貫して対応しているのは瀬戸際看護師さん。まさか、貴女が引っこ抜くのか?


 *「入れます。ちょっと冷たいですよ。」


(ぴ!)


 麻酔のゼリーは尿道から注入していく。入っている感覚はおしっこが出ていく感覚と同じで進行方向が逆なだけだ。


 *「麻酔が効いてくるまでしばらくそのままお待ちください。」



 カーテンのこっち側だけロボットヒーローがスタンバイしている。

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