第15話 不思議な尿意継続中

 術後10時間が経った。腰痛もだいぶ治まりベッドの角度をある程度調整してもよくなったことで、ようやく自分自身がどういう状態になっているかわかった。

 背中に1箇所針が刺さっていて、細い管の先には人差し指くらいのワクチンが入ってそうな筒というか注射器のような形をしたものに痛み止めが入り、左の肩口にテープで固定されている。左手は点滴が繋がっており今は黄色い抗生物質と透明な生理的食塩水のようなのが吊るされている。脚にはなにもついていなく、今は膝も多少なら曲げれる。

 ついさっきまでの膝が曲げれなかった時は本当に思いも寄らないことの連続だった。布団が暑くなってきたので足を出せば温度が冷えるだろうと思い、掛け布団を唯一フリーの右手で手繰たぐり上げたら、今度は寒くなった時に戻せなくなってつま先が冷たくなってしまった。

 布団を捲ってみると紙おむつの中から太目の管が出てベッドの横へ抜けている。その管を動かしてみると帯同する息子の根元まで動いていることが伝わってくるので膀胱までしっかり入っているのだろう。

 この尿道に入っている管というものが今までにない感覚を経験させてくれた。基本的に尿意を催すと自分の意思で排尿し、尿道をおしっこが通っている感覚を実感する。当然我慢をしていると膀胱が張ってくる。それが管をつけているとこうなる。

 腎臓で作られたおしっこは膀胱へ流れる。そしてそのまま管から体外に排出されるが、おしっこの生成量と管からの排出量次第ではおしっこが膀胱に溜まって尿意を感じこともある。この感覚は普段と同じだ。しかしおしっこは自分の意思とは関係なく管から流れていくので、漏れそうという状態まで行かず、私の場合、の感覚が続いた。通常なら時間とともに漏れそうという感覚になるのだがそれが来ない。脳の中では漏れる→出す→尿道をおしっこが通過→すっきりという流れが来るものとして待ち受けているのだがそのストーリーが成立しなく脳が混乱している訳だ。

 こうやって管からおしっこが出ていれば問題ないが、管が詰まってしまったら危険である。なので看護師さん達は絶えず定期的におしっこの色と同時に排出量もチェックしている。おしっこの排出がされずに膀胱や尿管に影響を及ぼして大変なことになるからだ。


 22時の消灯時間の前に検温と血圧の巡回がある。それが終われば今日は少しは寝れるだろう。ほぼ48時間不眠なのだから。


 夜間の担当も引き続き看護師Sさんだった。


 S「んん・・おしっこの量が少ないですねぇ。点滴もう1本追加しましょう。」


 血圧は少し高めで体温も37.1度だった。手術の影響も多少あるだろうが、明日の朝にもう一度調べて下がっていれば特に問題はないでしょうとのこと。

 予定では明朝の回診で尿の管を抜くことになっている。痛いかどうかはもうどうあれ、その頃にはトイレの大きいほうも行きたくなっているはずなので、どうしても便意が来る前に管を抜いておきたい。さもなくばベッドの上で排便になってしまう。そうなれば看護師さんに迷惑をかけることになる。しかも時間的に担当は”おにぎりの恩”がある看護師Sさんだ。おにぎりの恩を糞で返すことだけはあってはならない。


”液体は出すが固体は出さない。”


 今の自分の下半身は正しく理解してくれるだろうか?

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